学生によるジビエ利活用のプロモーション~鹿肉を使ったメニュー開発試食会レポート~
大学生による体験コンテンツプロモーションの一環として、 横浜国立大学の学生が、オリジナルジビエメニュー開発に挑戦!その試食会が東中野「燻製ダイニング 5(ファイブ)」にて開催されました。
参加したのは横浜国立大学経営学部の真鍋誠司教授ゼミナールの2年生男女7人。彼らは2023年10月からプロジェクトをスタートし、ジビエについて座学で学び、北海道のジビエの食肉処理施設を見学したり、レストランでジビエ料理を味わったりと、解体・精肉から食べるところまでを体験し、料理に挑戦しました。
このプロジェクトの運営にも携わった、横浜国立大学経営学部4年生でありディアベリー株式会社代表取締役の渡辺洋平さん(愛称:鹿くん)は、「ジビエは40~50代にファンはいるものの、若者への浸透はまだまだ十分ではありません。そこで若い視点で情報発信を行うため、真鍋ゼミナールの2年生に協力してもらいました。農学専攻ではない経営学部の学生というところがポイントで、ジビエの知識がない学生たちに関心を持ってもらうことを重視しました」と狙いを話します。
大学生はAチーム3人とBチーム4人に分かれました。
Aチームは「鹿肉本来の味を知ってもらい、鹿肉の魅力が伝わるメニュー」
Bチームは「鹿肉をもっと身近に感じてもらうメニュー」
をコンセプトに2品ずつ料理を考えました。
試食に参加したのは一般の男女約20人。ほとんどの人がジビエを食べたことがあり、6割程度が鹿肉にいい印象を持っている一方、4割程度はネガティブなイメージを持っているとのこと。学生たちはそのイメージを変えることができるのでしょうか?
鹿肉の脂身がトロットロに口の中で溶けて…
1品目はAチームが作った「鹿肉ロースのオーブン焼き」。
サイコロ状のロース肉に下味をつけてからオーブンでこんがりと焼いたもの。赤身・脂身・両方合わさったものの3種類を調理しています。面白いのは「賞味期限1分」と注意書きが付いていることで、担当した女子学生によれば…。
「鹿肉の脂って、温かいうちはすごいトロットロで、甘くて美味しいので、ぜひ味わっていただきたくて。脂の嫌いな人はそぎ落としちゃう部分ですが、あえて大胆に残しました。ただ、冷めるとすぐに固くなってしまいます。1卓ずつ回ってバーナーであぶるので、温かいうちにお召し上がりください」とのこと。
早速、あぶってもらった直後に脂身から食べてみると、本当に口の中でとろけていきます。実は記者は脂身があまり得意ではないのですが、これは脂身特有のこってりした感じが無く、バーナーであぶった香ばしさもあって、あっさり食べられたのが不思議。こんな調理法を見つけた学生さんに感心です。
赤身は牛肉に近くて安定の美味しさ。下味は醤油、はちみつ、お酒、ケチャップ、ウスターソース。単純な和風ではないと感じたのは、ケチャップ、ウスターソースが効いていたんですね。大胆な和洋折衷も、若い世代ならではの発想でしょうか。
人気のアヒージョを鹿肉で作ってみると…
2品目はBチームが作った「鹿肉のアヒージョ」。
部位はすね肉を使っており、ミニトマト、ブロッコリー、マッシュルーム、カマンベールチーズとともにオリーブオイルとニンニクで煮込んであります。
アヒージョは魚介のイメージが強いので、鹿肉とは意外。とろけたチーズとオリーブオイルと絡めて食べてみると、なかなか合います。アヒージョという人気メニューに用いることで鹿肉を身近に感じてもらう狙いなのですね。
印象的なのは固いイメージのすね肉なのに、口に含むと、ホロリとほどけて軟らかいこと。担当した男子学生に聞いてみると「焼き目を付ける前に、圧力鍋で圧力をかけて煮込んで軟らかくしました」とのこと。元々料理に興味がある学生さんだからかも知れませんが、丁寧な仕事に驚かされました。
この料理にはバケットとアボカドソースも添えてあり、アボカドソースがはちみつで甘くしてあるのも斬新。ニンニクの効いたアヒージョの後に、デザートのようにも楽しめると思いました。
濃厚なきのこソースが鹿肉のローストと、がっつり勝負
3品目はAチームによる「鹿肉のローストときのこソース」。
内モモ肉のスライスを低温調理したもので、そばに小皿で添えたのは、5種類のきのこの濃厚なクリームソース。
「煮込んだりしないので、そのままでも軟らかい部位として、内モモ肉を選びました。鹿肉の美味しさを知ってもらうために、肉には何も味付けをしていません。きのこソースとの相性が抜群なので、たっぷりつけて召し上がってください」と担当の男子学生。
言われた通り、ソースをたっぷりつけて口に含むと、ジビエ独特の野性味と濃厚なきのこソースがぶつかり合って、実にいい勝負。きのこソースの味の深さにも満足感を覚えます。
「ベースは生クリームで、最後にチーズを加えてとろみとコクを出しているのと、コンソメも使っています。きのこは5種類で、舞茸、エリンギ、しいたけ、しめじ、マッシュルームが入っています」
全てスーパーマーケットで手に入るような、お馴染みのきのこだけで、こんなに深い味が出るとは新たな発見。家庭でも頑張れば作れるかも…という気になります。
心憎いのが、肉の皿に一つまみ添えてあった塩。
「シンプルに鹿の味だけを楽しみたい方のことも考えて添えました」
確かに塩でさっぱり食べる鹿肉も美味しくて、捨て難いところ。結果、ソースで食べては塩で食べて…と、交互に箸が進んだのでした。
ニューヨークの屋台で人気のオーバーライスを鹿肉で
4品目はBチームによる「鹿バラ肉のオーバーライス」。
ニューヨークの屋台で人気のチキンオーバーライスは、サフランライスの上に焼いたチキンとトマトやレタス、玉ねぎなどの野菜をのせてドレッシングをかけた、サラダ感覚のメニュー。これを鹿バラ肉に置き換えたもので、細かくカットした鹿肉がたくさんのっています。
担当した女子学生は「もともとチキンオーバーライスの味付けが好きだったので提案しました。カレー粉などのスパイシーな味付けは鹿肉にも合いますし、チキン以上に存在感があるので、肉々しさのあるオーバーライスも美味しいなって感じました」
ただ本場のオーバーライスと違うのは、半分はスパイシーな味付けで、半分は塩コショウだけで味付けした鹿肉がのっていること。「それならシンプルな鹿肉の味も伝わるんじゃないかって他のメンバーが提案してくれて。自分は思いつかなかったので、いいアイデアでした」
いただいてみると、それぞれ違った味わいが2種類食べられるので、お得感があります。改めて感じたのは、鹿肉と生野菜&ドレッシングの相性の良さで、さっぱりとした中で鹿の味が伝わってきます。日本では“カフェめし”のジャンルに入ると思いますが、カフェでも手軽にジビエ料理を提供できる可能性を感じました。
若い世代がジビエ界に刺激を与える!
試食会の参加者たちからは「それぞれのメニューがよく考えられていた」「鹿肉は臭くて食べにくいという印象がありましたが、とても食べやすかったです」などの好意的な意見が目立ちました。
学生たちからは「処理施設では、狩猟された鹿が1体運ばれてきて、吊るされて、解体されて肉になるまでを見学させてもらいました。職人さんの処理が速くて、わずか15分ぐらいで解体作業をされており圧倒されました」「鹿肉の良さを見つけて活かすことをじっくり考えることができたのは、経営学的にも、商品の良さを伝えていく勉強になりました」「家でも鹿肉を切る練習をして、500枚以上は切りました。もしかしたら精肉店に就職しちゃうかもしれません(笑)」などの声ととともに充実した表情が伺えました。
ゼミの真鍋教授も「学生が自分たちで調べてアイデアを出して、メニューが重ならないようになど考えて、作って、食べてを繰り返す中で、彼ら自身の成長につながったと思います。試作の時も美味しかったけど、さらにブラッシュアップされていて、我がゼミ生ながらあっぱれです(笑)。みんなで北海道に行ってチームワークも良くなったので、指導教官としても大変ありがたい試みでした」と意義があった様子。
農林水産省鳥獣対策・農村環境課課長補佐の矢永さんも「オーブン焼きはバーナーを使うと気分も上がりますし、提供の仕方もアミューズメントになっているのが、若い方ならではの発想だと感じました。こうして若い世代がジビエ料理を作ることで、ジビエがその世代にも広がっていき、鳥獣被害やジビエなどの問題を身近に考えてくれるようになっていくことを期待しています」と手応えを感じていたようでした。
今回、鹿肉の準備や処理施設の見学など、コーディネーターを引き受けたのは食品衛生管理者の鵜沼明香里さん。大阪で鹿肉料理のキッチンカーを運営していましたが、鹿肉好きが高じて北海道に移住し、解体と精肉にも携わるようになりました。
「精肉処理の過程は、学生さんたちにはショッキングな場面だったはずで、口数も少なく見ていました。ただ、普段お肉を食べていても、どういう過程でお肉が出来るのかは分からないので、それを見てもらえたのはいい経験だったと思います。テンプレートでいうと『命のありがたさ』みたいなことになってしまいますが、それだけでは表せないような感情を抱いてくれたと思います」
鵜沼さんは25歳で、学生たちともさほど年齢は変わりません。
「体も小さいし女性だし、『解体できるの?』ってよく聞かれます。でも解体自体は、骨と骨の連結部分を切っていくだけなので、力はそんなに要らないんです。現場は50~60代が多くて、若い人がもっと入って欲しいと思う一方で、そのためには人材教育の基盤も、人を受け入れるための経営的な基盤も整えないといけません。環境やお金の面で、気軽に『おいでよ』とは言えないのが現状ですね。ただ鹿肉は歴史が長くて、縄文時代から日本人は食べているのに今はあまり普及していないギャップが面白いです。1万年も食べ続けられてきたということは、日本人にとってたんぱく源として有効であることは間違いありません。これからの時代、鹿肉は伸びしろが大きいし、ポテンシャルが高いと思います。今回、私と近い世代の人たちが『鹿肉をどうすればいいのか』って考えてくれるのはこんなにも嬉しいことなんだって感じましたし、私にとっても大きな一歩になりました」
大学生たちの取組が様々な方面に刺激を与えて、ジビエ界が活気づいていくといいですね。そんな明るい未来を感じた試食会でした。