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「鹿皮紙」歴史ある素材と人との好循環 カワダシュウジが想い描く鹿皮利活用の新提案とその未来

東京都 シカ 革製品
2025.02.06

東京都青梅市日向和田駅から程近い場所にショールーム「鹿皮紙と無花果」が在ります。
日本で初めて鹿皮で作る羊皮紙「鹿皮紙」の開発企画をおこなう唯一の場所です。
鹿皮紙開発者であるカワダさんたちが築80年の古民家をセルフリノベーションし、2023年11月にオープンしました。

新素材「鹿皮紙」とは

「鹿皮紙」は、ニホンジカの皮を使用し古来ヨーロッパや中東に伝わる羊皮紙作り伝統技術と現代日本皮革技術を融合させ開発されました。紀元前より製造されていた羊皮紙は羊やヤギを使用し、その保存性の高さから筆写素材として利用され1000年を超える書物が現存しています。日本史には羊皮紙作りの記録は無く、鹿皮紙は廃棄されるニホンジカの皮の新しい活用方法として注目されています。
鹿皮紙の厚さは0.2~0.45mm程で、軽く張りがあり耐久性に優れています。鹿独特の風合いと温かみが感じられる紙状のこの素材は、筆写・印刷素材として使用でき加工性の高さから幅広い用途に活用出来る可能性を秘めています。

ショールームに一歩足を踏み入れると、整然と並べられた様々な種類の鹿皮紙や製品が目に入ります。ニホンジカの個体差に由来した皮のテクスチャーは多彩で魅力的です。

革モノ作り教室をきっかけに始まる鹿皮紙作り

カワダさんは、鹿皮紙プロジェクトと共に東京JR中央線国立駅から程近くの場所で革モノづくりの技術と魅力を伝えるshujiworks手縫い革教室(シュウジワークス テヌイカワキョウシツ)手縫い革教室を主宰しています。「皮から革にする工程を一から学び、教室の生徒さん達に伝えたいという想いが猟師になったきっかけです。猟や森林保全に関わる中で、全国で鹿が一因となる社会問題の事や廃棄される鹿皮の多さを知りました」

そんな折にイタリアで開催される国際革展示会へと向かいます。その滞在中に思いがけない出会いが待っています。「友人の紹介によりパオロさんという羊皮紙を扱う職人に出会い、初めて羊皮紙に触れました。美しく魅力的な白さを持つ羊皮紙。その素材で作られた革では表現出来ない有機的な自然美を持つ作品たちに心が打たれました。そして鹿皮でも羊皮紙を作れないだろうかと考えるようになりました」

ニホンジカの皮の利活用率を高める可能性を持つ鹿皮紙

日本各地で深刻化する獣害問題。年々拡大するニホンジカの生息域と増加する被害額に対し、各地で捕獲による個体数調整が行われています。捕獲された個体の資源は未活用のまま多くが廃棄されている状況が続いています。それには理由がありました。
「捕獲された鹿から得られる「鹿皮」は、なめし加工を施すことで「鹿革」として活用されています。しかし、自然に生きる鹿皮の多くは傷や穴等があります。家畜として育てられていない鹿は年齢や生息環境も違うため皮の厚さや大きさもバラバラです。それが鹿革として活用する大きなハードルになります」とカワダさんは説明します。

この課題に対し、鹿皮紙プロジェクトのカワダさんは新しい解決策を提案しています。「鹿皮紙は、レザーには適さない薄くて傷のある皮でも十分に活用できます。小さなサイズでも付加価値の高い製品として生まれ変わります。レザーとして活用する際の多くは傷が無く大きく厚い皮を求められますが、鹿皮紙は皮が持つ自然のテクスチャーをそのまま活かして作られます。仕上がった個体差のある鹿皮紙を用途に合わせて分類し必要とされる場や人へ届けます」

いままではレザー以外に利活用が進んでいませんでしたが、鹿皮紙プロジェクトの提案は全国の鹿皮利活用の転換点となる可能性を秘めています。未利用資源を活用することで廃棄されるコストを削減し、新しい価値を創造します。それが地方創生にも繋がる可能性を感じさせてくれました。

研究開発期間を経て、鹿皮紙プロジェクトが動き出す

2015年から始動した鹿皮紙プロジェクトは長年に及ぶ研究開発期間を経て、近年はショールームを初め展示会や大学講義など鹿皮紙の可能性を広く伝える活動にも力を入れています。

鹿皮紙が持つ透過性を活かしたペンダントライト

初めて鹿皮紙という素材に触れそれぞれの経験を基に新しいアイデアが生まれる瞬間を間近で見ることができます。鹿皮紙から作った製品を見た方たちの反応からもこの素材の可能性を改めて実感しました.

鹿皮紙を素材として生み出された製品「鹿皮紙life-product」。
鹿皮紙で作られた製品たちは、ファッション分野以外にも照明や時計や壁掛けなどインテリアとして、カリグラフィーや絵画などのアート素材として、太鼓等の皮を張る楽器素材として今までにない鹿皮の利活用を示します。

開発者自らが来訪者と直接意見を交わし活かすこと、それがプロジェクトをより進化させる力になっていると感じました。

日本伝統芸能と鹿皮紙

2024年10月にカワダさんは三味線皮の製造販売をおこなう藤井楽器との共同開発により日本で初めて三味線用鹿皮の開発に成功します。
「三味線は、日本伝統芸能を代表する邦楽器です。鹿皮紙作りで培われた技術が日本の伝統芸能継承に貢献できることをとても嬉しく思います。日本で初めて三味線皮としてニホンジカの皮が活用されます。それによりまた新しい利活用が生まれ、楽器用皮としての可能性が広がりました」とカワダさんは笑みを浮かべます。

鹿皮紙を張ったアフリカ楽器のジャンベ

鹿皮紙プロジェクトのこれから

「鹿皮紙は自然に生きたニホンジカの皮を出来る限り手を加えず個体が持つ傷やしわなどの不均一さを魅力として捉えています。一頭一頭が違うのは当たり前であり、その中から一期一会の出会いを経て製品がユーザーの手に渡ります。現在、鹿皮紙や鹿皮紙で作られた製品とユーザーを結ぶシステムを構築しようと思案しています」カワダさんは語ります。

鹿皮紙をより身近に考えてもらえるように鹿皮紙を作るワークショップや鹿皮紙の活用を学ぶワークショップの企画を考えているそう。素材の製作や販売だけでなく、革モノ作り教室の経験を活かし次の活動にも繋げていくようです。

新素材 鹿皮紙が繋ぐ人々の好循環

「未利用資源の活用だけでなく、より良い未来のために何が出来るのか。獣害に困っている人たち、捕獲に携わる自治体や猟師たち、鹿皮を加工する人や製品を作る人や手に取る人たち、関わる全ての人たちが優しい未来を描き喜んでもらえる事がこのプロジェクトの理想の形です。その理想を現実にするために今日も活動に取り組んでいます」

鹿皮紙プロジェクトは、獣害を含む地域課題解決から地方創生へ、伝統芸能の継承、そしてより良い未来の創造を目指しています。今後も未利用資源であるニホンジカの皮活用が、人々の暮らしをどのように豊かにするか楽しみにしています。
毎月開催されるショールームでは、この新素材「鹿皮紙」の可能性を誰でも手に取って確かめることができます。WebサイトやInstagramからチェックしてみてください。

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鹿皮紙プロジェクト代表:カワダシュウジ
静岡県伊豆市出身
2010年 shujiworks手縫い革教室&工房主宰
2015年 鹿皮紙プロジェクト始動 / 狩猟免許取得
2021年 特許取得 第6974912号 鹿皮の羊皮紙の製造方法
2023年 ショールーム「鹿皮紙と無花果」Open、同年「鹿皮紙」商標登録
2024年 三味線用鹿皮開発

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