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銀座の地下で出会えるフランス・リヨンの食堂。鹿を古典料理に着地させる「サラマンジェ ド イザシ ワキサカ」東京都中央区

東京都 シカ
2026.02.27

銀座7丁目にあるビルの地下1階、エレベーターの扉が開くと、フランスのブション(リヨンの食堂)の光景が広がります。お店の名前は「サラマンジェ ド イザシ ワキサカ(以下、サラマンジェ)」。フランスのリヨンに根づく郷土料理を、東京でそのまま味わうことにこだわる一軒です。

オーナーシェフの脇坂さんは、パリとリヨンで研鑽を積み、横浜の「リパイユ・エクスキーズ」でシェフを務めたのち、2006年に虎ノ門で開業。2013年に銀座へ移転し、現在の場所でリヨンの食文化を伝え続けています。

ジビエという食材が特別なものとして語られがちな東京で、このお店が面白いのはジビエであることを過剰に演出しないところです。映えや創作のための料理を作るのではなく、古典の手順を守り、材料は違えどフランスの人たちが食べているものを、ここ日本で再現する。そんな信念と気骨が、銀座の地下に根付いています。

「ニホンジカのロワイヤル」が見せる、鹿の扱いやすさと奥行き

この日いただいたのは、「ニホンジカのロワイヤル」(6,600円・税込)。鹿を軸に据えながら、フレンチの古典へ踏み込んだご褒美の一皿です。

ロワイヤルは本来、野うさぎで作るのが定番とされる古典料理です。しかし日本では野うさぎが手に入りにくいことから、サラマンジェではその手法を鹿に置き換えて再構成しています。

内側にフォアグラ、その外側を鹿のウデ肉のミンチをベースにしたファルス(詰め物)で包み、さらにその外側を鹿のバラ肉で包んでロール状に成形。それを鹿の出汁の中でゆっくりと煮込み、提供の直前に再度、煮汁で温めて仕上げます。

煮立てないのは、せっかく整えた食感を崩さないため。温めはあくまで仕上げの加熱で、すでに火入れは完了しているという設計です。

仕上げに鹿の煮汁をベースにしたソースをかけ、トリュフを乗せれば完成です。

テーブルに並べたとき、お皿の上で艶をまとったこのソースの存在感がとくに印象的でした。脇坂シェフによると、鏡面のような状態まで煮詰めたものを「ミロワール」と呼ぶそうです。

食べ方の正解は「全部を一緒に」。フォアグラとトリュフが鹿の旨味をより高みへ

このニホンジカのロワイヤルはフォアグラとトリュフが前に出ているように見えますが、主役はあくまでも鹿です。脂が少なく、赤身の直線的な旨味を持つ鹿に、フォアグラの脂が丸みと舌触りを与え、トリュフの深い香りがその美味しさをより一段上へと引き立ててくれます。

脇坂シェフは「フォアグラとお肉とソースとトリュフを一緒に食べるのが、一番良い」と話します。それぞれを単体ではなく一緒に口へ運ぶことで外側と内側で異なる食感が楽しめ、噛むたびに温度と香りが更新されていき、鹿の繊細さが古典の技術で立体になっていく。そんな食べ進むほど納得させられる料理が、ニホンジカのロワイヤルです。

ジビエの要は仕入れの透明性

ジビエについて脇坂シェフが繰り返していたのは、「安心な業者から仕入れることが大事」という一点でした。現在メニューの中心は鹿で、イノシシなどは入荷状況や希望があればというスタンス。過去にやっていた鳥類のジビエは現在は取り扱うのをやめたと言います。

背景にあるのは、野生鳥獣の肉が抱える“読めなさ”です。たとえば鳥類の狩猟で使われる散弾(鉛玉)は、どの部位に入っているか外からは分からず、当たりどころ次第では素材を料理にすることもできなくなります。

だからこそ、きちんと処理がされていると信頼できる処理業者のお肉は、安心して素材として使えるというわけです。サラマンジェで使う鹿は、岐阜県の処理施設から届いています。「仕入れ先を信頼できるからこそ、過度に手をくわえず“届いたままの状態”で勝負できる」と脇坂シェフは語っていました。

かつて鹿は、マリネして香味野菜やスパイスで整えるのがセオリーだった時代もあったそうです。しかし今は、状態の良い鹿ならその手間が要らないとのこと。処理が良ければ良いほど野性味はほとんど感じず、扱いに特別な細工も不要になります。

ジビエの評価を料理の手腕だけに寄せるのではなく、まず素材の入口から正していく。その姿勢が、お店の本格的なクラシック志向ときれいに重なっていました。

銀座で「フランスに行くより濃いリヨン」を

最後に脇坂シェフが強調したのは、「うちは創作フレンチではなく、クラシックを基礎・基本どおりにやっている」ということでした。大きな皿に少しだけ、という方向性ではなく、本場で食べられている料理が“どん”と出てくる。だからこそ「リヨンの料理が好きな人、基本通りのクラシックが好きな人に来てほしい」と語られていました。
ジビエを珍しい肉として消費するのではなく、料理として理解したい人にこそ、刺さる一軒です。

お店の現在の客層は40代以上が中心だそうです。ドレスコードはありますが、構えすぎる必要はなく、サンダルなどの極端にラフな服装でなければ自然体で楽しめる雰囲気です。ディナーコースは10,000円(税込)の設定があり、ワインはボジョレーからコート・デュ・ローヌ北部までを厚く揃え、グラスで1,300円〜3,000円ほどのレンジだと言います。

紹介したニホンジカのロワイヤルは“本日のおすすめ”としてスポットで出る料理のため、狙って食べたい場合は事前連絡が必須です。前日では間に合わないことがあり、目安は1週間前。なお、お店は席があれば当日でも入れますが、週末はとくに予約推奨だということです。

日本に居ながらにしてフランスのリヨンの味を食べたいという方は、ぜひ銀座に足を運んでみてください。

  • ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
  • 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。
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