房総ジビエを地産地消。毎日でも食べられる価格のコスパ良し創作料理レストラン「Jazz&Dining きまぐれうさぎ」千葉県木更津市
千葉県木更津市・東太田の住宅街に、夜になると静かに灯りがともる小さなレストランがあります。「Jazz&Dining きまぐれうさぎ」。その名のとおり店内にはピアノが置かれ、プロミュージシャンによるジャズライブが不定期で開かれています。

一方でキッチンからは、鹿やいのしし、キョンといった房総ジビエと地元野菜の香りが立ちのぼります。
営業時間は18時から深夜2時まで(ラストオーダーは翌1時)。仕事帰りに一杯だけという利用から、しっかりディナー、ライブの日には音楽と食事をゆっくり楽しむ夜まで、さまざまな過ごし方ができるお店 です。
客層は30~40代を中心に、0歳の赤ちゃん連れから80代のお客様までと幅広く、「肉と野菜のレストラン」というコンセプト通り、気取らない温かさが漂っています。
房総ジビエ×千葉県産果物のマリアージュ「鹿モモ肉のタリアータ」

取材の日、まず登場したのは「鹿モモ肉のタリアータ」(150g:1,790円、200g:2,380円・税込)。房総ジビエとして認定された鹿のモモ肉をグリルし、薄くスライスして盛りつけた一皿です。
鹿は体つきがスレンダーで、バラ肉の部分には筋が多く、食べやすい部位は思いのほか限られています。そのなかでモモ肉は、赤身の旨味と柔らかさを両立させる貴重な部位。きまぐれうさぎでは、脂身の少ない部位をじっくり火入れし、しっとりとした食感に仕上げています。

ソースには、その時季に千葉県内で採れる果物を合わせます。取材時の11月上旬は、富津市産のブルーベリーをたっぷり使った赤ワインソース。時期によっては、姉崎産のいちじくと赤ワインのソースに変わるそうです。ほんのり甘酸っぱい果実の風味が赤身の香りを引き立てており、感想は「美味い!」の一言。
はじめてジビエに挑戦する方には少しハードルが高いと思うかもしれませんが、丁寧に処理された鹿肉は驚くほど柔らかく、「言われなければ牛肉と錯覚してしまう」ほど。「まずは揚げ物で慣れてから」という人には、同じく鹿肉を使った一口サイズのヒレカツも用意されています。
一年中楽しめる看板メニュー「いのししロースのグリル」

きまぐれうさぎのメニューのなかで欠かせないものが、「いのししロースのグリル」(150g:1,790円、200g:2,380円・税込)です。千葉県の「ちばの醤油グルメフェア2025」でも看板メニューとして紹介される一品で、房総ジビエのいのししロースが通年で提供されています。
その調理はとても丁寧です。まずロース肉の表面をフライパンで香ばしく焼きつけ、肉汁を内部に閉じ込めてからオーブンへ。中心温度計を使い、衛生的にも美味しさの面でもバランスがよいとされる75度までじっくりと火を入れます。

そして規定の温度に達してもすぐに取り出すのではなく、アルミホイルをかけて数分間休ませ、肉の中の水分を十分に落ち着かせてからカット。しっとりとしたロゼ色の断面からはじわりと肉汁がにじみ出ていました。

皿の上には、グリルしたいのししロースと房総野菜が彩りよく並びます。ソースは甘みのある醤油ベース。富津市の老舗醤油蔵「宮醤油店」の醤油など、千葉の醤油を使ったタレが肉のコクを支えています。
テーブルには塩と柚子胡椒も添えられており、まずは塩だけで食べてみると、豚でも牛でもない、でもどこか懐かしいような肉の香りが口の中に広がります。それでいて脂はサッパリとしており、ビールにもワインにも合いそうな仕上がりです。
そこに柚子胡椒をつけると、その美味しさは増す一方です。いのしし特有の香りもやや穏やかになるため、「まずは塩で一切れ、そのあと柚子胡椒で」という順番で味わうと、いのししの魅力をより強く感じられます。
お肉の美味しさがギュッと詰まった「いのししのハンバーグ」

もっとカジュアルにジビエを楽しみたい方には、「いのししのハンバーグ」(1,980円・税込)がおすすめです。肉そのものの存在感を大切にするため、つなぎなしで作っているそうです。
火を入れると余分な脂は落ち、ぎゅっと凝縮された旨味と、いのししらしい香りが立ちのぼります。「肉々しいのに重たくない」「ライスと一緒にがっつり食べたい」と、晩ご飯として注文する常連さんも多い一品です。
そのほか、きまぐれうさぎでは季節にあわせて創作料理のメニューも登場します。これまでにもジビエ担々麺やいのしし醤油ラーメンなどが期間限定で登場しています。価格もお手頃で「ちょっとしたお昼にジビエ」が楽しめるコスパの良さも魅力の一つです。
幼少期から「山の恵み」を食べてきた店主が選んだ道

店主の稲垣さんは木更津市のお隣、富津市の出身です。山の仕事に携わっていた父親の縁で、幼いころからいのししや鹿に限らず、さまざまな野生動物の肉に触れてきたと言います。「いろんなお肉を食べる機会が多くて、もともと興味があったんです」と語る表情はどこか楽しげです。
やがて自分の店を持とうと決めたとき、鹿やいのししは畑を荒らす厄介者としての認知が広まっていました。年間の農作物被害額は県単位でも決して小さくなく、獣害対策としての捕獲が進む一方で、命がそのまま廃棄されてしまう現実もあります。
そこで稲垣さんは「どうせ駆除しなければならないなら、美味しいお肉としてきちんと食べてもらいたい」と考え、ジビエ料理を中心とした店づくりを決意されたそうです。
調理はほぼ独学。飲食店での経験を積みながら、創作料理としてのジビエを自分なりに組み立ててきました。オープン直後には大型台風による停電で仕込みを全てやり直す事態に見舞われ、翌年にはコロナ禍で時短営業へ――と、決して順風満帆ではなかった7年間。
それでも店を続けてこられたのは、地元のお客さまと県外から訪れるジビエ好きに支えられてきたからだと言います。
食材の多くは千葉県産。房総ジビエと地元野菜へのこだわり
きまぐれうさぎで扱う鹿やいのしし、キョンなどの肉のすべては、君津市や館山市にある食肉処理加工施設から仕入れられています。千葉県内で捕獲されており、解体・処理も県内の食肉処理加工施設で行われたジビエだけが、「房総ジビエ」として販売されています。

実際、木更津市で開催されたジビエイベントに出店した際は、「ジビエは臭いもの」というイメージを持っていた人が一口食べて驚き、翌日に家族連れで店を訪れたという嬉しいエピソードもあったそうです。
野菜も、できる限り房総半島のものを使います。木更津市や近隣地域の農家から届く葉物や根菜に加え、鹿肉のソースには富津市産のブルーベリー、姉ヶ崎産のいちじくなど、千葉県産の果物も登場します。「ジビエも野菜も、できるだけこの土地のものを一緒に味わってほしい」という稲垣さんの思いが、一皿の中にぎゅっと詰まっています。
「翌日調子がいい」。女性客にも支持される理由

ジビエというと「男性が好むワイルドな料理」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかしきまぐれうさぎの客層は、男女比で見るとむしろ女性のほうがやや多い印象だそうです。
印象的だったのが、ある常連の女性客の言葉です。「ジビエを食べると、翌日調子がいいのよね」。高たんぱく・低脂質な鹿肉やいのしし肉は、鉄分やビタミンも豊富で、ヘルシー志向の人にも注目されています。「美味しく食べて体も喜んでいる気がする」という実感が、リピートにつながっているようです。
店内はカウンター席とテーブル席が中心で、一人でふらりと訪れる人もいれば、女性グループや夫妻、親子連れの姿も見られるそうです。予算感としてはお酒を楽しむ人は5~6千円前後、食事中心なら3~4千円ほどがディナーの目安。いのししロースのグリルも150gで1,790円と、都内のジビエ飲食店と比べるとかなりリーズナブルな価格設定です。
訪れるなら、どんな夜がおすすめ?

初めてきまぐれうさぎを訪れるなら、まずは通常営業の夜にゆっくりとディナーを楽しむのがおすすめです。鹿モモ肉のタリアータといのししロースのグリルをシェアし、いのししハンバーグや地元野菜の前菜を合わせれば、房総ジビエの魅力が一度に味わえるコースのような構成になります。
二度目以降は、千葉県内のフェアやジビエイベントと連動した限定メニューを狙うのも良いでしょう。前述したいのしし醤油ラーメンやジビエ担々麺など、期間限定の一杯は、稲垣さんの「千葉しばり」の遊び心がもっとも強く表れているメニューでもあります。
ジャズ好きなら、ライブの日程を公式SNSでチェックしてから予約を。ミュージシャンの音色と、房総の山から届いた命と、地元の野菜や果物。その3つが同じテーブルのうえで出会う夜は、「木更津に来て良かった」と思わせてくれるに違いありません。
房総半島の自然と共に生きる人々の営みを、音と味で体感できる場所。それが「Jazz&Dining きまぐれうさぎ」です。ジビエ初心者も、食べ慣れた通の方も、ぜひ一度、自分の舌と耳で確かめてみてください。
きまぐれうさぎメニュー(※情報は取材時点のものです)






Jazz&Dining きまぐれうさぎ
- 住所:千葉県木更津市東太田1-12-6-6
- TEL:090-4371-6273
- 営業時間:月、水~土|18:00~26:00(ラストオーダー25:00)、木・金・土|12:00~14:30(ラストオーダー14:00)
- 定休日:火曜日
- ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
- 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。

