特集
インタビュー

捕獲・解体から料理まで手掛ける栗原すみれさんが伝えたいジビエの魅力

シカ イノシシ 革製品 イベント セミナー
2025.02.21

神奈川県・小田原で鳥獣の捕獲・解体からジビエの出張料理まで行う栗原すみれさん。ジビエとの出会いから現在の活動など、ジビエへの熱い思いをお聞きしました。

師匠・宮本亮さんとの出会いが転機に

10代のころから料理好きだった栗原すみれさん。高校では料理部に所属し、料理の大会で優勝するなど、学生時代から確かな腕を持っていました。高校卒業後、調理師専門学校へと進学し、鉄板フレンチのお店に就職したのだそう。では、フレンチの料理人だった栗原さんがジビエの世界へ進んだきっかけは何だったのでしょうか。

「5年ほどフレンチを作ってきましたが、将来について考え、転職についての相談のため卒業した調理師専門学校を訪れました。その時にたまたまジビエの講義のため来校していた、猟師であり、鳥獣の解体や利活用を行っている宮本亮さんに会い、お話する機会がありました」

高校時代から合鴨を丸ごと1羽調理したり、カエルやナマズなど普段食さない生き物を美味しく食べるにはどう調理すべきかなどに関心があった栗原さん。宮本さんのジビエについてのお話に惹かれ、翌日には、宮本さんが解体を行っている小田原の解体処理施設を見学することになったそうです。

「その日捕獲された鹿があり、宮本さんから『1頭丸ごとさばいてみたら』と言っていただき、初めて鹿を解体しました。これまで料理しかしてこなかったけれど、鹿がどこで獲れて、どういう状態で持ち込まれるのかを目の当たりにしたことで、やりたいのはこれだ!と思ったんです」この時から、栗原さんの道はジビエの世界へと舵をきりました。

解体処理施設で解体経験を積んでいるうちに、ジビエに関する現状や問題を知った栗原さん。「猟師不足や、中には鹿の捕獲方法が雑な人もいるといった話を聞き、解体だけではなく、自分ができることは他にもないか、殺めた命を大切にすることに繋がる活動はできないかと考え始めました。そこで、師匠である宮本さんと共に、捕獲から解体、料理、さらに毛皮や骨まですべてを活用する様々な事業を行うようになりました」

料理人だからこそできること

狩猟の世界は男性が多いイメージがありますが、意外にも女性が増えてきていると栗原さん。
「鹿肉の魅力に気付かれた方や私と同じように鹿の現状を知り、何とかしたいという思いで狩猟免許を取る方、またクレー射撃をやっていたという方が狩猟をはじめることもあり、女性も多くなってきています。また、女性の方が血の現場を見るのは強いようで、解体などもしやすいみたいです」

料理人でもある栗原さんの場合、捕獲・解体だけではなく、現在、出張料理まで担当しています。
「ジビエの事業としてマルシェに出展していた時にいらしたお客様に、もともと料理人だったというお話をしたところ、『自宅にあるワインに合うジビエ料理のフルコースを作ってほしい』と依頼を受けました」
この依頼をきっかけに、一般の方にもジビエ料理のニーズがあることを知り、本格的に出張型の料理事業をはじめたそうです。
「料理人がいないワインソムリエの経営するワインバーと連携してジビエ料理を提供したり、ジビエを食べたいけど、料理方法が分からないという個人のご家庭に伺って、目の前で料理しながら、ジビエのさばき方や、家庭でできる美味しいジビエ料理を紹介するといったことも行っています」

子どもにもジビエを知ってほしい

1月に開催されたジビエト×NPO法人チルドリンによるジビエ親子イベント「ジビエdeキッズバレンタインパーティー」で、宮本さんと共にトークショーに登壇した栗原さん。
小田原に生息する鹿など動物の生態が分かる映像を流して解説したり、ジビエの栄養面の特長や、美味しいジビエ料理の紹介などをしていました。
「子どもって、普段食べている肉が牛なのか豚なのかそれほど意識せずに食べていると思うんです。今回のイベントで、鹿や猪の話を聞いたり、試食スペースで実際に鹿肉や猪肉の料理を食べてみて、ジビエに興味を持ったり、もっと身近に感じてもらえたらいいなと思っています」

今回のようなイベントだけではなく、こども食堂の活動にも参加しているという栗原さん。
「ジビエ肉を使用して作った料理をこども食堂に提供しています。子どもたちは、牛肉や豚肉と区別せず美味しく食べてくれます。子どもたちの方が、舌が正直というか、先入観なく食べてくれるのかもしれませんね」
こども食堂以外にも、幼稚園生から中学生の子ども向け食育イベントで、鹿肉の料理を提供するなど、ジビエの魅力を伝える活動を積極的に行っているのだそう。

最後に栗原さんに今後の夢を聞いてみました。
「私が一番目指しているのは、『ご家庭の食卓でもジビエを』ということです。今は共働き家庭が多く、まして働くお母さんは、料理時間が限られている中で、栄養のことも考えながら作らなきゃいけない。そういう時に栄養価の高いジビエを取り入れることで、それだけでもしっかりした栄養補給になります。特に子どもにとって必要なビタミンB群が豊富なので、家庭でぜひ食べてほしいと思います。そのために、私が家庭で作りやすいジビエ料理などを紹介していければと思っています」

しかしながら、現状はスーパーなどではなかなか手に入れるのが難しいジビエ。
「そこはもどかしいところなのですが、インターネット通信販売をはじめ、道の駅に並んでいることもあります。また地域の地産地消のお店などで売られていることもあるので、こうした場所でジビエを見つけたら積極的に購入し、料理してみてほしいです」
夢の実現に向けた、栗原さんの今後の活動が楽しみです。

 

*********************
【プロフィール】
栗原すみれさん
神奈川県出身
調理師の専門学校を卒業し、箱根の鉄板フレンチ料理店で
料理人として働いた後、ジビエの世界へ。
現在は小田原を拠点とし、アップサイクルブランド「Recovery and Reload」の一員として、ジビエの捕獲・解体から精肉、出張料理まで行っている。
Instagram

続きを見る