
長野県飯田市でタンナー(皮革製造業者)を営んでいる株式会社メルセン。明治44年創業の親会社の技術を継承して平成元年に開業。現在は、牛革作りの事業を営む傍ら、シカ、イノシシやクマなど多数の皮を扱っています。有害捕獲された鳥獣の「頂いた命はすべて使う」ことを理念に、革製品生産や端材の鹿皮を活用したペット用の「手づくり鹿皮ガム」の製品化など、日々企業努力をされています。

社長の中川武人さん(以下・社長)と、専務兼工場長で息子の中川優さん(以下・工場長)。親子二人三脚で奮闘されている有害鳥獣の利活用の取組をお聞きしました。
使った人が喜んでくれる製品開発
メルセンでは、牛革と比較して軽く柔らかい鹿革の特徴を活かし、軽量の革小物を好むユーザーに向けた本革製品を造られています。
定番の財布やブックカバーだけでなく、名刺入れ、パスケース、スキットルケースやファーストシューズなど。ちょっと変わったものではネクタイやワインボトルカバーまで、鹿革で造られています。

大切なのは、鹿革を使った製品を作ったとしても、お客さんが喜ぶものでなければ、利活用したとは言えないこと。様々な小物を作ってみては使ってもらい、「鹿革を使って喜ばれるものとはなにか?」を突き詰めてきました。
そうした商品開発を継続した結果、現在では信州鹿革の小物として長野県小諸市のふるさと納税返礼品にも採用されているほか、直接メルセンに注文して購入することができます。。
捨てられる皮を利活用したペット用「手づくり鹿皮ガム」
自然の中で生きてきた鹿は年齢、大きさ、皮の厚みなどは一定ではありません。さらにキズ、穴やシワが大きい皮は革製品として活用できる部分がとても少なく、廃棄されてしまうこともあります。
そのためどうしても革製品としての活用には限界があります。そんななか、皮のままの活用方法はないかと、候補のひとつとして挙がったのがペット用のガムでした。牛床革(とこがわ)を使用したペット用のガムにヒントを得て、鹿皮でもできないかと製品開発にチャンレンジし、1年半の開発期間を経て完成しました。

保存料や着色料などの添加物は使用せず、汚れや臭み、脂肪酸化がない真皮層だけを使い、手作りをしています。さらに、獣医師の監修も受けペットの安全に最大限配慮して商品化したとのことです。
自然から来た皮に合わせた利活用
鹿皮の仕分けから、革、ペット用ガムにする作業工程を見せて頂きました。

こちらは皮の保管庫。有害捕獲され食肉処理施設に持ち込まれた個体から剥皮したもので、これまで廃棄されていた皮を引き取っています。

集めた原皮は、肉面に付いている余分な脂肪などを取り除くフレッシングが行われます。フレッシングを行うことにより、鞣し工程でなめし剤が均等に浸透しやすくなることで、安定した品質の革製品ができあがります。

その後アルカリで皮を膨張、石灰漬け・脱毛が行われ繊維をほぐして毛を除去します。この行程を経て、革にするもの、手作り鹿皮ガムの原料にするものを選別します。

革にする皮は、鞣し処理を施し、染色を行い、商品へと加工されます。
工場長曰く「鹿皮は生き物だから毎回どんな仕上がりになるかわかりません。天候でも変わりますし、個体によっても違います。」こうして、唯一無二の一枚が作られています。

一方、穴やシワの問題から革にしなかった鹿皮は、手づくり鹿皮ガムにするため、ペットフード用に新たに導入したこちらの小型のドラムで、通常の革づくりとは分けて処理を行います。

こちらは、鹿皮ガム作り事業のために新設された作業場です。
ペット用の食品を扱うため、土足厳禁となっており、従来の革製品の製造ラインとは別に作業しています。

鹿皮ガムは、職人が一つひとつ手作りしています。 犬の食いつきが良い長さ、太さなどのテストを繰り返した結果、今のサイズに決まったとのことです。


犬が好む硬さまで乾燥させ、計量して完成です。

「手づくり鹿皮ガム 」は新規事業なので梱包・出荷作業は社長が担っているとのこと。
全部使わないとかわいそう。皮の利活用を突き詰め続ける

社長は、タンナーとして牛革の製品を製造しつつ、ダチョウなどの革作りにも挑戦するなど、革づくりの可能性を広げる活動を続けてきました。
そんな中、北海道で害獣駆除されたエゾシカの廃棄されている皮の利活用を考え始め、地元信州でも肉は活用されても皮は廃棄されていたことを知りました。
「命をいただいたのに捨てられるとはもったいない」と、処理施設から捨てられるはずだった皮を引き取り、どうにか活用できないか試行錯誤を続けてきました。工場長が試しに鹿革を作ってみたところ、想像より良い革ができたため、鹿革を利活用した本格的な製品作りが開始されました。

製造面で数多くのサポートをし続けているのが、工場長です。
社長が新しい挑戦をされる際、工場長は「また新たな製品づくりができる」と、大変さよりも楽しみの方が勝るとのこと。どんな仕上がりになるか、何回も何十回も試し、製品になっていく工程を楽しみながら実施されています。
「特に好きな工程は染色」と話す工場長。思った通りに染まらないことも多いですが、試行錯誤の末に「メルセンならではのレシピ」が固まったとき達成感が得られるとのこと。タンナー(製革業者)ごとに染色や鞣しの特色があり、その好みはユーザーに委ねられるそう。明治44年から技術を継承し、現代もタンナーを続けているのも、メルセンの色や作りのファンがいることが想像に固くありません。

長野県のニホンジカ管理計画では2024年で年間約40,000頭の捕獲を目標としていますが、実際に駆除されているのは3万3千頭といいます。そのうち、メルセンの元に来るものが約3,500頭分の皮。他県のものも合わせ、年間約5,000頭の鹿の皮を活用しています。
まだまだ数多くの鹿の皮が捨てられている現実があり、扱う鹿の数を増やすにも、捕獲された鹿の食肉処理施設に搬入される頭数や運搬の問題、製造のキャパシティ、など数多くの問題が山積しているとのことです。

革としての利活に留まらず、ペットフードとしての活用を見出した新たなものにチャレンジする姿勢。
「頂いた命は全部使う」を理念に、鹿皮の利活用をさらに進めるため皮革を愛する2人の挑戦は続いています。
- ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
- 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。

