瀬戸内海に浮かぶ淡路島は、冬でも温暖な瀬戸内海式気候。本州とは神戸から明石海峡大橋でつながり、京阪神エリアから自動車で1時間程度という近さながら、四方を海に囲まれ、山林も多く自然豊かな島であり、関西圏に住む人からは身近な「リゾートアイランド」として親しまれています。
そんな淡路島は、実は古代より、食物が豊富なことから朝廷に食物を献上した「御食国(みけつくに)」として知られています。現在も、肉は淡路ビーフ、魚介は夏のハモや冬のトラフグ、さらにシラスにサワラ、アナゴ、ウニ、タコなど多彩な魚種を誇り、野菜も名産の玉ねぎをはじめレタスやトマトなど、さらにお米はキヌヒカリという品種が盛んに栽培され、塩や醤油、味噌、酢、酒などの調味料までも造られており、ありとあらゆる食材が揃っていると言われています。
そんな「美食の島」の一面もある淡路島で、今、注目されている食材が、ジビエである鹿と猪。特に、夏の時期にしか味わうことができない「夏鹿」が、食通からも熱い視線を集めています。
夏鹿ならでは!脂が乗り、柔らかさも格別
その夏鹿を味わえる場所の一つとして、淡路島の南部、洲本市が島で獲れる鹿・猪肉をブランド化した「AWAJISHIMA shishika」の協賛店があります。イタリアの星付きレストランで腕を磨いた凄腕シェフが、淡路島産の食材を使って作り上げる絶品のイタリアンが楽しめる「L’ISOLETTA」<詳しくはこちら>や、七輪の炭火で淡路の山海の幸を焼き上げ、日本酒や焼酎、日本ワインなどの和酒とともにいただく「炙りBAR あるこっこ」<詳しくはこちら>などで、「AWAJISHIMA shishika」の夏鹿を使ったメニューを堪能することができます。
「洲本市は温泉も有名ですが、旅館やホテルの関係者や、飲食店の方から、有効活用できていなかったジビエを、魅力ある食材として発信できないかという声が上がりました。3年ほど前から下準備を経てプロジェクトが立ち上がり、2019年1月より、淡路島での鹿と猪の肉をブランド化した『AWAJISHIMA shishika』をスタートしました」と、洲本市産業振興部農政課の志智充規さんは言います。
そのブランドに大きな貢献をしている一人が、洲本市でハンター歴約50年、御年77歳にして現役猟師の大村佐登志さん。昨年は春から秋の時期だけでも、平均1日1頭の鹿を処理場へと運んだそう。
「鹿は柔らかい植物が大好きなんです。夏は新芽が生え、草が茂り、食べ物が豊富な時期。冬の間に痩せた体に脂肪が付き、脂がどんどん乗っていくんですね。だから、肉の色が冬は濃い赤なのに比べ、夏はきれいなピンク色。食べるとしっとりとしていて、肉自体も柔らかいんですよ」と、大村さんは言います。
農業被害の負のスパイラルを解消できるブランド
実は洲本市ではここ10年ほど、鹿や猪による農作物の被害が目立ち、悩まされてきた歴史があります。市では被害に悩む農家へ、罠の設置の補助などの対策を行い、年間2000頭ほどを捕獲。ただし、そのほとんどが、山で埋設されていたという状況がありました。
「私の家ももともと農家で、子どもの頃は柑橘類などいろんな作物を育てていましたが、鹿と猪の被害がひどく、今はお米一本。そのお米も、田植え直後の若い苗を、電気柵などで対策をしなければ、鹿が好んで食べてしまいます。直接的な被害もですが、鹿や猪が田んぼや畑などに入ってくると農家さんは大きくやる気を失ってしまうんです」と、猟師の大村さん。
「営農意欲を失わせる間接的な被害は数字には現れませんが、実は影響力が大きい。やる気を削がれて荒れた農家の田んぼや畑に鹿や猪が頻繁に入り込み、さらに近隣の農地を荒らすという負のスパイラルが生まれます。捕獲した鹿と猪の肉がブランドとして価値があるとなれば、まずは猟師さんのやる気を喚起でき、同時に、農家さんの鹿や猪の被害に対する問題意識も高められると期待できます。その結果、被害が減少し、営農意欲アップにつながると考えたのも、『AWAJISHIMA shishika』立ち上げのきっかけの一つです」と、洲本市産業振興部農政課の志智さんは、言葉を継いで話します。
人が入らない山の中から農地へと降りてきた鹿や猪からの被害を止めるため、捕獲が推進されたことで、もともとは冬がメインだった鹿や猪の肉の流通が、夏場にも盛んになったのが一つ。さらに、「AWAJISHIMA shishika」が登場。島内の処理施設で衛生的で適切な加工を施された、安全で高品質なジビエと、その加工品のブランドが立ち上がったことで、魅力ある夏鹿を使う飲食店が増え、さらに注目が集まるようになったというわけです。
柔らかく、しっとりとなめらかで、脂が乗った夏鹿の肉質。炭火焼きやコンフィなどの多彩な調理により、さらに絶品の一皿に生まれ変わります。あなたも極上の夏鹿を味わいに、ぜひ一度淡路島を訪れてみてはいかが?