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前例のない鳥獣被害対策に挑む、ある農村の挑戦 「くまもと☆農家ハンター」~前編~

熊本県 動画
2020.03.31

猪や鹿など野生動物による鳥獣被害が全国で報じられる昨今、熊本県のある団体が注目を浴びています。「自分たちの地域は自分たちで守ろう」と立ち上がった若手農家のみなさんが、自ら猪の捕獲に励む「くまもと☆農家ハンター」です。そのユニークな取り組みを前後編で紹介しますが、今回は、結成のきっかけや具体的な活動内容をお伝えしましょう。

消防団のように、自力で故郷を守る

※今回の舞台、熊本県宇城市三角町。潮風そよぐ風光明媚な土地です

緑豊かな内陸部と入り組んだ沿岸部が美しいパノラマを形造る、熊本県宇城市三角町の戸馳島(とばせじま)。この小さな農村が猪被害に見舞われたのは2015年ごろのことでした。

「それまで捕獲実績がなかったから、急に島内に現れたことにびっくりしました」と話すのは、洋ラン農家の宮川将人さん。徐々に被害が拡大するなか、宮川さんが行動を起こそうと決めたのは、畑を荒らされた生産者がつぶやいた「もう農業やめようかな」のひと言でした。

「この状況を放置すれば、やがて離農が進み、里山に下りてきた猪による人身・車両事故も増えていく。ならば消防団のように、自分たちで地域を守り、安心な暮らしを維持できないだろうかと考えました」と宮川さん。

 

幼馴染みのミカン農家・稲葉達也さんと共に、地元の農家に声をかけると25名の有志が賛同。こうして翌年、宮川さんを代表として「くまもと☆農家ハンター」(※以下、農家ハンター)が結成されます。うち数名が罠猟の資格を取得すると、さっそく新人猟師たちの奮闘が始まりました。

 

大苦戦でスタートした捕獲活動

農家ハンターの特徴の1つに、インターネットの積極活用が挙げられます。洋ランのネット通販で成功した宮川さんの経験を生かしたもので、公式サイトやメルマガを通じて農家ハンターの活動を随時発信。

「そのおかげで多くのサポーターが付いてくださって、クラウドファンディングの資金で高価な箱罠を購入することができたんです」。

しかし狩猟開始から7か月の間、20基の罠にかかった猪はゼロ。そこで本職の猟師や研究機関の先生に教えを請うと、2日後には早くも成果が上がりました。

「最初は独学で行く予定でしたが、やっぱり猟はそんなに甘くなかったです」と、発起人の1人でミカン農家の稲葉さんが振り返ります。

「それからは学ぶ大切さを痛感し、みんなでいろんな害獣対策講習会に出席するようになりました」。

また迅速に行動できるようICT(情報・通信技術)の機器を導入。猪の出現状況をリアルタイムで把握できるセンサーカメラはその1つで、見回りの負担と猪遭遇時の危険を減らすのに大きく貢献しています。

※かつては月30頭現れていた猪も、今では2〜3頭ほどに激減(2019年9月現在)

イノコミ”で進む地域の活性化

プレイヤーとして全員が現場で汗をかき、スキルや知識の習得にも熱心な農家ハンター。最初は協力に消極的だった周囲の人々ともねばり強く交渉し、信頼関係を築くことができました。

 

「特に猟友会からの協力が得られたのは大きかったですね。狩猟のベテランですし、僕らが苦労していた猪のとどめのさし方も教えてもらえました。あれは下手にやると、猪が苦しんでかわいそうですから」。

 

日を追って捕獲頭数が伸びるなか、自信を深めた宮川さんたちは次のステージに進みます。

「最初は猪の減少が目的だったので、1頭罠にかかるだけでもうれしくて。でも今後の活動を持続的なものにするには、きちんとしたビジネスモデルを作る必要があったのです」。

そこで宮川さんは、改めて目指すべきゴールを設定しました。それが「ICTや産学官連携などを駆使した、循環型の地域事業の構築」です。

その実現の前提となるのが、猪を地域資源として大事に生かすこと。

稲葉さんいわく「熊本では猟師が猪を捕獲すると行政から1頭あたり1万円ほどの報奨金を受け取れるのですが、猪を自分たちで処理・加工し、ジビエとして流通させればそのまま全員の利益になる。適切に処理した美味しい猪肉は、クラウドファンディングやふるさと納税の返礼品にも使えますし、まさに超循環ですよね」。

食品以外にもペットフードや農業用堆肥、レザー製品としても展開でき、すでにいくつかは商品化が目前だとか。

「メンバーたちも、“次はこんなことやりたいね!”と活発に意見交換してますよ」。

 

そう。この取材で一番印象に残ったのは、何よりもメンバーの方々の明るさでした。皆さんが笑顔で活動する写真を拝見すると、「鳥獣被害対策の現場とはこんなに楽しげなの?」と驚かされます。

「これまで厄介者だった猪を、ありがたい自然の恵みとして捉え直したのがよかったんでしょうね。この取り組みをきっかけに、農家同士や地域内の交流が昔以上に深まったのもうれしいです」と宮川さん。

「僕らはこれを、“猪を介したコミュニケーション”……つまり“イノコミ”って呼んでるんです(笑)」。

 

【 後編へ続く 】

前例のない鳥獣害対策に挑む、ある農村の挑戦 「くまもと☆農家ハンター」~後編~

 

■くまもと☆農家ハンター

公式サイト:https://farmer-hunter.com/

フェイスブック:https://www.facebook.com/kumamotofarmerswildboar/

住所:熊本県宇城市三角町戸馳397(くまもと☆農家ハンター事務局)

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