
函館駅から歩いて5分ほど。大門横丁にほど近い松風町の一角に、「焼いてもらうジンギスカン&ジビエ サクパマタパ」があります。もともと「大門ひつじ亭 松風店」として営業していたお店が、2025年2月にリニューアルオープンし、現在の店名に生まれ変わりました。
「サクパマタパ」とはアイヌ語で春夏秋冬を意味する言葉です。「サクパ」が暖かい季節、「マタパ」が寒い季節を意味しており、店主の奥山さんが大切にしている「一期一会」の精神から連想して名づけたとのことです。「北海道の店だからこそアイヌ語を使いたい」。そんな思いが、この響きに込められています。
カウンター6席にテーブル席を合わせて計15席ほどの店内には、各席にジンギスカン鍋がセットされています。ここでは生ラムだけでなく、エゾシカやヒグマといったジビエも同じジンギスカンスタイルで提供されます。そしてもうひとつ、この店には大きなこだわりがあります。「お客様には焼かせない」ということです。
旨味がにじみ出る一瞬を見極める。鹿のシキンボとカタロース

この日いただいたのは、エゾシカのシキンボ(1,650円・税込。写真右上)、エゾシカのカタロース(1,540円・税込。写真右下)、そしてヒグマのバラ肉(2,800円・税込。写真左)の3種です。

肉を焼くときは、まずジンギスカン鍋の上に旬の野菜が敷かれます。取材時は雪の下大根をはじめとする冬の野菜が並びました。その野菜の上に肉をのせ、蓋をして蒸し焼きにしていきます。野菜の上にのせることでお肉を焼きすぎず、蒸気でふっくらと柔らかく仕上がるのだといいます。

最初に焼き上がったのはエゾシカのシキンボです。シキンボとは鹿のもも肉の裏側にある部位で、1頭から2本、約2kgほどしか取れない希少な部分です。脂が適度にのっており、肉質はしっとりとして柔らかく、噛んだ瞬間にじゅわっと肉汁がにじみ出てきます。塩コショウでいただくと、鹿肉の甘みと旨味がダイレクトに伝わってきました。

続いてカタロース。こちらはシキンボと比べるとしっかりとした肉肉しさがあり、力強い味わいが楽しめます。歯ごたえも心地よく、噛むほどに旨味が広がります。鹿肉は肉汁がにじみ出てくるくらいの焼き加減が一番美味しいとのことで、奥山さんがまさにその瞬間を見極めて提供してくれます。

どちらの部位も塩コショウで食べるのがおすすめ。鹿肉は癖がないため、タレをつけると肉の繊細な甘みや旨味が消されてしまうのだそうです。塩で食べてこそ、素材そのものの味が際立ちます。
おばあちゃん秘伝のタレわさびで味わうヒグマのバラ肉
鹿に続いていただいたのは、ヒグマのバラ肉です。熊肉は鹿よりもしっかり火を通す必要があるため、奥山さんが焼き加減を慎重に見極めながら仕上げていきます。鹿は火が通りやすいのですぐに食べられますが、熊は「よく焼かなくちゃいけない」。一方で火を入れすぎると硬くなってしまうため、加減が難しい食材でもあります。

ヒグマのバラ肉のおすすめの食べ方は、お店の自家製タレにわさびをのせる「タレわさび」です。このタレは奥山さんがおばあちゃんから受け継いだ秘伝のレシピで作られる醤油ベースの一品で、甘さの中にしつこさがなく、肉の味を引き立てる絶妙なバランスに仕上がっています。
もともとはジンギスカン用として家庭で使われていたもので、チャーハンや照り焼きにも合う万能タレなのだとか。大量生産はできないため、タレのみの販売はされておらず、この味はお店でしか出会えません。
わさびをお肉にちょこんとのせて、タレにくぐらせて口に運ぶと、肉肉しい熊の風味にわさびのすっきりとした辛味が絶妙に絡みます。奥山さんいわく、「山のものと山のものは合う」。わさびも熊も山の食材。きのこなどもそうですが、山で育ったもの同士は自然と調和するのだと話します。
塩コショウだけで食べてもワイルドな味わいが楽しめますが、タレわさびにすると熊肉の存在感はそのままに、後味がすっきりと引き締まります。鹿肉の繊細さとはまた違った、力強いジビエの魅力を堪能できる一皿です。
北海道産にこだわる野菜。春には自ら山菜を採りに
ジンギスカン鍋で一緒に焼かれる野菜は、基本的に北海道産の旬の野菜、近隣の北斗市をはじめとする道内の農家から届くものを中心に揃えています。取材時に登場した雪の下大根は、冬の時期ならではの甘みが凝縮されており、肉の脂を吸った野菜がまた格別の美味しさでした。
春になれば主役は山菜に。ギョウジャニンニクやフキノトウ、タラの芽などが並び、奥山さん自らが山に入って採ってくることもあるといいます。「自家製のフキ味噌をラム肉や鹿肉と一緒にどうぞ」という提案も、この店ならではの楽しみ方です。
「自分で焼きたいなら他のお店へ」。焼いてもらうスタイルが生まれた理由

サクパマタパの最大の特徴は、肉を店主やスタッフが焼いて提供するスタイルです。メニュー表にも「御自身で焼きたいお客様は他店をご利用ください」という一文が記されているほど、強いこだわりがあります。
その理由はシンプルです。「みんな焼きすぎちゃうんですよ」と奥山さんは笑います。ジンギスカンは通常、お客さんが自分で焼くスタイルですが、焼き加減がわからないまま火を通しすぎてしまい、カチカチになったお肉を食べている人が多いのだそうです。「もったいない。ちょうどよい焼き加減の美味しさを楽しんでほしい」という思いから、お店側が焼いて提供するスタイルに行き着きました。
当初は奥山さん一人で全席を焼いて回っていたそうですが、人気が出るにつれて手が回らなくなり、今では複数のスタッフで対応しています。それでもお客さんごとに焼いていくのは大変な作業です。外国人観光客、とくに韓国からのお客さんも多く、奥山さん自ら韓国語でコミュニケーションを取りながら接客にあたっているそうです。
あまりの人気ぶりに予約なしのお客様を1日に60人断ることもあるほどで、2026年2月にはすぐ近くの場所に2号店をオープンしました。
洞爺湖のホテルで出会ったジビエの美味しさ

奥山さんがジビエに目を向けたきっかけは、かつて洞爺湖のホテルで働いていたころにさかのぼります。当時のシェフが猟銃を持つハンターでもあり、その人に付いて山に入り、鹿の解体を一から学びました。その経験を通じて、鹿肉の美味しさは十分にわかっていたといいます。
その後、親がジンギスカン店を営んでいたこともあり、奥山さんも新たにジンギスカン店を開くことになりましたが、「ただのジンギスカン屋で終わりたくない」という思いがありました。ジンギスカン鍋の上で野菜と一緒にジビエを焼けば、肉汁が野菜にも染み渡り、素材の美味しさを余すことなく楽しめる。このスタイルはまさにジビエの魅力を引き出す理にかなった方法だと考え、現在の形にたどり着いたのだそうです。
鹿肉は函館市にある食肉処理施設「Sauvage de Hakodate(ソバージュ ド 函館)」から、一部の部位は茅部郡森町の「マノワラボ」からも仕入れています。ヒグマもSauvage de Hakodateから届いており、昨年は5頭を丸ごと買い付けたといいます。
入荷した熊を部位ごとにさまざまな形で提供していますが、4頭分はすでに売り切れてしまったとのこと。熊肉は人気が高く、ゴールデンカムイやグランメゾン東京といった作品の影響もあり、ジビエへの注目が高まっているタイミングだと奥山さんは感じているそうです。
来るたびに違う味が待っている。鹿と羊の食べ比べセットがおすすめ

初めて訪れる方へのおすすめは、鹿と羊食べ比べセット(3,850円・税込)です。ジンギスカンスタイルで鹿肉と生ラムを一緒に味わえるお得な内容で、最初に鹿肉と生ラムを一緒に焼き、その後に極上ラム(羊の肩ロース)が登場するという構成になっています。一度に出すと肉同士の味の違いがわかりにくくなるため、分けて提供する工夫がされています。

このほか、週替わりで登場するおすすめメニューも見逃せません。仕入れ状況によってシキンボのような希少部位が登場することもあり、来るたびに新しい味わいに出会えるのがこの店の魅力です。ドリンクを含めた一人あたりの予算は4,500円ほどが目安です。
週末は予約なしでの来店が難しいほど混み合うため、事前の予約をおすすめします。平日であれば比較的入りやすいとのことですが、それでも予約がおすすめです。
アットホームな雰囲気のなかで、奥山さんやスタッフが気さくに話しかけてくれるのもこの店の魅力のひとつ。函館の夜に、海鮮とはひと味違う「山の恵み」を楽しみたいなら、ぜひ足を運んでみてください。
焼いてもらうジンギスカン&ジビエ サクパマタパ
- 住所:北海道函館市松風町20-3
- TEL:080-9018-8138 ※予約推奨
- 営業時間:火~日|17:00~23:30(ラストオーダー23:00)
- 定休日:月曜(祝日は営業、不定休あり)
- ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
- 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。

