愛媛県鬼北町のジビエ利活用について、鬼北町町長にお話を伺いました
愛媛県では、2022年度に約3億6700万円の農作物被害が発生し、その65%が鬼北町を含む南予地域によるものです。これまで、捕獲された野生鳥獣の多くは埋設処分されていましたが、捕獲者の高齢化に伴い、埋設処分が大きな負担となっていました。こうした背景を受けて、鬼北町では減容化処理施設と新鮮な鹿と猪を活用するペットフード加工処理施設を併設し、24時間搬入可能な体制を整備しました。鬼北町の町長である兵頭誠亀さん、鬼北町役場 農林課の楠目匠さんにお話を伺いました。
春夏秋冬の楽しみがなくなっている
町長は鬼北町ご出身でいらっしゃいますが、昔と比べて野生鳥獣との関係はどのように変わってきていると感じていますか?
「私が子どもの頃は猿が街に出て、人が食べているものを取ったり、畑を荒らしたりすることがありました。しかし、20年前から鹿や猪が畑に出るようになり、農業や林業に深刻な被害をもたらすようになりました。これだけでも死活問題なのですが、私がもう一つ目をつけたい点があるんです。私の母は春になると裏山に行ってタケノコを掘り、秋になるとさつまいもや柿の収穫を楽しみにしていました。しかし猪の出現によってタケノコが取れなくなり、春夏秋冬の田舎ならではの楽しみが失われることになりました。このように、農業被害だけでなく、人々の楽しみも奪われている現状があります。」
そうした被害の現状に対して、町としてはどのような取組を行っていますか?
「鹿や猪の数が増え、捕獲数を上げる必要が出てきました。そのため、捕獲後の処理が課題となり、捕獲した個体の処理に減容化処理施設を導入しました。これにより、重機を持たないハンターでも捕獲した鳥獣を簡単に処分できる環境を整えました。また、捕獲した鳥獣を単に処分するだけでなく、ジビエとして活用するために、ペットフード加工処理施設も設立しました。これにより、有害鳥獣を地域資源として活用し、地域に根ざした産業を育てていくことを目指しています。」
町民の方々からはどのような声がありましたか?
「捕獲者から『これは良い施設だ』と評価をいただいています。重労働だった埋設処分を施設が担うことで、捕獲者は捕獲に専念できるようになり、鬼北町内の捕獲数は増加しています。昨年は鹿の捕獲数が過去最多を記録し、猪と合わせて年間1500頭ほどの捕獲が行われています。また、ハンターさんが箱罠や猟銃を購入する際の費用を補助することで、狩猟を始めやすくし、継続してもらえるよう支援しています。」
有害鳥獣捕獲者とともに捕獲後の搬入率84%を達成
他に取り組んでいることはありますか?
「鬼北町では、獣害対策として侵入防止柵の設置にも補助金を出しています。国や県の補助対象とならない農地を対象として、資材費の50%を補助しています。農業を生業としている方だけでなく、趣味で畑をして道の駅に出荷している方にも補助を行っています。その理由は、畑を使うことが農地の維持につながるからです。捕獲と侵入防止柵の設置を併用することで、農地を守りながら継続的な対策を講じています。」
現在、捕獲した鳥獣のうち、どの程度が利活用されていますか?
「鬼北町の減容化処理施設とペットフード加工処理工場には、町内で捕獲された鹿の84%が持ち込まれジビエ活用率は43%となっています。猪については自家消費されることが多いため、搬入率は65%ほどですが、ジビエ活用率は27%となっています。」
今後の施策や展望についてお聞かせください。
「今後も鳥獣被害対策を進めるとともに、鬼北町の減容化処理施設とジビエペットフードの取り組みについて認知度を高めることを目指しています。さらに、福祉との連携など、地域を超えた協力を推進し、循環型社会の形成に寄与する取組を進めていきたいと考えています。」
ジビエ利活用のひとつのモデルとして地域内外へ発信
次に鬼北町役場 農林課の楠目さんにお話しを伺います。鬼北町での現在の鳥獣被害の状況について教えてください。特に農作物への影響が深刻だと聞いていますが、具体的にはどのような被害が発生していますか?
「人が減っていることで、山奥にいた動物が街中にまで進出するようになり、被害が拡大しています。特に、柵で囲われていない農地が被害を受けやすい状況です。理想は、山を囲うように侵入防止柵を設置したいのですが、地権者ごとの合意が必要で、地権者が町内にいない場合や相続されていない土地があり、調整が難しいため進んでいません。被害の内容としては、猪による稲や芋、カボチャの被害が多く、鹿はスギ、ヒノキの被害、稲や大豆、果樹の新芽を齧ることもあります。」
実際に農家の方々からはどのような声が上がっていますか?
「『また植え直さないといけない』『せっかく3年間育てた柚子の苗が無駄になった』『苗が1本1500円もするので、苗代や3年間の人件費、肥料代が全て無駄になってしまった』というような嘆きの声を多く聞いています。」
そういった獣害に対して、町としてはどのような取組をされていますか?
「鳥獣被害対策として、侵入防止柵の整備や有害鳥獣の捕獲に取り組んでいます。また、新たな取り組みとして、令和4年度に減容化施設、令和5年度にペットフード加工処理施設を建設し、有害鳥獣の処分と、鹿や猪を地域資源としてペットフードに加工する取り組みを開始しました。今年度は、宇和島市に冷凍庫を設置する計画を進めており、令和7年度からの供用開始を目指しています。」
捕獲者の高齢化が進む中で、どのような対策を講じて新規捕獲者を確保し、サポートしていますか?
「鬼北町にある減容化処理施設が、捕獲者にとって大きな助けとなっています。以前は、畑に重機を持ち込んで埋設するなど、手間や負担が大きく、土地を持たない捕獲者にとって高いハードルがありました。しかし、施設ができたことで、捕獲した鹿や猪を運び込むだけで済むようになり、新鮮なものは隣のペットフード加工処理施設でペットフードとして活用できるようになりました。この施設の存在が土地を持たない新規ハンターの確保を促進し、捕獲した有害鳥獣を全頭処理する体制も整っています。」
鳥獣被害対策とジビエ利活用のバランスについて、町の今後の方針や目標は何でしょうか?
「今後も指定管理者やハンターの皆さんと連携しながら、計画に基づいて鳥獣被害対策とジビエの利活用を進めていきます。また、減容化処理施設とペットフード加工処理施設が併設され、24時間いつでも搬入可能な施設は珍しく、モデルケースとして他の市町村にも参考にしてもらいたいと考えています。仕事をされていて日中に搬入が難しい方でも利用できる体制を整えることで、地域全体の鳥獣被害の軽減に貢献していきたいです。」