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高校生が本気で作るジビエ商品で地域活性化「高知市立高知商業高等学校 ジビエ商品開発・販売促進部」

高知県 ハンバーガー ソーセージ シカ イノシシ
2023.02.25

森林率全国1位の高知県では、鹿や猪など野生鳥獣による農作物への被害が深刻な課題になっています。そんななか、ジビエについて広く知ってもらいたいと活動する高校生たちがいます。高知市立高知商業高等学校 ジビエ商品開発・販売促進部(以下、ジビエ部)の皆さんです。

創部から5年、現在は22名の部員がジビエを利活用した商品開発や販売活動を行っています。写真左から、副部長の佐竹 佑斗(ゆうと)さん(2年)、同じく副部長の谷脇 歩果(たにわき ほのか)さん(2年)、部長の池知 美優(いけじ みゆう)さん(2年)、企画部長の寺田 依織(いおり)さん(2年)の4名と、顧問の佐々木 翼先生にお話を伺いました。

課題研究がジビエ部発足のきっかけに

ジビエ部の発足は、顧問を務める佐々木先生が2017年、担任するクラスの生徒に地域課題研究の授業で商品開発をしてみたいと相談されたことがきっかけだそう。
「私自身、狩猟免許を持つハンターだったこともあり、野生鳥獣による被害については以前から知っていました。そのため、ジビエを活用して野生鳥獣被害の解決につながるような商品開発にしてはどうかと生徒たちに話をしたところ、興味をもった5名の生徒が手を上げて活動が始まりました」と佐々木先生。

初年度は授業の一環としてジビエ商品を作るための開発準備を行い、2018年には商品開発と販売促進活動を本格化。2019年には同好会、2020年には部活動として学校から認められました。販売活動で得られた利益は、野生鳥獣被害を受けた森林の保護活動に寄付をしており、2022年度は40万円を見込んでいると言います。

商品開発・販売促進・企画。3つの組織で活動を円滑に

普段の活動は、商品開発課、販売促進課、企画課の3つの組織に分担。
「商品開発課は、リサーチをしてどんな商品を作るかを決め、高知市内の企業に商品化してもらえるよう提案するのが主な活動です。2023年度は、初の県外コラボレーションとなる北海道北見市とのコラボ商品の開発を予定していて、今はその商品化に向けてチーム一体となって取り組んでいます」と佐竹さん。

商品化をするに当たって大切にしているのは、お客様の声だと部長の池知さん。
「販売活動をとおして500人の方にアンケートをとったところ、約4割の人がジビエは苦手と回答されました。そのうち、8割の人からほかの肉を混ぜたら食べやすそうという声が。その意見を参考に、鹿や猪の肉だけでなく、高知県産の土佐あかうしや四万十ポークを加えて作ったのが、『土佐オールスター☆ソーセージ』(4本入り800円・税込、写真上)や『土佐オールスター☆ハンバーガー』(500円・税込、写真下)です」
どちらの商品もとにかく食べやすさにこだわったもの。「ジビエを食べたことがない人にこそ、ぜひ味わってみてほしい」と教えてくれました。

販売促進課は、年間60回にも及ぶ販売活動をいかにスムーズに行えるよう準備を整えるかが活動の要。「消費量をどのように増やせるか」「どのくらいの量ならば、売り切ることができるか」など、目標金額を達成するために細かな調整や工夫も欠かせないのだとか。

販売促進課にはもう一つ、県外での販路を拡大するという重要な任務も。
「商談会に参加して自分たちが作った商品を企業の担当者にPRし、商談を成立させる役割です。夏休みには、東京ドームのVIPルームで私たちが開発した鹿肉ジャーキーが提供されたので、調理関係の方々に挨拶にも行きました」と谷脇さん。

スケジュール管理や販売・売上の管理などを担当するのは企画課。それに加えて、校内で発行する「ジビエ通信」の制作も行っていると教えてくれたのは、寺田さん。
「学校の中には、ジビエを知らない人もたくさんいます。私たちがどんな活動を行っているかがわかってもらえるようにまとめたものを毎月1回発行しています。他にも、Instagramで活動の様子を紹介することも。イベントなどに、『Instagramを見て来ました』と言ってもらえるように頑張っています」

初のクラウドファンディングで、全国からの支援に感謝

多くの活動のなかでとりわけ印象に残っていることを尋ねると、2021年に行ったクラウドファンディングという声が返ってきました。コロナ禍で思うように販売活動ができず、寄付金を集めることが難しいと判断し、森林保護を呼びかけるクラウドファンディングに初挑戦。

100万円の目標設定に対し約140万円の支援が集まり、そのうちの30万円を地元の自然保護団体に寄付、森林の保護活動に貢献することができました。
「協賛してくれた皆さんの支援がなければ、寄付はできませんでした。返礼品として鹿革のコースターを部員全員で手作りすることにしていたのですが、予想を大きく上回る数となり、コースター作りでシャープペンシルを握れないくらい手が痛くなりました(笑)。大変でしたが、全国の人が応援してくれていることを知り、本当にうれしかったです」と池知さん。

同年は、高知市役所2階の食堂「せんだんの木」で、食堂のスタッフと共にメニューを考案。「イノシシカレー」や「イノシシメンチカツ」、「鹿肉入りのオムライス」などを厨房で一緒に調理し提供しました。

販売活動での失敗から得た学びで、翌年は大成功

さまざまな活動を行うなかでは、反省点も。
「2021年12月に開催された『狩猟フェスタ』に出店した時、丸1日の予定で商品を用意していたのですが、午前中だけで商品が完売。午後は売るものがなくなってしまったことがありました」と寺田さん。
「狩猟フェスタ」は、それまで経験してきた一般の方向けの販売活動とは異なり、狩猟やジビエに興味がある人が大勢集まるイベントです。部員たちは、予想外の販売スピードに驚くばかりだったと言います。

「狩猟フェスタの経験をもとに、翌年は商品の数を増やし、部員総出で販売活動を頑張りました。その結果、しっかり売り切ることができました」(寺田さん)
この年、狩猟フェスタでの売上は23万5000円、販売活動のなかで最も利益が高いイベントとなったそうです。

ジビエ部は、2022年の「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」で特別賞(ジビエ賞)を受賞しました。「ディスカバー農山漁村の宝」は、農山漁村が持つポテンシャルを引き出し、地域の活性化や所得向上に取り組んでいる優良な事例を選び、全国へ発信して他地域への波及をはかる農林水産省主催の取り組みです。年末には、首相官邸で行われた選定証授与式にも出席し、高知市長への表敬訪問も行いました。
「賞をいただいたことで、それまでの自分たちの活動が認められた気がしました。ジビエを幅広く知ってもらえる機会になったらうれしいです」(佐竹くん)

現在、ジビエ部のみなさんには実現したいことがあるそう。
「コロナ禍で販売活動が制限されてしまい、テイクアウト商品が少なくなってしまいました。以前、人気メニューだった鹿カレーパンも今は作ることができていません。まずは鹿カレーパンを復刻させて、食を充実させたいです。さらに、動物の毛や皮などの活用にも挑戦したり、ゆくゆくは海外でも活動してみたいという大きな夢もあります。それを叶えるために、まずは県外に向けて活動の幅を広げていきたいです」(池知さん)

最後に、2023年度の活動に向けた目標を佐々木先生に伺いました。
「高知県では、耕作放棄地が大きな課題の一つになっています。その一つを、市の協力を得て借りることができました。そこで野菜を育てて、ジビエと共に高校生レストランで提供できるようにしたいと考えています。野生鳥獣被害の対策につながると共に、野菜を作ることで県産品を県外に広めることにつなげていければ」

授業の中での課題活動から生まれたジビエへの取り組みは、今や大人顔負けの活動にまで成長。この先も後輩たちへと受け継がれ、さらに大きく広がっていきそうです。

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