鹿肉で育った根っからのジビエシェフが贈る、本当に美味い鹿肉「美食鉄板とりこ」北海道苫小牧市

北海道・苫小牧市は日本各地からの海の玄関口として古くから栄え、道内でも太平洋側の比較的温暖な過ごしやすい気候で知られています。

今回紹介する「美食鉄板とりこ」（以下、とりこ）は、苫小牧唯一のアーケード街「苫小牧大町銀座通」の入口すぐ近くにあります。JR苫小牧駅からはゆっくり歩いても徒歩15分ほど。苫小牧市隣接の白老町（しらおいちょう）出身のハンターがシェフを務め、蝦夷鹿肉を知り尽くしたシェフならではの豪快なジビエ料理が人気のお店です。

取材に訪れたのは真冬の最中で、札幌市は大雪に見舞われていましたが、苫小牧市はほとんど積もることはなく、雪化粧をした駅前にきらめくイルミネーションを楽しみながらお店へ向かうことができました。

「とりこ」は、石造りの蔵を利用した外観が目印。北海道の中でも開拓の歴史が深い苫小牧の風情を感じさせます。

店の中に一歩入ると、外観に合わせた石壁と一枚板のカウンターが落ち着いたモダンな雰囲気を醸し出しています。
照明も優しい暖色系で統一され、カウンターながらゆったりした椅子で腰を据えてお肉と対峙できます。やはり鉄板焼きの醍醐味とあって、カウンター席は一番人気の席だとか。

マタギの頭領を父に持つ、根っからの“ジビエびと”

オーナーシェフの相馬 裕昭（ひろあき）さん。父親はマタギの頭領だったと言います。
「2歳から蝦夷鹿肉を食べています。母が作ってくれるお弁当は、いつも鹿肉の生姜焼きでしたね」

そんな根っからの“ジビエびと”の相馬さんに、蝦夷鹿肉を提供したいと思った理由を尋ねてみると
「鹿肉っていうのは、本当は美味しい肉なんです。大好きなので蝦夷鹿肉をメニューにしました」とキッパリ。

相馬さん自身、狩猟免許を持つハンターで捕獲経験もあります。子どものころから食べていた肉の美味しさを、多くのお客さまに味わってもらうためにはどうしたらよいかということを一番に考え、捕獲した蝦夷鹿の品質に最もこだわりました。数年かけて食肉処理施設を仲間と立ち上げ、良質な鹿肉や希少部位を自分のお店で提供できるよう、入手ルートを確立したのです。

こちらが、稀少な仔鹿の肉。見た目にも鮮やかな濃厚な赤身です。さっそく鉄板で焼いていただきます。仔鹿というだけあって肉のやわらかそうなこと。鮮やかな赤身が目の前で焼かれ、じゅぅ〜っと心地よい音を立てながらじっくり火が通っていきます。漂ってくる美味しそうな香りを肴にちびちびやるのも鉄板焼きの醍醐味です。

鹿肉の美味しさを心底知っているからこその絶品メニュー

こちらが「仔鹿のワイルドステーキ100g」（1,500円・税抜）。焼いている時の豪快な姿から、丁寧に盛り付けられていく変化が見えるのもカウンター席のよいところ。

ひと切れずつ添えられているのは、黒胡椒の粒です。鹿肉と一緒に口にすると、淡白ながらジューシーな肉汁が広がったあと、スパイシーな香りでキリッと締めてくれる後味がとてもよい感じ。次のひと切れは、ローストガーリックも一緒に頬張ってみると、肉の旨味をいっそう引き立て、より濃厚に感じられます。

次に、「これぞ完成形だ」と相馬さんが誇る「絶品鹿肉fanハンバーグ150g」（1,000円・税抜）をいただきます。

相馬さんは、どんな形で鹿肉メニューを展開していくのがベストなのか、試行錯誤してきました。
「多くのメニューのなかでも一番苦労したのは、この『絶品鹿肉fanハンバーグ』です。鹿肉は、あっさりしていて脂身が少ないので、そういうお肉をミンチにしたら、鶏のつくねのようになってしまいます。そうならないようにやわらかくてジューシーで、ヤミツキになる鹿肉ハンバーグを目指しました」

その言葉どおり、これは本当に美味しいとしか表現しようがありません。名前に偽りなし、まさに“食べると思わずfan（とりこ）になってしまう”絶品ハンバーグ。当然、店の一番人気で、リピーターが後を絶たないそうです。これを食べたいがためだけに遠方からとある著名人が食べにくることもあるんだとか。

最後に、読者にひと言お願いしますとお頼みすると、
「私が伝えたいのは『鹿肉というのは、本当は美味しい肉なんです』のひと言です」
鹿肉を食べて育った相馬さんが生み出す鹿肉料理には、鹿肉への愛があふれていました。