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命を無駄にしない――。奥能登にジビエを根付かせた伝道師、ジビエ利活用アドバイザー・福岡 富士子(「狩女の会」主宰)

通販・お取り寄せ 革製品
2021.03.07

石川県穴水町は、海と山に囲まれた奥能登地方の小さな町です。近年まで奥能登には猪はほとんど生息せず、ジビエには縁遠い町でしたが、今では道の駅には猪カレー、スーパーの肉売り場には普通に猪肉が並んでいます。その仕掛け人が、”ジビエふじこ”さんこと、ジビエ利活用アドバイザー・福岡 富士子さん(以下、ふじこさん)。

農林水産省ジビエ利用拡大専門家チームの構成員で、担当は消費拡大。ハンターでもあり、革細工や料理教室の講師も務めながら、ジビエ利活用アドバイザーとして講演や商品開発の相談に飛び回っています。今回はそんなふじこさんに、ジビエの魅力と利用推進の取り組みへの思いを伺ってきました。

「もったいない」から生まれた革製品で注目!

2010年に石川県金沢市で革細工教室やカフェを開いたのが、ジビエとの関わりの始まりでした。2012年に白山市旧河内村の山間部に移住し、2013年に革製品の製作や教室を手がける「CRAFT WORKS ER(クラフト ワークス イーアール)」を創業。2014年に自身も狩猟免許を取得し、より深く狩猟に関わっていくうちに、害獣駆除で多くの鹿や猪が山に捨てられている現実を知りました。

「こんなに美味しくて役に立つ命が捨てられるのはもったいない。なんとかして生かせないだろうか?」と、手さぐりでさまざまな取り組みへの挑戦を続けてきました。
「命を無駄にせず、自然と共生していきたい」その想いが、一生かけてこの分野に取り組もうという原動力になったそうです。

なかでも、県産の猪と鹿の革で作った製品を「isica(いしか)」(※「石川の猪と鹿」の意)というブランド名で発表した商品が、石川県の主催する「いしかわエコデザイン賞2016」で銅賞を受賞。同時期に設立した、狩猟に関わる女性の団体「狩女(かりじょ)の会」と共にメディアからも注目を集め、狩猟やジビエの情報発信にひと役買い、ジビエ利用の相談などが舞い込むように。現在の“アドバイザー”として活動の幅を広げていったのです。

「狩女の会」は、女性ならではの目線で鳥獣被害対策によって駆除された命の活用法を探っていこうと、2016年に数名のメンバーで結成。女性ハンターをはじめ、ジビエ料理好きの女性らが集まる団体です。狩猟部、ジビエ料理研究部、広報部からなり、現在全国に約50名の会員がいます。同会開発の「猪ジビエカレーKa!Rijo(カリージョ)」なども発売中。立ち上げた本人であるふじこさんは主に広報を担いながら、会員の新人ハンターの悩み相談などにものっているそう。

2018年に穴水町へ移住し、事業名を「Fujiko Factory(フジコ ファクトリー)」に変更しました。奥能登の山間部ではこれまでいなかった猪が急増し、農作物の被害に悩まされているという相談を受けます。

当時は食肉処理施設もまだなくジビエ利用に馴染みのない奥能登で、自分の経験を生かせるのではないかと思い立ち、移住を決意。海の近くに住みたいという憧れをずっと抱いていたことも、背中を押すきっかけとなりました。

移住後は、ハンターとして銃猟を一旦置き、わな猟で害獣駆除に携わりながら、能登各地で革細工やジビエ料理の教室を定期的に開いており、ほかにも県内の教室は金沢市や白山市で続けています。

地域の学校などでの講演会も数多く行い、自然の恵みや命をテーマにした講演は幅広い世代から共感を得ているそうです。

ふじこさんを訪ねたのは革細工教室の日でした。会場の「蔵カフェ菜々(さいな)」は港のそばに建つ古民家カフェです。

オーナーの森山 美奈子さんは、ふじこさんが移住してきて出会って以来、ジビエの美味しさを知り利用促進に賛同、カフェのメニューにも取り入れています。
「定休日なら、教室を会場にしてもらって革細工やジビエ教理の体験をきっかけに、地元の人たちに楽しんでもらえたらうれしい」という気持ちで会場を提供していると森山さん。地道な活動が賛同の輪を広げてきました。

革細工教室で使う鹿や猪の革は、発色もよく触り心地もよいのが特徴。

ふじこさんは生徒さんの希望を聞きながら、素材選びや型の取り方などを丁寧にアドバイスしていきます。

地元で獲れた猪肉を利用してハムを作ったり、家庭で美味しく食べられるジビエに適した料理をみんなで作って試食をしたりする料理教室は好評を博しています。

スーパーでジビエが買える町。次なる一手は…

移住から2年、念願の食肉処理施設も穴水町に完成し、販売ルート確保にも尽力した結果、農地で駆除された猪の肉を地元スーパーで常時販売できる流通の立ち上げを果たしました。「狩女の会」からの商品として開発した「猪ジビエカレーKa!Rijo(カリージョ)」も道の駅で販売されています。

「ジビエの魅力はなんといっても美味しさ。さらに高タンパクなのに低カロリーなので、妊活などには理想のお肉なんです」とふじこさん。女性の健康にはうってつけの食材と語りながら、ふじこさん自身45歳で出産を経験し、貧血が治り、肌がきれいになったことから、ジビエが体力維持にとても効果的だったと振り返り、健康食材としての可能性と、次なる一手に思いを巡らせています。

2020年7月には、YouTubeチャンネル「ジビエふじこGibier Fujiko’s Channnel」を開設しました。前向きで明るい人柄と、熱い思いで突き進むふじこさん。今後も新しい流れを生み出し、ジビエ活用の輪が広がっていきそうです。

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