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「鹿肉の価値を高めたい!」鹿肉の新たな利活用に挑戦する「サンクワシカカンパニー」 代表取締役・伊藤 善彦

東京都 シカ 通販・お取り寄せ
2021.02.28

鹿肉文化を日本で浸透させようと、2019年に「サンクワシカカンパニー」を立ち上げた伊藤 善彦さん。意外にも、前職は総合商社に26年間勤務。鉄やステンレス製品の原料になる鉄鉱石、ニッケルといった金属資源を扱う部署に勤め、多い年だと一年の3分の1は海外を飛び回っていたそうです。そんな伊藤さんが、なぜ転身を図ったのか? お話を伺いました。

「総合商社に勤めていたころ、私の主戦場は世界の鉱山。ひと息付けるのは、仲間との食事の時間だけでした。鹿肉と出会ったのも、そのころです」と伊藤さん。初めて鹿肉料理を食べたのは2004年ごろ、フィンランドでのトナカイのステーキ。
「トナカイの肉は繊維質が太くて固い印象でしたが、噛み応えがあって美味しかったですね」

海外では、食に対する印象的なエピソードがあったと言います。仕事で一緒になることの多かったイギリス人のなかには、「子どもには牛・豚よりも、なるべく鹿を食べさせる」という人が多かったそうです。

理由を尋ねると、「放牧・野生を主としている鹿は、家畜である牛や豚と違い、ホルモン剤や抗生剤が投与される心配がない。しかもタンパク質、鉄分などの栄養素に優れており、牛や豚よりも低脂肪だからだと。彼らは鹿肉の安全性や栄養価の高さを熟知していたのです」

また、インドでは「鹿肉だけは食べる」というヴィ―ガンにも出会いました。飼育場や飼料の確保が環境を脅かしている家畜とは違い、森と共生する鹿の生態系が「エシカル」という彼らの哲学にフィットしていたからでしょう。

世界に誇れる鹿肉との出会いと、新たな人生の選択

転機となったのは2017年。初めて高知県で日本の鹿肉を食べるチャンスに恵まれました。
「海外で食べた鹿に比べて繊維質がきめ細かく、独特の臭みもない。これは世界に誇れる食材だと思いました」
その一方で、鹿の増え過ぎによって林業被害や農業被害が増えていること、土砂災害の原因にもなっていること、食害を減らすために国をあげて捕獲の強化を進めていること、捕獲された鹿は1割程度しか食肉として流通されていないことを知りました。

「日本の鹿の利用率を上げるために、ひとりの商人として何かできることはないか?」
日増しにそんな思いに駆られるようになっていったそうです。

不思議な響きの社名の由来

2018年4月、50歳を迎えたのを機に、長年勤めた会社を離れ、起業を決意。
「鹿と共生しながら、森の生態系を守る」。そのための調整弁としての特に流通の役割を担うべく「サンクワシカカンパニー」を立ち上げました。会社のロゴには、「人と、鹿と、森の、よりよい共生を目指す」という思いを込めたそうです。

伊藤さんが扱う鹿は、“和鹿”という略称で呼ばれます。和鹿とは、本州鹿、蝦夷鹿、九州鹿、慶良間鹿(ケラマシカ)、屋久鹿、対馬鹿、馬毛鹿(マゲシカ)。これら日本に生息する7種類の鹿を指し、「日本人の馴染みになるように」との思いを込めて伊藤さんが名付けました。「和鹿に感謝(THANK)する」(=サンク・ワシカ・カンパニー)という意味の社名の由来にもなっています。

「取り扱う鹿肉は、厚生労働省の衛生ガイドラインを軸に、食肉処理施設の地域に則した、より厳しい衛生管理を行っている食肉処理施設から仕入れています。なかでも、ロースとモモ肉はサイズカットや筋引き(※肉の筋を切り離すこと)など、一般消費者の強い要望にご対応いただけるところから購入させていただいています」と伊藤さん。

消費者がより安心・安全にジビエを食せるようにと、2018年に農林水産省が制定した「国産ジビエ認証制度」をもつ施設との取引も、少しずつ増えているそうです。

低脂肪、低カロリー、高タンパク、バランスのいい食材

和鹿の魅力は、肉の繊維質のきめ細やかさ、香り、旨味だけではありません。
「和鹿は、赤身肉のなかでも特に低脂肪・低カロリーでありながら、タンパク質や鉄分、ビタミンB2、ビタミンB6、カルニチンが豊富。疲労回復や滋養強壮、貧血予防、脂肪燃焼など多くの効用があり、天然の優れた食材でもあるんですよ」

※本州以南のニホンジカと比較

低脂肪、高タンパク、ミネラル豊富な和鹿肉は、厳しい体調管理が必要なアスリートやダイエット中の人はもちろん、健康や美容効果も期待できる食材。栄養価の高い食材なので、小さな子供にも安心して食べさせることができます。

伊藤さんに、お気に入りの食べ方を聞いてみました。
「個人的にはモモ肉が一番好きですね。鹿1頭からとれる量はロースよりも多いので、価格も少しお手ごろです。最近は、“和鹿カツ”にはまっています。トンカツよりも美味しく、それでいて同じ量を食べてもカロリーは約半分程度。しかも、鉄分もしっかりとれて、食後も爽快感があります」

より安心・安全、手軽に和鹿を食べてもらうために

継続した鹿肉の消費を目指すには、新たな手法での流通ルートの確保が不可欠と考える伊藤さんは、外国人スーパーなどへの和鹿の卸売業と合わせて、和鹿を販売するオンラインサイトも運営しています。

「鹿肉を手軽に買える場所として。また、安心して召し上がっていただくための身近な情報発信の場として開設しました。和鹿肉は世界に誇れる食材です。そして、厳しい山の中で鹿を捕獲する人や食肉処理施設の方々の衛生管理に対する真摯な姿勢、日々の弛まぬ努力は、この優れた食材の安心・安全を守っていくための日本が世界に誇れるもう一つの原資です。単に鹿肉を販売するだけのサイトではなく、しっかりとストーリーを伝えながら、鹿肉という食の新たな選択肢(価値)を創っていきたいですね」

鹿肉をより手軽に楽しんでもらえるよう、商品開発も行っています。新商品の「和鹿のミートボールトマト煮(2人分)」(1,390円・税抜)は、何度も試作を繰り返した末、5か月ほどかけてようやく完成したこだわりの逸品。静岡県伊豆産の鹿肉を工場で粗挽きにし、玉ネギは炒めてから使用。食べる時は、冷凍のまま湯せんで約15~20分加熱を。コクがあるのに後味はさっぱりとしていて、いくらでも食べられます。トマトソースもたっぷり入っているのでミートボールパスタソースとしても便利です。

同じく新発売の「和鹿生ハンバーグ」(690円・税抜)は、鹿肉と玉ネギなどの肉以外の割合を型崩れがしないギリギリのところで調整したという品。180gとボリュームがありますが、カロリーは100gあたりたったの141kcal。
こちらは、フライパンでの加熱調理が必要。
「加熱済み商品も試作しましたが、生のハンバーグを焼いた時の風味や旨味にこだわり、あえてご自宅で焼いていただくことを選択しました」と、伊藤さん。

商品開発のこだわりを聞いてみると、
「鹿肉ならではの高機能性(高タンパク、鉄分・カルニチン豊富、低脂肪・低カロリー)、ホルモン剤・抗生剤フリーという“森の恵みには余計なものを極力入れない”商品作りが基本です。新商品のミートボールとハンバーグは、食品添加物完全無添加にこだわって作りました。体を鍛えている人・ダイエット・健康や美容のためなど、さまざまな人の“日常の食の課題”の解決に役立てる商品作りを目指しています」と、答えてくれました。

「単に鹿の利活用をするだけでなく、鹿の価値を高め、消費者に「必要な商品」として鹿肉を提供することで、農村地域の所得向上につながればと思います。そして、農村地域の鹿による被害を軽減して森の生態系バランスを保つ。そんなTHANKのサイクルがバランスよく循環していく未来が私の理想」と話す伊藤さんの取り組みは、まだ始まったばかり。今後の展開に目が離せません。

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