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インタビュー

野生鳥獣の革に再び命を吹き込む“生きた靴”を作る職人 久津真実 (「JIGEN2.8」「MAKAMI」主宰)

東京
2020.01.30

使うほどに表情が変化し愛着が深くなる革製品ですが、鹿や猪などの野生鳥獣の革ならでは味わいを生かした製品を生み出している女性作家さんがいると聞き付け、さっそくお話を伺ってきました。

幼いころからお絵描きや工作など、モノ作りが好きだったという久津真実(ひさつまなみ)さん。一般企業で勤務のかたわら趣味で靴作りを始めましたが、モノ作りに没頭する楽しさから、「企業に属していることでさまざまな制約やしがらみの中で働くよりも一度しかない人生、好きなことをしたい」という思いが強くなり、退職。のちに結婚したご主人の支えもあって、靴作りの本格的な技術の習得を求め、浅草の職人の元で技術を研鑽しながら、東京都立城東職業能力開発センター台東分校 製くつ科に入学。卒業後は婦人靴メーカーの企画などを手がけたのち、フリーランスの靴職人として「shoes fiction」を立ち上げ、2017年にオリジナルブランド「JIGEN2.8」をスタートしました。

「JIGEN2.8(じげんにーてんはち)」とは、ちょっと聞きなれない言葉…。どのような意味があるのかを尋ねると、「漫画やアニメ、ゲーム等を原作とした舞台芸術の世界(2.5次元)を3次元である普段のファッションにも取り入れて楽しくワクワクする靴を作ることができたら…という思いから“2.8次元”の靴づくりという意味で名付けました」と久津さん。

流行にとらわれず長く履き続けられる「JIGEN2.8」のディメンジョナル・ラインは、レースをあしらうことでかわいさを演出した靴です。

創業準備時、このようなかわいい靴のサンプルを作る傍ら、支援相談にのっていただいたアドバイザーさんから、革を扱う仕事ならば知っておいて欲しいと、農作物の害獣対策で駆除された野生鳥獣の皮革(以下、ジビエ皮革)の存在を教えてもらったのが、久津さんとジビエ皮革の出会いでした。

駆除される野生鳥獣の命、余すことなく利用したい

野生鳥獣による農作物被害拡大の現状から、害獣対策のため、年間100万頭以上の野生鳥獣が捕獲駆除されますが、ほとんどは埋却されたり、焼却処分になります。料理として食べられているのはわずか10%以下、さらにのが現状。

「農作物への害獣被害を最小限にとどめるため、猟師さんの存在は欠かせませんが、その猟師さんたちも高齢化が進み、安定しない収入などの問題もあり、減少傾向にある…そんな話を聞き、これは継続的に取り組んでいかなければならない大きな課題」と感じた久津さんは、一作家としてできることを思索しました。

“命をいただく”ということを知るために、実際に野生鳥獣の皮剥ぎも経験し、久津さんが出した答えは、“奪った命を余すことなく利用してあげたい”ということでした。ジビエ皮革を用いてよい製品を作ること。そして、そのジビエ皮革で作った商品の存在と魅力を多くの人に知ってもらいたいという強い思いから事業を始動しました。

 

捕獲された野生鳥獣の皮を製品として利用可能なものにするには、皮をはいだあとすぐに下処理をしなければなりませんが、消費が少ないため、それを行う業者も多くはありません。

「ジビエ皮革の場合、従来の購入ルートとは異なり、原皮の調達を産地と直接行わなければならず、ロットの少なさや輸送コストなどで、結果として製品価格が高くなってしまう…。それが事業を拡大できない要因とも言われています」

 

傷があることこそがオリジナリティ

それでもルートを作って入手したジビエ皮革は、生前に木や岩などに引っ掛けたり、喧嘩して負った傷などがあったり、狩猟の際の弾痕や捕獲された時の傷、猟師が皮を剥ぐ時に付いたナイフ痕などがあったりと、さまざま。

「革を見ながら、『この子はやんちゃだったんだろうな』『肌のきめが細かい美人さんだね』など、個体の大きさや質感から捕獲された個体に思いを馳せます」

一般に流通している牛革(写真・左)とジビエ皮革(写真・右)を比べるとその違いは一目瞭然です。

革本来の風合いを残すため、傷などはあえてそのまま生かして仕上げているのがジビエ皮革の特徴。製品にももちろん、デザインとして取り入れていると久津さんは言います。

「ジビエ皮革の傷は野生動物が生きてきた証。それを私が感じ取り、製品として残す。そうすることで商品の背景に思いを巡らせ、“一点物の価値”として生まれ変わらせることができれば、商品を通じて新たな循環が生まれるのではないかと思うんです」。

この写真は、通気性がよく皮に特徴的な毛穴模様がある猪の革を使って作っている制作途中の靴。特に右は革の傷が残っており、あえて靴の真ん中に傷がくるようにデザインしているのです。

このようにジビエ皮革を使った製品は、「JIGEN2.8」のサスティナブル・ラインにそろっています。猪やクマの革は力強いイメージから男性に特に支持されている革です。

ミニ財布も同様に猪の革を使い、傷をうまくデザインに生かしています。手入れは乾拭きとブラッシングで大丈夫ですが、自然の風合いを大切に仕上げているため、人の肌と同様に乾燥しやすい点も。月に1回程度は革クリームを塗って手入れをしてあげることが長く愛用できる秘訣だそう。

靴一足を完成させるのに要する期間は2〜3か月。すべての工程を1人で丁寧に行っています。

牛や豚にはない肌に吸い付くようなやわらかさがあるのが鹿革の特徴で、「JIGEN2.8」オリジナルワンストラップパンプス(写真上・左)に使用しています。

手縫いのレザースリッパにも適している革です。

スリッパは一足一足手縫いによる製作。3層構造のインソールを入れ、踵部分を傾斜させることで階段での昇り降りの時にも脱げることはありません。足をすっぽり包み込んでくれる気持ちいい履き心地♪

こちらは、ご主人が10年以上愛用しているスリッパ!長く履き続けている経年変化を感じることができます。一度も修繕をしたことはなく、毎日履いても壊れない丈夫さも魅力の一つ。

「新しいのに替えたら!?と言ってもこのスリッパが手放せないようです」と久津さんから笑顔がこぼれます。

今はブランドの切り替え途中ですが、サスティナブル・ラインとして販売していたジビエ皮革商品をジビエライン【MAKAMI】として独立させることに。

MAKAMIとは真神言わずと知れた日本に生息したニホンオオカミが神格化したもので、その昔、猪や鹿から農作物を守護する存在とされていました。鹿革で作ったファスナーポーチや封筒型ポーチもやわらかな触り心地で気持ちよく肌に密着します。

【MAKAMI】の刻印がジビエ皮革を使った証です。

戴いた命を余すところなく使うために、ハギレも捨てることなくチャームとして蘇らせて息を吹き込みます。

靴を作る工程はとてつもなく長く、一人でいる時間も長いという久津さん。

「長い時間工房にいるからこそ、革を見てその個体の人生に思いを馳せ、製品と再び命を吹き込んであげられたら…、そのようなことを考えながらの作業は本当にワクワクする時間です。これはジビエ皮革ならではの楽しみのひとつですね」。

ジビエ皮革を使った商品のよさは手にとってこそ初めてわかるもの。あなたもその醍醐味をぜひ味わってください。

 

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■MAKAMI(まかみ)

公式サイト:https://makami.jp/

■JIGEN2.8(ジゲン2.8)

公式サイト:http://jigen2-8.com

 

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