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名産ジビエ「栄肉」を積極展開! 東広島市市長、担当職員、ジビエセンター代表に聞く、美味しさの理由と取組

広島県 シカ イノシシ
2025.03.04

「ジビエト」ではジビエの普及拡大に向け、全国のジビエへの取組を現地に足を運んで取材し、その詳細を紹介しています。
今回は、ジビエブランド「栄肉(さかえにく)」を展開する東広島市で、その美味しさの理由と取組について、東広島市長・髙垣 広德(たかがき ひろのり)さん、農林水産課課長補佐農林環境保全係長・井口 裕介(いぐち ゆうすけ)さん、主任主事・中仁谷 康平(なかにや こうへい)さんと、現場で事業をけん引する東広島ジビエセンター(株)代表・和泉川 健太郎(いずみかわ けんたろう)さんにお話をお聞きしました。

ジビエ事業として「栄肉」ブランドに注力したきっかけ

東広島市は、豊かな自然環境が育んだ伝統産業(農林水産業・酒造業など)と学術研究機能や先端技術産業が融合した町です。お米、日本酒、東広島こい地鶏、牡蠣などでも有名ですが、高品質ジビエ「栄肉」ブランドもその名を全国に響かせています。
髙垣市長は、広島県副知事も経験され、県全体の事情にも精通する一人です。
まずは、ジビエ事業についてお聞きしました。

「従来から、豊栄町において民間の『東広島ジビエセンター株式会社』が設立され、鹿や猪といった有害獣の解体及び処理作業が実施されていました。しかし、施設面積が狭小だったこともあり、市としても、施設・整備面の支援及び捕獲対策の充実(捕獲従事者の捕獲後の処理負担の軽減)を図り、ブランド化の拠点として『東広島市有害獣処理加工施設』の整備を行ったのです」

「栄肉」ブランドが高品質である理由

「松くい虫などの影響もあり、松林が減少したことにより広葉樹林が増え、ドングリが多くなりました。それを食べることでジビエの肉質が向上していることもあり、『栄肉』が美味しいという評判は都心部にも広がったのです。出荷先は地元よりも関東・関西・九州などが多いんですよ」と市長。

そんな「栄肉」には高品質を誇る3つの特徴があります。 “美味しいジビエ”と評価を集める理由となっていることは、その鮮度と処理の仕方にあるようです。

1)速やかで的確な処理
捕獲者から個体の引き取り依頼を受けると、従業員が捕獲現場に出向き、高い技術で迅速に止め刺し・放血を実施。1時間以内を目安に処理加工施設に迅速に搬入。

2)徹底した衛生管理
外皮の消毒などの徹底した衛生管理

3)品質を保証する認証
「国産ジビエ認証」を令和2年2月に取得し、また個体情報を管理するトレーサビリティシステムも導入

また、「栄肉」というブランド名の由来は、ジビエセンターのある豊栄町の名前から取られたもので、豊かに栄えるという意味も込められているとのことで、郷土愛も感じるネーミングとなっています。

ジビエ事業にICT技術を導入、連携や優遇制度でスピードアップ

では、実際鳥獣の捕獲や処理、飲食での展開など、ジビエ事業への具体的な取組はどのようなものなのか。自治体や民間との連携や優遇制度などの体制強化についても紹介しておきましょう。

「まず、鳥獣の捕獲や処理について、省力化を実施。令和2年度から、ICT技術を活用した箱わな管理システム(ほかパト)を導入し、個体が捕獲されるとメールが届くことで、捕獲者の箱わなの見回りなど管理の省力化を図っています。
また、捕獲個体の引き取り対応も行っています。市が編成している捕獲班と東広島ジビエセンターが連携し、捕獲された個体の引き取りに係る連絡体制を構築することで、個体の引き取りが迅速に行われるようになりました」

そして、飲食での展開についても補助事業で後押ししています。
「市内飲食事業者を対象とし、ジビエ等の市内産品を使った新メニュー開発への補助を実施しました。令和4・5年度には、新メニューとして、『ジビエへそ丼』『ジビエハンバーグ』『栄ジビエバーガー』などが登場したことも事業の効果を感じています」
道の駅でのグルメ・ジビエの販売も継続しており、市内での事業推進に期待が膨らみます。

このように、連携体制を強化することで、ジビエの処理から販売展開までをスピードアップすることができ、さらにそれは「栄肉」ブランドの知名度アップと普及拡大、ひいては有害鳥獣の利活用を増やし、暮らしへの不安を軽減させる効果へとつながっているのではないでしょうか。

処理頭数を増やすための設備の拡張

東広島市でのジビエに関する、その他の取組や今後のPR方法などについてお聞きしました。

市の主要な特産品のひとつとして、販路拡大や加工品の開発支援など「栄肉」としてのブランド力を高める取組を推進していきます。
具体的には、「道の駅湖畔の里福富」「道の駅西条のん太の酒蔵」などでの販売や広島県産応援登録制度である「チア!ひろしま」などを通じて、広くPRしたり、例年、市の一大イベントである「酒まつり」や県内最大級のグルメイベント「フードフェスティバル」でもブース出展し、栄肉グルメを提供しています。ふるさと納税の返礼品として、地元の特産品をセットにして提供することも考えています」
今後もますます、「栄肉」が広く認知拡大されていきそうです。

農業だけでなく市民の生活に深刻な影響を与えている現状

市民目線では、年々増加する有害鳥獣の被害が暮らしへの不安を募らせているのが現状です。
現場を把握する、農林水産課課長補佐農林環境保全係長・井口さん、主任主事・中仁谷さんのお話は現状を物語っていました。

「東広島市の有害鳥獣による農作物被害は、鹿・猪による被害が9割以上、被害金額は令和5年度3,371万円。さらに、近年では今まで出没していなかった地域でも有害鳥獣の目撃情報が寄せられており、生息域・農作物被害の拡大が懸念されます。こうした状況により、農業者の営農意欲の低下や、市街地出没などによる住民の生活環境被害への不安が募っています」

それを何とか食い止め、有効活用する意味でも、ジビエ事業への注力は重要となってきています。現在、捕獲した鳥獣のうち、年間処理頭数(令和5年度)約1,500頭、市内で捕獲された鹿・猪約4,200頭の内、1/3程度が処理されています。
昔は、捕獲した鹿や猪は猟師がさばいて周囲におすそ分けとして配ったそうですが、その処理の仕方もばらばらで品質も一定しなかったとのこと。ブランドジビエ「栄肉」を初めて食べた時は、広島ご出身のお二人もその美味しさに驚いたのだとか。おすすめは鹿のスライス肉をシンプルに焼いたもの。シンプルだからこそ、その肉の味わい深さが際立つのでしょう。

とてもおいしいと評判のブランドジビエ「栄肉」。そのこだわりの処理方法とは?

最前線で「ジビエ愛」ともいえる取組を見せるのは、東広島ジビエセンター(株)代表・和泉川さんです。
和泉川さんは30年以上の猟師経験を持ち、狩猟を通じてジビエのブランド化を進めてきました。インタビューでは、ジビエの品質管理や地産地消の取組について詳しく伺いました。

自然豊かな環境で誕生したブランドジビエ「栄肉」。東広島ジビエセンターで捕獲・処理されたジビエは、衛生的な環境で特別な技術を用いて加工されるため、臭みも少なく鮮度抜群です。低脂肪高タンパクの鹿肉や、栄養素豊富な猪肉はそのまま焼いて食べても美味しいと評判は高く、その理由には、いくつものこだわりがありました。

「長年、捕獲活動に参加し、捕獲された動物がほとんど捨てられていることを知り、処理施設の必要性を感じ、東広島ジビエセンター(株)を立ち上げました。民間企業として設立し、現在は行政のサポートを受けながら稼働させつつ、約10年前にブランド化を始めました。広島ではジビエの需要が低く、地元では売れにくい一方、関東・関西・九州など全国のスーパーでも販売されるまでに販路拡大しています」

「このセンターでは、持ち込みは受けず、引き取り方式を採用し、必ず自分の目でその状態を確認してから、血抜きを行い、センターに持ち帰ってからも電解水を用いた個体の洗浄やトレーサビリティシステムの導入などの衛生管理を徹底することで品質を保っています。年間1600頭のジビエを処理しており、全国トップレベルの処理数ですが、すべて引き取りで行っているのは、処理の仕方で品質が変わるのを避けるためです」

市役所の食堂でも提供されているジビエ

市役所10階のレストラン「ビストロパパ市役所店」(庁舎食堂)では、ジビエランチが提供されており、以前のイメージを覆し美味しいという感想もあります。地産地消をジビエでも実現しているのです。
「ブランドジビエ「栄肉」は美味しくて、衛生環境も整っているのが大きな特徴だと思っています。しかし、全国には美味しくないジビエが出回っていることも事実で、そんな肉を食べた人はリピーターにはならないでしょう。ジビエの味の底上げを目指し、ジビエ協会と協力したいと思っています。美味しくない肉を減らし、全体のレベルを上げたいですね」

ジビエは高級レストランでも提供されているので、手に入りにくい高級食材というイメージもあります。しかし、実際は少し良い牛肉程度の価格です。供給量が少ないため、価格は高くなる傾向にはあるので、捕獲した野生の鹿や猪を処理する施設の増設と、その処理技術を全国に広める必要もありそうです。

「技術を伝授することは可能で、出張講習も考えています。そして、質の高いジビエをいかに普及させていくかが今後の目標ですね」
和泉川さんの元では、若手のハンターも育っています。処理技術を後進へ伝える場所でもある東広島ジビエセンターから、東広島モデルと呼ばれる処理技術とおいしいジビエが広がっていくことに期待しています。

その美味しさは全国区となっているブランドジビエ「栄肉」。都心のスーパーやレストランでの需要も増加中ですが、ジビエはもちろんのこと、酒蔵を巡り、美味しいご飯とジビエを味わえる、そんな思わず深呼吸したくなる贅沢な時間を求めて、東広島へ出かけてみませんか?

 

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