2020年3月、無印良品の手がけるカフェレストラン「MUJI Diner銀座」をはじめ、全国31店舗の「Café&Meal MUJI」で「ジビエカレー」の通年提供が開始されました。
それまで店舗限定、期間限定での販売だった「ジビエカレー」が、ランチタイムの定番メニューに仲間入りを果たしたのです。
「MUJI Diner銀座」の「ジビエカレーセット」(サラダ・小鉢・漬物付き1,250円・税込)は、大きめに挽かれた肉には猪肉が50%、豚肉が50%使われています。
そんな「ジビエカレー」の仕掛人が今回お話をうかがった河合 祥太さん。良品計画営業本部販売部外食担当、そして地域創生協議会ジビエコーディネーターであり、これからの日本の食文化政策を担う一般社団法人食文化ルネサンスのメンバーでもあります。
狩猟免許を取得して、現場で何がどうなっているのかを知った
エスニックレストラン「Monsoon Cafe(モンスーンカフェ)」で13年、調理を担当していた河合さんでしたが、インテリアショップのアクタスが運営するカジュアルフレンチレストラン「SØHOLM(スーホルム)」で働き始めた時に、ジビエと出会います。
「ジビエの魅力は飼育されていない、自然な環境のなか、自然由来のものしか食べて育っていないことなんです」と河合さん。
その当時、レストランで提供するジビエメニューのほかにも、ジビエの缶詰を開発したほか、なんと狩猟免許も取得したそう。
「生産者、産地と繋がるために、実際に足を運ぶことが必要なんです」
全国各地の鳥獣被害は実際にどうなっているのか、そこで捕獲された猪や鹿がどう扱われているのか、猟師や食肉処理施設ではどのように対応しているのか、そしてどのような問題があるのか…。自分がジビエを扱ううえで確かめたいことを、自分の実体験として知るためでした。
商品開発の能力はもちろん、ジビエを取り巻く現状に対する知識、ネットワークを見込まれた河合さんは、3年前に「良品計画」に入社。入社後間もない2018年4月、大阪の「Café&Meal MUJI イオンモール堺北花田」で「ジビエカレー」を期間限定で販売しました。
「無印良品のジビエカレーはどうあるべきか」を考えた商品開発
無印良品といえば、バターチキンカレーやグリーンカレーなど、40種類以上のレトルトカレーで知られていますが、ジビエを使用するカレーは初。さぞや商品開発は難しかったのではないかと訊いてみると…。
「そうでもないですね。結構すぐにレシピは決まりました」と河合さん。
フレンチやイタリアンのレストランにジビエを目的に訪れる人たちではなく、お子様連れからOLに主婦、シルバー層まで幅広い人たちが訪れるのが無印良品のカフェレストラン。「だから当社のお客様にとってジビエカレーとはどういうものがいいか、と考えました」
その結果、ジビエらしさを前面に打ち出すのではなく、猪と豚を半々で使うことで、馴染みやすさを演出。ただし、「ジビエカレー」と銘打つだけに、肉の食感、肉らしさを感じられるように粗挽きに。
「また、健康志向のお客様に向けて、数種類の豆を合わせました。スパイスを数種類使っていても、豆の甘味が辛さを和らげるため、お子様でも喜んで召し上がっていただけるようになっています」
無印良品がジビエに取り組む社会的意義
ではなぜ、無印良品がジビエを扱うことになったのでしょうか?
「もともと無印良品には、もったいないものをなくす、無駄なく使うという精神があるんです」と話す河合さん。
規格外として廃棄されてしまう食品を市場価格よりも安価に提供してきた実績のある無印良品。最近では、近い将来に訪れると言われる世界規模の食糧危機への対策として、「コオロギせんべい」を発売したことも話題となりました。
「ジビエとは、農地や森林を荒らす猪や鹿などの獣を捕獲して廃棄するのではなく、食材として利用するもの。それは無印良品の理念に合致しているんです。また、地域の鳥獣被害で苦しむ生産者さんたちのために、例えばジビエ商品の開発や施設補助、衛生管理の指導など、地域に貢献できることはないか、無印良品では常に考えています」
ただし、無印良品としてジビエに取り組むからには、自らが定める品質基準をクリアすることが必要。また、本格導入にあたっては一定の安定供給を確保する必要がありました。そのため、河合さんはあらためて全国各地の食肉処理施設や狩猟の現場を回ってきたとのこと。
「HACCP(厚生労働省が定める衛生管理基準)の上を行くくらい、うちでは安全性については厳しくしています」
そして、仕留めてから1時間以内に解体、食肉加工ができる体制を確保しているため、品質のいいジビエを使うことができるとも教えてくれました。
現在は、2021年度の発売を目標に新しいジビエ商品を開発中の河合さん。
「今発売中の『ジビエカレー』は、いわばエントリーモデル。一人でも多くの人に“ジビエ”というワードを届けるためのメニューです」
そして今後は、「ジビエ」としてひとまとめにするのではなく、「猪肉」「鹿肉」として、その魅力を発信していきたい、とのこと。
無印良品ならではの品質を誇るジビエ商品、さらなる飛躍を期待できそうです。