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わざわざ訪れる価値がある。手間と時間と情熱が醸成する至福のフレンチ「オーベルジュ・エスポワール」長野県茅野市

長野県 フレンチ ステーキ・バーベキュー シカ イノシシ ランチ コース
2021.11.17

長野県の蓼科(たてしな)高原。蓼科山南麓に位置し、蓼科山や八ヶ岳を望むこの高原は、避暑地としての歴史も古く、多くのレジャー施設を有する日本有数のドライブルートとしても知られています。

今回ご紹介するのは、その蓼科高原で、季節ごとの旬の味わいを存分に楽しめるフレンチレストラン「オーベルジュ・エスポワール」(以下、エスポワール)。

地元の農家から直接仕入れる、シェフこだわりの食材がふんだんに使われたフランス料理店として多くのファンに愛されています。

メインダイニングは一面に窓が配され、自然の中で食事をしているかのような解放感。桜の季節には目前に迫る桜花を、紅葉の季節には赤・黄色・緑と色とりどりの秋色を、四季折々の風情をダイナミックに楽しめる空間です。

長野県産ジビエのブランド「信州ジビエ」への関わり

「エスポワール」は、国内ジビエ料理の第一人者として活躍されている藤木 徳彦さんがオーナーシェフを務め、長野県を代表するブランド「信州ジビエ」の取扱店のひとつでもあります。

東京出身の藤木シェフが、蓼科とその周辺地域の豊かな自然に育まれた食材に惚れ込み、この地に「エスポワール」をオープンしたのはおよそ20年前。

春は山菜、夏は高原野菜、秋は天然キノコや山栗など、市場に出回らない地元ならではの素晴らしい食材を求め、最高の状態で料理を提供する日々を送っていました。しかし、開業1年目の晩秋、予想しなかった状況に直面します。畑も野山も冬支度を始めると、地元の新鮮野菜などが姿を消してしまいます。冷涼な冬の信州は寒さと雪に閉ざされ、“旬の食材”がなかったのです。

頭を抱える藤木シェフに、希望の光をもたらす転機が訪れます。開店当時から足を運んでくれていた地元の常連客が「11月の狩猟期が始まると、猟師のおじいさんが鹿を獲ってくる。鹿肉はかたくてパサパサしていて美味しくないので、なかなか消費できず冷凍庫にどんどん溜まっていく」と言うのです。

当時、レストランで提供していた鹿肉はニュージーランド産や蝦夷鹿など。「この地域で獲れる鹿には何か問題があるのだろうか?」と疑問を抱いた藤木シェフは、その常連客に地元産の鹿肉を分けてもらい調理をしてみたところ、それは、ただただ美味しい肉でした。

これがきっかけとなり、藤木シェフは地元で獲れた鹿肉を「エスポワール」の冬場の名物として、ジビエ料理の提供を始めました。その後、信州産の鹿肉が長野県を代表する食材としてブランド化を遂げ、「信州ジビエ」として広く認知されることとなっていったのです。

安全で美味しいジビエ料理を多くの人に届けたい。その情熱が原動力に

良質な食材を求め頻繁に生産者の元へ足を運んだ藤木シェフは、親交を深めるうちに鳥獣被害に苦しむ生産者たちの悲痛な声を頻繁に耳にするようになります。当時はまだ捕獲された野生鳥獣の利活用という概念がなく、ほとんどは食肉として市場に流通されることがない状況でした。

一方で、ジビエ料理提供のために仕入れるニュージーランド産や蝦夷鹿の鹿肉はたいへん貴重であり、高コスト。長野県の鹿肉の価値を高めるために藤木シェフは奮起。野生鳥獣肉の安全性を確保するための「信州ジビエ衛生管理ガイドライン・衛生マニュアル」「信州産シカ肉認証制度」について長野県と共に制度化に向けて尽力しました。

「肉も骨も一頭無駄なく使いきり、命に感謝を捧げる」と語る藤木シェフ。地域ならではの食材を大切に、その魅力を広めたいという情熱は、自身のレストランでの料理の提供だけに留まらず、「日本ジビエ振興協会」を設立。自ら代表理事も務め、同協会の常務理事・事務局長の鮎澤 廉(あゆざわ れん)さん(写真左)ら仲間と共に、各地で鹿肉の特性に合った調理方法から鹿肉の美味しい食べ方、ジビエ文化を広める活動も始めました。

また、安全安心な国産ジビエの消費拡大を目指すため、ジビエの利活用に関する研修会の開催や情報提供、さらに「国産ジビエ認証制度」の制定へと発展していきました。

こだわりの食材が織りなす珠玉の料理

「エスポワール」ではランチ・ディナー共にコース料理を提供していますが、今回ご紹介するのは、コースに登場するメイン料理の一例です。国産ジビエランチコースは11,000円、国産ジビエディナーコースは19,800円(各税込)で味わうことができます。

こちらは「鹿肉のブロシェット 天然きのこソテー添え・ジビエの赤ワインソース」。
“ブロシェット”とは串に刺した料理で、今回は鹿肉のミンチに細かく刻んだゆでた猪の皮がアクセントになっています。串は、塩尻のワイン用ブドウの剪定した枝を活用し、枝の焼けた香りを肉に纏わせるというフレンチスタイルのバーベキューにヒントを得たもの。

躍動感あるミンチを包む猪肉のスライスは、極薄ながら確かな存在感を放ち、豚の網脂がなめらかな口当たりとふわりととろける甘味を添えています。これらの食材の織りなすハーモニーは網脂の軽やかさとミンチの重厚さが一体となって、ひと口進めるごとにため息がこぼれます。

さらに驚かされるのは下に敷かれたジビエソース! 20本以上もの赤ワインとジビエの骨だけを数日間煮詰め、塩すらもいっさい加えることなく、骨の髄から旨味を凝縮して作り上げるそう。奥行きのある複雑な味わいの重なりがブロシェットと見事に調和。

添えられているのは天然キノコのソテーで、この日はイロガワリ、アカヤマドリタケ、ハタケシメジ、ヌメリスギタケモドキ。力強い味わいのジビエの横にあって引けを取らない豊かな個性と存在感。信州の秋の山の幸による珠玉(しゅぎょく)の競演です。

二品目は、見た目もダイナミックな一皿、「マルカッサン(仔猪)のグリル パースニップのピューレ添え」。

生後半年から1年弱の仔猪はやわらかな肉質で、フランスでも親しまれている食材。こちらは骨付きロース肉を炭火でじっくりと焼き上げ、余分な脂を落としてこんがりとした食感に。付け合わせのパースニップとは、白いニンジンのような姿をしたセリ科のフランス野菜で、セリとゴボウを合わせたような芳香と甘味が特徴。深い味わいのジビエに好相性の冬野菜です。

ジビエと共に楽しみたいワインも豊富。地下のワインセラーには常時3,000本ほどのワインストックがあり、その7割はフランス産、1割は最近注目を浴びている日本ワインをそろえ、ソムリエがその日の食材や料理に合ったワインを薦めてくれます。

“希望”を意味するフランス語が店名の由来である「エスポワール」。国産ジビエの発展を牽引し続ける藤木シェフの心に宿る希望の光が照らすのは、安全安心で最高の食材を使い、美味しい料理を届けるという確固たる信念…。食材としっかりと向き合い、見極め、最高の状態で表現する藤木シェフ渾身の料理と非日常の空間でのひと時は、心からの満足と癒しを与えてくれるはずです。

  • ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
  • 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。
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