

2025年2月27日(木)、「環境に優しい食育協議会シンポジウム」(主催:東京ガス株式会社/後援:農林水産省、環境省、文部科学省)が、ガスの科学館クイズホールで開催されました。「ジビエ食をキーワードに持続可能な肉食のあり方と環境負荷を軽減するための食を考えること」を目的に、学校関係者や食育関係者など約200名が参加し、熱心に耳を傾けました。
ジビエ活用に向けた開催メッセージ
まず、服部栄養専門学校理事であり、服部栄養料理研究会会長の服部 津貴子(はっとり つきこ)氏と、東京ガス株式会社の常務執行役員・小西 雅子(こにし まさこ)氏が開会の挨拶を行いました。

服部氏は、SDGsの視点からジビエの重要性について解説し、特に学校給食への導入の可能性に言及。子どもたちに多様な食文化を体験させることの大切さを強調しました。

小西氏は、東京ガスが長年にわたり食育を支援してきた経緯を紹介し、ジビエを活用した地域課題の解決がどのように貢献できるかを説明。さらに、企業としての取組の可能性にも触れました。
続いて、石破 茂(いしば しげる)内閣総理大臣から、「ジビエは地域ならではの貴重な食材であるとともに、自然の恵みへ感謝する気持ちなど子供の頃からジビエを通じて食の意味を学ぶことは意義深い。ジビエの魅力を発信してジビエを利用した食育、地域の活性化・地方創生について、より一層取り組んでいただきたい」とのビデオメッセージが紹介されました。
基調講演では「持続可能な食と農」をテーマにジビエ活用を提案

シンポジウム第一部では、田村 典江(たむら のりえ)氏が「持続可能なこれからの肉食のありかた」をテーマに基調講演を行いました。現代の食料システムの課題と持続可能性への取組について語り、ジビエを活用することで食料問題や環境負荷の軽減に貢献できると提言。ジビエを取り入れた持続可能なフードシステムが地域経済を支え、食文化を豊かにすると述べました。
また、ジビエは教育を通じて地球環境や地域の農林業とのつながりを深める役割も果たすと強調。「ジビエは地域経済の活性化につながり、命の恵みを再認識する機会にもなる。今後は学校給食への展開が重要」と語り、参加者は熱心に耳を傾けました。
パネルディスカッション「ジビエ食の受容と普及のために」
第二部のパネルディスカッションでは、「ジビエ食の受容と普及のために」をテーマに、専門家の皆様が意見を交わしました。登壇されたのは以下の方々です。
【登壇者】
・藤木 徳彦(ふじき のりひこ)氏/一般社団法人日本ジビエ振興協会代表理事、オーベルジュ・エスポワールオーナーシェフ
・遠崎 将一(えんざき しょういち)氏/はだの都市農業支援センター、神奈川県秦野市環境産業部農業振興課農業支援・鳥獣対策担当課長代理
・田村 典江(たむら のりえ)氏/事業構想大学院大学専任講師、一般社団法人FEAST代表理事
ディスカッションの冒頭では、東京ガスの東郷(とうごう)氏が「ジビエの普及に向けて、どのような取組ができるのか、具体的に議論していきたい」と述べ、スタートしました。
①料理人の視点から:オーナーシェフ藤木氏の取組

パネルディスカッションでは、まずはオーナーシェフの藤木氏が自身の経験を交えながら、ジビエとの出会いや、現在の取組について語りました。
「私の店は長野県の蓼科高原にあります。東京から家族で移住し、27年前にオーベルジュ・エスポワールを開業しました。当初は信州の地産地消をテーマにした料理を提供していましたが、冬場の食材確保に苦労しました。そんな中、地域の猟師さんと出会い、ジビエに可能性を感じたのです」
当時はジビエの流通ルールが整備されておらず、飲食店への供給が難しかったと振り返ります。「11月15日の狩猟解禁後、猟師さんたちが獲った鹿や猪を分けてくれるのですが、適切な処理をしないと美味しくならない。逆に、丁寧に処理されたジビエは家畜の肉に負けない美味しさがあります」
また、藤木氏は「ジビエは硬くて臭い」という固定観念を払拭するため、美味しく調理し消費者に提供することが大切だと強調。「実際に食べてもらうと、『こんなに美味しいんだ!』と驚かれます。すると、これを捨てるのはもったいない、もっと活用しようという気持ちになるんです」と、ジビエの魅力を熱く語りました。
②行政の視点から:秦野市の遠崎氏の取組

続いて秦野市の遠崎氏が、行政の立場から鳥獣被害対策とジビエ活用の取組について話しました。
「近年、鹿や猪の個体数が増加し、農作物への被害が深刻化しています。これまでの有害鳥獣駆除では、捕獲した動物を廃棄するケースがほとんどでした。しかし、それでは資源が無駄になってしまいます。そこで適切な処理を行い、ジビエとして活用する仕組みを作ることが重要です」
秦野市では、猟師の協力を得て捕獲したジビエを食品として流通させる体制を整え、地域の飲食店とも連携を進めているとのこと。「ジビエを地域資源として活用し、持続可能な形で循環させることが、地方創生にもつながる」と伝えました。
③研究者の視点から:事業構想大学院大学の田村氏の取組

最後に、事業構想大学院大学の田村氏が研究者の立場からジビエ利用の重要性を語りました。
ジビエの取り扱いが広がった理由として、衛生基準の整備が大きかったそうで、現在は多くの人がジビエを取り扱えるようになったとのこと。また、地方創生の観点から、ジビエ利用の制度や政策的な投資が追い風となっていると指摘しました。
さらに、「農山村の暮らしでは多様な収入源が伝統的であり、ジビエもその一部として定着することを期待している」と述べ「ジビエが主な収入源でなくても、収入につながる可能性がある」と語りました。
ジビエ普及のために必要な「安全性」
続いて、ジビエの安全性についての議論が交わされました。

藤木氏「美味しいジビエを広めるためには、まず安全で安心なジビエが料理をする人たちの手元に届くことが大切です。日本ジビエ振興協会は、この安全なジビエの流通を確立するために、国と連携して取り組んできました。その上で、ジビエの美味しさを広める活動を継続しています」
遠崎氏「秦野市では、捕獲した野生動物の安全な取り扱いを重視し、県の許可を受けた食肉処理加工施設と連携しています。捕獲後は適切に解体され、安全な方法で流通します。また、連絡体制を強化し、捕獲から加工までの管理を効率的に行い、安全に消費者に届けられています」
田村氏「食べる側のリテラシーも大切です。ジビエが新しい食文化として広がる中、体調が悪いときに避けるべきだという知識や習慣も重要です。昔からジビエを食べていた人々には自然とそうした知識が身についている場合が多いですが、新しい食文化が広がる中で、そうしたリテラシーを啓発することも大切です」
どうすればジビエの普及が進むのか
次に、秦野市の遠崎氏は、ジビエを活用した地域振興活動について語りました。
「秦野市では、ジビエを活用した地域振興が進められています。具体的な取組としては、秦野商工会議所がジビエを取り扱う飲食店を掲載した『秦野ジビエナビ』の発行や、地域イベント『秦野たばこ祭』にジビエコーナーを設け、地域活性化を目指しています。」
さらに、鶴巻温泉とジビエを組み合わせた町おこしや、地元の飲食店が鹿肉を使った麻婆豆腐を開発するなどの試みも行われているとのこと。「東海大学と協力してジビエのステッカー、チラシやのぼり旗も作り、地域の飲食店で展開しています。今後は情報発信を強化し、ジビエイベント事業のPR活動を中心に進めていく方針です」
食育や給食へのジビエ食の導入
シンポジウム終盤では、ジビエの食育や給食への導入についての議論が交わされました。

藤木氏「学校給食に上手に入ってるところは、ジビエのクリアクリーンのイメージを伝えています。例えば栄養的に優れているよとか、高たんぱく低カロリーで鉄分も豊富だよ、機能的に優れたお肉、優れた食材を子どもたちに食べさせたいんだと伝えると、そこはすんなり入るんですね。しかも美味しいってなると、やっぱり使っていこうということになる」
田村氏「自然環境や山の管理がしっかりとされている地域から得られたジビエは、単に美味しいだけでなく、その土地の自然保護や農山村の豊かさにもつながります。ジビエの魅力は、美味しいお肉だけでなく、豊かな自然環境があってこそ作られるという点にも焦点を当てるべき」
最後に、東郷氏はジビエが食材としてだけでなく、若い世代に地域や地球環境について学ぶきっかけを提供する教材であると締めくくり、第二部が終了しました。
試食タイムでは「ジビエ給食メニュー」が登場
シンポジウムの最後には、参加者がジビエの魅力を実際に体験できる試食タイムが設けられました。今回は、学校給食向けに開発されたジビエメニューの一例が提供されました。

・鹿肉のミートソース
・鹿モモ肉(外モモ肉)のから揚げ
・鹿(ウデ・スネ)ポン酢
・鹿、猪骨を使用したジビエコンソメ
加熱をしっかりする、圧力鍋を使用する、ヨーグルトにつけこむなどの調理の工夫が施されていて、子どもでも柔らかく食べやすいお料理に仕上がっていました。
参加者からは「想像以上に食べやすくて美味しい」「学校給食にも美味しく安全な形で取り入れることは、ジビエが普及するのにすごく役立つと思う」といった感想が寄せられ、ジビエの可能性を実感する貴重な機会となりました。

環境に優しい食育協議会シンポジウム

- 住所:〒135-0061 東京都江東区豊洲6丁目1−1 ガスの科学館1F クイズホール
- 開催日:2025年2月27日(木)14:00〜16:30 ※本イベントは終了いたしました
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主催:環境に優しい食育協議会/東京ガス株式会社