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炭火が引き出すエゾシカの旨味。函館ブランド鹿「函鹿」を居酒屋スタイルで楽しむ「箱館居酒屋 熾美」北海道函館市

北海道 シカ
2026.03.19

函館駅から歩いて約5分。松風町の市電の線路沿いに、木格子の壁が印象的な居酒屋「箱館居酒屋 熾美(おきび)」があります。2023年4月にオープンした同店は、函館産エゾシカのブランド肉「函鹿(はこしか)」を使ったジビエ料理と、北海道産の新鮮な海鮮を二本柱に据えた一軒です。

店名の「熾美」は、薪や炭が炎を上げずに芯まで赤く燃えている状態「熾火(おきび)」に由来しています。炎が出ていなくても高温で、火力が安定しているため調理に最も適した状態とされるこの火で、家に帰ったときのようにほっとする美味しいものを届けたい。そんな思いが店名に込められています。

木の温もりが感じられる店内は、カウンターからテーブル席、座敷まで85席を備え、お一人様からご家族連れ、団体での宴会まで、幅広い利用に応えています。

低温調理と炭火の二段構えで仕上げる「蝦夷鹿肉背ロースステーキ」

まずご紹介するのは、「蝦夷鹿肉背ロースステーキ」(2,750円・税込)です。背ロースはエゾシカのなかでも肉質がきめ細かく、赤身の旨味が凝縮された部位。熾美ではこれを低温調理でじっくりと火入れしたあと、炭火で表面を焼き上げて仕上げます。

低温調理により肉の水分が逃げないため、カットした断面はしっとりとしたロゼ色。そこに炭火の香ばしさがまとい、口に運ぶと赤身の力強い旨味がじんわりと広がります。店長の岩山さんは、「ジビエは香りが強いので、炭の香りをつけてあげることによって調和されて、食欲が増します」と話します。鹿肉の風味を消すのではなく、炭火の香ばしさで包み込むように調和させる。鹿料理の定番ともいえるステーキですが、熾美ならではの「熾火」の技が光る一皿です。

しっとり赤身をポン酢でさっぱりと「函鹿シンタマポン酢」

続いて一番人気のメニュー「函鹿シンタマポン酢」(1,650円・税込)です。エ火入れしたシンタマと呼ばれるモモの部位を薄くスライスして提供されます。仕上げにネギをたっぷりとのせ、ポン酢で味わう一皿です。

口に運ぶと、まずネギの香りがふわりと広がり、ポン酢のさっぱりとした酸味とともにエゾシカの赤身の旨味が追いかけてきます。肉はしっとりとやわらかく、ローストビーフのような食感でありながら、牛肉よりもすっきりとした後味が特徴です。

シンタマポン酢はわさびを添えても楽しめます。初めてジビエを口にする方にもおすすめの一品で、「薬味に負けないくらい味がしっかりしている」と驚かれるお客さんも多いのだとか。

炭の香りが食欲をそそる「鹿モモ串と鹿つくね」

さらにご紹介したいのが、エゾシカのモモ肉の串とつくねの串です。炭台でじっくりと焼き上げる串は、熾美の調理スタイルそのものを体感できるメニューといえます。

鹿モモ串(990円・税込)は、赤身の旨味がぎゅっと詰まった部位を炭火で焼き上げたもの。脂が少ない分、炭の香ばしさが肉の風味と重なり、噛むほどに旨味が広がります。月見鹿つくね(605円・税込)は、エゾシカ肉をつくねにしたもので、卵黄をつけて食べるスタイルが人気です。

焼き鳥にも使うタレで焼いた串は醤油ベースの甘辛い味わい。シンプルに塩でいただくのもおすすめで、炭火の香りとエゾシカの赤身らしい風味がより際立つそうです。

秘伝のソースが決め手「鹿すね肉のトマト煮込み」

熾美のジビエ料理のなかで、炭火焼きとは異なるアプローチで人気を集めているのが「鹿すね肉のトマト煮込み」(990円・税込)です。じっくり煮込まれたすね肉は、ほろりと崩れる食感で、トマトの酸味と肉の旨味が見事に溶け合っています。

このトマト煮込みの味の核となっているのが、岩山さんの秘伝のソースです。醤油やみりんをベースにした和風の味付けは、洋風のトマト煮込みにどこか懐かしい和の奥行きを添えています。

脂の少ないエゾシカのすね肉は、長時間煮込むことで繊維がほどけ、スプーンだけで食べられるやわらかさになります。ココットで温かい状態で提供されるため、湯気とともに立ちのぼる香りもごちそうです。

海のミネラルが育むブランド鹿「函鹿(はこしか)」

熾美で使用しているエゾシカ肉は、函館市内にある北海道エゾシカ肉処理施設認証施設「Sauvage de hakodate(ソバージュ ド 函館)」から仕入れた「函鹿」ブランドのものです。

「函鹿」とは、函館近郊で捕獲されたエゾシカのこと。その最大の特徴は、海沿いに生息する鹿ならではの肉質にあるとのこと。津軽海峡に面した函館市恵山地区は、潮風に吹かれてミネラルを豊富に含んだ草を食べて育ち、積雪が少ない環境のため、冬場でも餌に困らず痩せにくく、通年で品質の良い肉が取れるそうです。

岩山さんは「北海道のエゾシカは本州のニホンジカよりも個体が大きく、肉質が良いという印象があります。さらに函鹿は海が近くてミネラル豊富な餌を食べているので、ヘルシーで味が濃いのが一番の特徴です」と語ります。

品質の要は捕獲から処理までのスピードです。「Sauvage de hakodate」では、頭部か首を狙って一発で仕留める「クリーンキル」によって肉への負担を最小限に抑え、捕獲から解体までを2時間以内に完了。その後3~5日間の冷蔵熟成を経て出荷されます。こうした丁寧な処理が、上質なエゾシカ肉を生み出しているのです。

「ご家庭でも真似できる料理」を目指す理由

岩山さん自身も狩猟免許を持つハンターです。20歳の頃に免許を取得し、自ら捕獲して調理するという経験を重ねてきました。だからこそ、「ご家庭でも鹿肉を食べてほしい」と語ります。その言葉の裏には、「食べてもらわなかったら、仕留めた鹿がもったいない」という切実な思いがあります。

「熾美で提供している食材は、スーパーにも流通しているものです。お客さんが手に入れられるものと同じレベルの食材を使って、自分が食べたいと思った料理や、ご家庭で出てきそうなメニューを意識して作っています。だから、うちで食べて『美味しいな』と思ったら、スーパーで鹿肉を買って家でも同じように調理してもらえるんです」
食べた人が「これなら自分でもできそう」と思えることが、鹿肉の普及につながると考えているのです。

エゾシカ肉は高たんぱく・低脂質・低カロリーで、鉄分やビタミンも豊富なヘルシー食材です。普段の料理で使っている牛肉や豚肉と同じ感覚で調理できるのも魅力のひとつ。ファミリー層の来店も多い熾美では、大人も子どもも一緒に鹿肉料理を楽しんでいるそうです。

「鹿」を街の名物へ。

函館といえばイカの街として知られてきました。しかし近年、イカの水揚げ量は減少傾向にあります。

一方で、道南地域ではエゾシカの個体数が増え続けており、農作物への被害も深刻化しています。こうした背景のなかで岩山さんが見据えるのは、利活用した鹿を函館の新たなグルメにする未来です。

「北海道といえば大自然というイメージがありますよね。せっかく野生のものがこれだけ身近にあるのだから、観光で来た方にも食べて帰ってもらえたらいいなと思っています」

有害鳥獣として捕獲される命を、美味しい食材として届ける。そのサイクルを日常に根づかせるために、居酒屋というカジュアルな場所から発信し続ける。それが、熾美の選んだ道です。

  • ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
  • 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。
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