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早稲田大学「狩り部」の学生と挑む、「農家の獣害問題」 岩井雪乃准教授「狩猟と獣害対策論1」

東京都 講義 セミナー
2024.11.05

【この講義は終了しています】

2024年10月24日、早稲田大学の授業で「狩猟と獣害対策論1」を取材しました。講師は岩井雪乃准教授。この回の講義は、岩井准教授の指導のもと、早稲田大学狩り部の部員たちが参加し、それぞれの体験とそこから学んだことを報告しました。

早稲田大学狩り部の活動

まず、早稲田大学狩り部代表であり商学部2年生の増山さんが登壇しました。狩り部の理念は「活動を通して獣害問題の解決に貢献する」ことだと語ります。
増山さん:「私たちは現在、千葉県鴨川市や山梨県丹波山村でボランティア活動を行っています。鹿や猪を捕獲し、そのお肉を自家消費としていただいています。」
続いて、くくり罠の設置方法について説明がありました。

増山さん:「地面に穴を掘り、くくり罠を設置します。害獣が罠を踏んだ時に仕掛けが作動するように、慎重にバネのストッパーを外す作業が大切です。」
講義では地元猟師さんの指導を受けながら設置を手伝う様子が動画で紹介され、活動の緊張感が伝わってきました。増山さんはさらに、防護柵の設置や草刈りについても説明しました。」
増山さん:「草刈りをすることで、動物が畑に入るのを防ぐ効果がありますが、これも大変で地道な作業です。」
早稲田大学狩り部の活動の一環として、獣害を防ぐための工夫を続けている様子が伺えました。

狩猟の現実に触れる体験

続いて早稲田大学狩り部であり、文化構想学部1年生の川鍋さんが、山に仕掛ける罠の種類や鴨川での体験について話しました。
川鍋さん:「私たちは、様々な狩猟方法を通じて、実際に鹿や猪を捕獲する現場に立ち会いました。鹿がくくり罠にかかった様子を初めて見て驚きました。箱罠では、米ぬかを使って獲物をおびき寄せます。米ぬかの発酵した匂いと猪の独特の匂いが混ざり合い、印象的でした。」

さらに、猟師さんの巻狩りに同行した体験を通じて狩猟の奥深さを実感したと語ります。
川鍋さん:「巻狩りでは、猟犬と一緒に勢子(せこ)が鹿を追い立て、山中で待つタツ(※)が撃ちます。タツの猟師さんが持っていた散弾銃は、思っていたより大きくて驚きました。また猟犬はもっと荒々しいイメージがあったのですが、実際はとても人懐こく、思ったよりも愛らしかったのが意外に思いました。」

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勢子とは:
獲物を追い立て、待ち伏せ役の「タツ」の方向に追い込む役割を担います。地形や獲物の習性を理解し、戦略的に動くことが求められます。
タツとは:
待ち伏せをして、勢子が追い込んできた獲物を仕留める役割を担います。獲物が通ると予測される場所で静かに待機し、獲物が射程内に入ったタイミングで仕留めます。

川鍋さんは、獣害が植生にも影響を与えることを学びました。
川鍋さん:「巻狩りの見学中に見つけたマヤランという花が、絶滅危惧種であることを知りました。鹿が下草を食べ、猪が土を掘り返すことで、この花の生息域が少なくなっているのです。この体験から、獣害が農業だけでなく自然環境全体に及んでいることを実感しました。」

畑を守るため、鹿を捕獲して解体する

教育学部1年生の七里さんも、農業体験を通じて感じた現実について話しました。
七里さん:「実際に猪の被害を受けた田んぼを初めて見たときは驚きました。」
実際の写真では、稲がなぎ倒され、稲穂が食べられている様子が映し出されていました。その後、七里さんは獣害対策の活動にも参加しました。対策の一つとして行ったのは「草刈り」です。野生動物は人に姿を見られるのが嫌なので、草を刈ることで畑に入りにくくなると七里さんは説明します。しかし、その作業の大変さについても語りました。

七里さん:「草刈りは想像以上に重労働です。身長よりも高い草を半日かけて刈るのは本当に大変で、数日後には全身が筋肉痛になりました。電気柵の設置も獣害対策には有効ですが、高さや設置費用がかさみ、維持管理も必要です。畑の収入と対策費がほとんど同じだという農家さんの話を聞いて、驚きました。」
こうした現地活動を通して、七里さんは農業の現実に向き合うようになりました。

七里さん:「小学校の時に経験した農作業体験は、農業の『美味しい部分』に触れる機会です。しかし、狩り部の活動で経験した獣害問題の切実さや、それに絡む社会問題は解決が難しく、農業の厳しさを実感しました。今後は農作業の手伝いを続けつつ、獣害問題の解決にも貢献していきたいと思っています。

命の重さと狩猟の現場

最後に、増山さんが「止め刺し」について語りました。

増山さん:「現場では、ウリ坊が罠にかかっていました。その小さな命を止め刺しするのは、とても辛い作業です。体高が低いウリ坊にナイフを入れるのは難しく、 命の重さを実感しました。スーパーで並ぶお肉の裏側には、こうした現実があるんだと強く感じました。」

増山さんは、命の重さに触れることで、自分の食生活に対する意識が変わったことを話し、講義は締めくくられました。

獣害と狩猟、そして持続可能な社会への一歩

この講義を通じて、履修している学生たちは獣害対策における課題と大学生ボランティアの可能性について学びました。増山さんが語った「狩猟を通じて、地域社会と自然環境を守る取組を続けていきたい」という言葉や、川鍋さんの「自然と人間が共存するための一歩を探る活動をしていきたい」という思いが印象的です。
狩り部の活動は、地域社会と自然環境との共生を目指し、持続可能な未来への一歩を模索するものです。狩り部の学生たちが現地で学び、体験を通じて得た気づきは、講義に参加した学生にとっても新しい視点を提供してくれました。その後のディスカッションでは狩猟や獣害対策について考え、自然と人間が共存できる未来を築くために考える重要な時間となりました。

岩井雪乃氏プロフィール
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)准教授。
専門は環境社会学、アフリカ地域研究。アフリカゾウによる農作物被害問題に取り組む「アフリカゾウと生きるプロジェクト」(NPO法人アフリック・アフリカ)を主宰。著書に『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。』他。
早稲田大学「狩り部」を設立し、学生と農村の獣害問題に取り組んでいる。
データベース;https://w-rdb.waseda.jp/html/100000803_ja.html

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