持ち前の行動力と情熱を武器に、鳥獣被害対策に励む「くまもと☆農家ハンター」(※以下、農家ハンター)。重ねた努力は実を結び、故郷の戸馳島では猪被害がみるみる減少。その噂が広まると、県内の農家から参加希望の声が続々と届き、2018年にはメンバー数が100名を超えました。「自分たちの地域は自分たちで守る」という結成時の理念が、熊本全域に浸透し始めたのです。
産学官を巻き込み、活動もスケールアップ
「人材の豊富さが、そのまま僕らの強みです」と代表の宮川将人さんは胸を張ります。
「猪を罠で獲る人、その技術を伝える人、ジビエ料理を考える人、商品企画ができる人…、いろんな人がいるから何でもできる。組織の雰囲気をあえて緩くしているのも、それぞれの才能や個性を発揮しやすいようにとの配慮からです」。
メンバーの結束と的確な戦略を武器に快進撃を続ける農家ハンターは、やがて産学官の関係者の関心も集めます。「注目してもらったおかげで各方面と連携がしやすくなり、活動内容もよりスケールアップしました」と語るのは、宮川さんの盟友・稲葉達也さん。
「例えば楽天グループの技術部門と一緒に、箱罠の害獣から猪だけを感知するシステムを新規開発したのですが、これはかなり画期的なことだと思います」。
こんなふうに行政や大企業を動かしてしまうほど、今の農家ハンターは魅力や可能性に満ちたチームに映っているのでしょう。
近年は活躍のフィールドも広がるばかりです。「鳥獣被害対策講習会では農林水産省の専門アドバイザーとして講師を務めていますし、対策依頼があれば県外にもできる限り出張します。高校や大学でも出張授業を行う機会も増えましたね」と稲葉さん。
※国連公式サイトより
そうした多岐にわたる活動への評価は高く、「生物多様性アクション大賞/農林水産大臣賞」や「GOLDEN DESIGN AWARD 2019」などの受賞につながりました。また国連のSDGs(持続可能な開発目標)公式サイトでは優良事例の1つとして紹介され、宮川さんたちを大いに感激させたそうです。
画期的なビジネスモデルを確立
※2019年10月末には、4100万円をかけた待望の食肉処理加工施設「ジビエファーム」も完成。写真は建設中の様子
「こんな大掛かりな施設を造るのは僕らにとって賭けでしたが、これでジビエ事業に弾みがつきます。オリジナル商品も積極的に開発したいですね」と宮川さんの言葉にも力が入ります。メンバーたちの努力や失敗といった多くの“物語”が詰まったジビエは、きっと大きな反響を呼ぶことでしょう。
さて、こうした追い風のなか、「農家ハンター」は新たなプロジェクトに挑戦しています。これまで積み上げてきたノウハウ──農家の組織化、鳥獣の捕獲法、ジビエ食品の加工、販売など──をパッケージ化して自治体に販売するビジネスです。
「この商品の目的は、行政主導のもとで鳥獣被害による離農を防ぐこと。そしてジビエをフル活用したビジネスモデルを根付かせ、地域が豊かに自立できる環境を整えることです」。
日本では前例のない商品ですが、内容を練りに練ったこのパッケージ、宮川さんは欧米やアジアでもニーズがあると確信しています。「海外にも同じ悩みを持った国は多いんです。JICAのような形で、僕らが海外指導に行くのも面白そうですね」と宮川さん。熊本の小さな農村を救ったアクションが、今度は世界の誰かを救うのかもしれません。
「好きな言葉は『先義後利』。結成以来揺らがない、僕たちのポリシーでもあります」と宮川さん。
自分たちだけにできる、真の地域貢献
一方、鳥獣被害から解放されつつある故郷で、農家ハンターは次に何を目指すのか。宮川さんの答えは「ジビエのグランピング」でした。
「船を持っているメンバーが三角港から戸馳島までお客さんを運び、ビーチで遊んでもらった後に僕らが最高のジビエ料理を提供するというプランです。なんだか楽しそうでしょう? 猪という地域資源を活かしながら、僕らにしかできないことをやる。農家ハンターの存在意義って、実はそういう部分にあると思うんです」。
次々と語られる宮川さんたちの言葉には、新しい何かが生まれる直前の、ワクワクするような予感が終始みなぎっていました。「くまもと☆農家ハンター」は、まぎれもなく鳥獣被害問題の未来に灯をともす存在。これからのその活動に、心からの熱いエールを送ります。
■くまもと☆農家ハンター
公式サイト:https://farmer-hunter.com/
フェイスブック:https://www.facebook.com/kumamotofarmerswildboar/
住所:熊本県宇城市三角町戸馳397(くまもと☆農家ハンター事務局)