イタリアンに自然と溶け込むジビエ。一頭一頭の個体差に向き合う夫婦のレストラン「OLLY Befu kitchen」福岡県福岡市

福岡市営地下鉄七隈線・別府駅から徒歩3分。住宅街の一角にあるガラス張りの小さなお店が「OLLY Befu kitchen(オーリー ベフ キッチン)」です。カウンター4席とテーブル席を合わせ、店内は約16席。夫婦で営むこのイタリアンレストランでは、豊前ジビエセンターから届く猪や鹿を中心に、九州の旬の食材を使った料理が楽しめます。
オーナーシェフの増田さんは大阪出身。10代でバックパッカーとしてヨーロッパを旅し、各地の食に触れたことをきっかけに料理の道へ。大阪で約20年にわたり、大衆食堂からレストラン、ピッツェリア、パスタ専門店まで幅広い業態を経験してきました。
その人生のなかで福岡出身の奥様との結婚を機に、子育て環境を求めて福岡への移住を決意。2021年12月にこの地でお店をオープンしました。
猪の旨味がほどけて絡む「日本猪の白ワイン煮込みのパスタ」

最初にいただいたのは、猪を使った「日本猪の白ワイン煮込みのパスタ」(1,750円・税込)です。
使用するのは、背ロースともも肉の2種類。背ロースのほどよい脂と、もも肉の赤身らしい肉々しさを合わせることで、一皿の中に食感と旨味の変化が生まれています。圧力鍋でしっかり煮込んだ猪肉はスプーンで簡単にほぐれ、帯状の幅広い麺のタリアテッレによく絡みます。

味付けは白ワイン、塩、ソフリット(香味野菜の炒め)、オリーブオイル、そして少量のニンニクだけ。こうしたあっさりとした味付けだからか、猪本来の甘みが際立ちます。脂身の部分からじわりとにじむ甘さと、赤身の肉肉しい旨味がソースに溶け込み、食べ進めるほどに深みが増していく一皿です。
猪の甘みと鹿の力強さが楽しめる「猪&鹿の食べ比べ」

もう一品は、猪と鹿を一皿に盛り合わせた「猪&鹿の食べ比べ」(3,100円・税込)です。猪は背ロースをフライパンでしっかりと表面を焼きつけた後、ハーブの香りを移したオイルとともにオーブンへ。5分焼いてから数分休ませ、肉汁を落ち着かせてからカットするという丁寧な火入れが施されています。一方、鹿肉はあらかじめ低温調理したものを使い、表面を香ばしく焼き上げて仕上げています。

添えられた付け合わせは、カラーニンジン、スティックセニョール、カブの一種であるルタバガ(スウェーデンカブ)。ソースは3種類で、イエロービーツのピューレ、やや甘めに仕上げた自家製の粒マスタード、そしてカカオの実の中身を砕いたカカオニブと熟成バルサミコを合わせたソースです。

猪にカカオニブのソースを合わせる理由について、増田さんは「猪はナッツや木の実をよく食べているので、カカオのようなナッツ系の風味と自然と合うんです」と話します。野生の動物が何を食べて育ったかを想像しながらソースを組み立てるという発想は、まさにジビエならではのアプローチです。秋口には栗をたっぷり食べた猪が届くこともあり、その時は切った瞬間に栗の香りが立ち上がるのだとか。そんな時は迷わず栗のソースを合わせるそうです。
口に運ぶと、猪は脂の融点が低いためスッと溶け、甘みがじんわりと広がります。対して鹿肉は、鉄分を含んだ赤身の風味がしっかりと主張し、噛むほどに肉の力強さが感じられます。同じジビエでもこれほど味わいが違うのかと、食べ比べることで改めて気づかされます。
仕入れた肉と向き合い、一頭一頭に合った調理を

「天然のものなので、状態は一定ではない。だからこっちが加減するんです」と増田さんは話します。豊前ジビエセンターから届いた肉は、まず自分の目と手で状態をチェック。きめが細かくやわらかい肉質のものはステーキに、やや硬さのあるものは煮込み料理に回すなど、個体ごとに調理法を変えていきます。
品質の判断にも一切の妥協はしません。「せっかく仕入れたからと無理に出したこともありましたが、自分の思う仕上がりにはならない。結局、それはお客さんにも伝わるんです」。発情期の猪など、どうしても風味が強い個体は使用を見送り、処理施設にもフィードバックを重ねてきました。その積み重ねが精度を上げ、今ではより良い状態の肉が安定して届くようになったといいます。
初めてジビエを食べる方には、猪を使ったパスタの「OLLY特製ジビエボロネーゼ」(1,750円・税込)がおすすめだそうです。「ボロネーゼのソースなら馴染みがあるので、そこから入る方が多いですね」。ジビエを前面に押し出しすぎず、イタリアンのメニューの中に自然と溶け込ませるスタイルが、このお店の持ち味です。
九州の旬をまるごと一皿に。地元食材へのこだわり

増田さんがジビエと並んで大切にしているのが、地元の食材です。野菜は福岡県糸島市の農家から届く、農薬を使わずに育てた旬のものです。
魚は奥様の実家が長年お付き合いのあった福岡市・志賀島の魚屋さんから仕入れるなど、地元の人脈を活かした食材集めも、夫婦で営むこの店ならではの強みです。
「大阪でレストランに勤めていた頃は、フランス産の鴨や北海道の食材を仕入れていました。でもこっちに来たら、九州には美味しい魚も野菜もジビエもある。遠くから高いお金を出して取り寄せる必要がないんです」。バジルも旬の時期にしか使わないという徹底ぶりで、季節を大切にする姿勢が料理全体に貫かれています。
料理人であり、猟師でもある店主

増田さんは大阪時代に狩猟免許を取得しており、銃猟と罠猟の両方の資格を持つ猟師でもあります。福岡に移ってからは、お店の立ち上げや日々の営業に追われ、なかなか猟に出る機会はないそうです。それでも、自らが猟師でもあるからこそ、ジビエに対する理解の深さがうかがえます。
野生の動物がどんな環境で、何を食べて育ってきたのか。その背景を知っているからこそ、届いた肉の状態を見極め、最適な調理法を選び、ソースの組み合わせにまで想像力を働かせることができるのでしょう。猟師の目と料理人の手。その両方を持つ増田さんだからこそ、ジビエをイタリアンの一皿として自然に仕上げられるのだと感じました。
料理に合わせるお酒の選定はソムリエ資格を持つ奥様が担当。グラスワインを中心に銘柄を頻繁に入れ替えており、料理とともにさまざまなワインとの出会いが楽しめます。

季節ごとの一期一会を楽しんでほしい
コロナ禍の2021年にオープンしたこのお店は、テイクアウトやオードブルの提供で地域とのつながりを少しずつ築いてきました。今では近隣の住民が中心の客層となり、常連さんから旬の食材の情報をもらうこともあるといいます。
「ジビエって、シーズンごとに全然味が違うんです。夏の鹿、冬の脂がのった猪。その時々で出会える味が変わる。僕たちは、その時々の一期一会の食材を、いちばん美味しく食べてもらえるように調理しているだけなんです」と増田さんは語ります。
派手な看板は立てず、住宅街にひっそりと佇む小さなイタリアン。その厨房では、届いた一頭一頭の肉と真剣に向き合い、九州の旬とともに一皿に仕立てる営みが日々続いています。
OLLY Befu kitchen(オーリー ベフ キッチン)
- 住所:福岡県福岡市城南区別府2-10-13 ブルーバードビル103
- TEL:092-985-3435
- 営業時間:月〜土 12:00〜16:00(L.O. 15:00)/18:00〜22:00(L.O. 21:00)、日・祝日 12:00〜20:00(L.O. 19:00)
- 定休日:不定休(Instagramにて随時更新)
- ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
- 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。

