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食と体験を通して、森からいただく恵みの価値を高める「エーゼロ株式会社」ウナシカチーム

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2022.02.16

鳥取県と兵庫県に隣接する岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)は、自然豊かな中国山地の谷間にある人口約1,400人の小さな村です。ここに、ミシュランの星付きレストランでも好評なほど質がいい鹿肉があると聞き、その販売をしている「エーゼロ株式会社」(以下、エーゼロ)を訪れました。

オフィスは、廃校になった旧影石小学校内にあります。学校の校舎をリノベーションした施設には、「エーゼロ」のほか、帽子屋や酒屋といった一般の人が利用できる店舗も。

面積の9割以上を森が占めるこの村を「エーゼロ」が拠点とするのは、代表である牧 大介さんが、2009年に美しい森林を保ちながら社会に寄与する事業として、間伐材を加工・販売する「株式会社西粟倉・森の学校」を設立したことがきっかけでした。その後、製材業だけでは解決できない自然や人などの地域の課題に取り組むため、2015年に「エーゼロ」を設立し、現在では地域経済を循環させる事業や起業家の支援、ふるさと納税事業など幅広く展開しています。

正面玄関を入ると、まさに学校そのもの。どこか懐かしい雰囲気です。

廊下の黒板には案内が。校内には、ウナギの養殖場や加工場、食肉処理施設もあることがわかります。

「森のジビエ」をリアルに感じるツアーが始動

多彩な事業内容ですが、評判の鹿肉「森のジビエ」を展開しているのが、「エーゼロ」のウナシカチーム。その名のとおり、ウナギの養殖事業「森のうなぎ」と鹿肉をはじめとするジビエ事業を担当しています。

チームを率いるのはマネージャーの道端 慶太郎さん(写真中央)。竹内 裕美子さん(写真左)、野木 雄太さん(写真右)らと一緒に、西粟倉村に眠る自然の価値を引き出しながら、農林水産業の新しい形に日々チャレンジしています。

岡山県では、全国各地同様、鹿や猪による農作物や森林の被害が問題となっています。「エーゼロ」へと向かう道中にも、人の背丈よりも高い侵入防止柵が多くの畑に張り巡らされており、被害の深刻さを想像させられました。

西粟倉村では鹿による農作物被害額が高く、猪の約5倍にも上るそうです。先人から受け継いだ森林を100年大切に育てようという取り組みが盛んなこの村では、苗木や樹皮を食べてしまう鹿は、捕獲したあと、廃棄されていました。

そこでウナシカチームでは、鹿たちを駆除対象ではなく、自然の営みの中で生まれる森からの贈り物として捉え直し、せっかくの命を無駄死にさせずに生かそうと、2017年に「森のジビエ」事業を開始しました。

まず自分たち自身が鹿と向き合うため、地域の先輩方から解体方法を教わり、食肉処理施設を整備。精肉にして、地域の飲食店や道の駅、都市部(他県)のレストランなどへと卸しています。
「鹿たちは駆除すべきものではなく、森からいただいた恵みです。ですから、できる限り美味しくいただくことが私たちの使命だと感じています。今、特に力を入れているのが、一般の方に、西粟倉の自然環境や『森のジビエ』への取り組みを実際に目で見て、感じてもらうことができるツアーです」と、道端さん。

ツアー参加者は、村内の森をトレッキングしながら、自然環境について知ることのできるガイドツアーを体験できます。案内をする道端さんは、前職で自然環境調査の仕事を13年していた経験があり、自然の仕組みをわかりやすく解説してくれます。
「村には人工林が多いのですが、ミツマタばかりが育っている場所があります。ミツマタは鹿が嫌う植物のため、食害に合わずに育っているという証拠です。一方、ほかの木々は、せっかく植えても鹿に食べられてしまい、まったく育たないことも多々あります」(道端さん)。こういった森の中で起こっていることは、日ごろなかなか目にする機会がないだけに貴重な体験です。

ツアーでは、兵庫県立大学を中心とした研究開発事業で作られた自動捕獲システム「クラウドまるみえホカクン」を利用して、野生動物の捕獲の様子も見学できます。山に設置された檻の周囲には、鹿や猪など野生動物の動きを監視する赤外線カメラや動物たちの侵入を知らせる感知センサーなどが取り付けられています。

野生動物が檻の中に入ると、スマートフォンに通知が届く仕組み。画像を見ながら、都合のよいタイミングで扉を閉める遠隔操作が可能です。
「ツアーでは、檻に捕獲された鹿を間近で見ることができます。タイミングが合わない場合は、檻に入った鹿を撮影した動画を見ていただいています。狩猟現場を見ることは残酷だと感じる方もいるかもしれませんが、狩猟とは何か、自然とは何か、命をいただくとはどういうことなのか、といったことを考えるきっかけになるのではと思います」と、野木さん。

野木さんは、「エーゼロ」に入社後、狩猟免許を取得。猟師として鹿の捕獲を担当しています。
「猟をするようになって、一つ一つの命を大切にしたいという思いがよりいっそう強くなりました。とどめを刺す時には、できるだけ鹿にストレスを与えないよう、一発で仕留めるようにしています。ツアーに参加して実際に捕獲された鹿を見た方の中には、自分が見学した鹿を食べさせてほしいという方もいらっしゃいます。ただ食べるのではなく、命をいただくということを強く感じていただけているのではないかと思います」(野木さん)

森の現状や捕獲現場を見たあとは、鹿の解体の様子を見学。肉を傷付けないように丁寧に皮をはぎ、内臓を取り出してから、部位ごとに肉を切り出していきます。多い日には、1日で7頭もの処理・加工をすることもあるのだとか。

「ツアーの最後には、参加者全員で鹿肉でのバーベキューを楽しんでいただきます。今後は、鹿肉を食べながら参加できるオンラインでのツアーや、親子で参加できるツアーも実施していきたいです。共に企画開発していただけるインターン生も随時募集しています」と、ツアーの担当をする竹内さんは抱負を語ってくれました。

自慢の鹿肉を使った料理を求めて村内のゲストハウスへ

「エーゼロ」で解体処理・加工された鹿肉は、村内にある「あわくら温泉 元湯」で味わうこともできます。

こちらは、薪で沸かす天然温泉と星空の下での焚き火を楽しめるゲストハウス。1室2名利用時1名 5,700円~(税込)、大部屋利用は1名3,800円(税込・男女共有/間仕切りあり)。

こちらに宿泊すると鹿肉料理のディナーコースをいただくことができます。もちろんツアーに参加せず宿泊しても、また、日帰り入浴の後に食事を利用する際も、ジビエ料理を楽しむことができます(入浴料 大人500円・税込)。

食事は、木の温もりを感じる空間で。こたつ席もあり、くつろげます。また、小さな子供向けの遊具が置いてあったりと、子連れにも優しそう。

「鹿肉月見丼」(1,100円・税込)は、ローストした鹿のモモ肉を低温調理したもの。ニンニクが香るタレとの相性が抜群です。卵黄と肉をしっかりと混ぜてご飯に絡めて頬張ります。しっとりとやわらかく、赤身肉ならではの上質な旨味を存分に堪能できます。

鹿肉と一緒に味わいたいのが、西粟倉村で作られている「ヒノキビール」(ボトル800円・税込)。地元産の米で甘味を引き出し、発酵過程でヒノキのチップを浸して香り付け。フルーティな口当たりでヒノキの香りが漂います。

オンラインやふるさと納税などで、鹿肉をより購入しやすく

「エーゼロ」が生産する「森のジビエ」は、オンラインでの販売のほか、村内の道の駅「レストセンターあわくらんど」でも販売。「森のジビエ 鹿肉ヘルシーステーキ」、「森のジビエ 鹿焼肉あまから醤油」、「森のジビエ 鹿肉塩こうじ漬け」(各1,188円・税込)など、どれも味付きで、火を通して手軽に食べられます。ほかに、モモやロースなどの精肉も販売しています。

「熟練した地元の猟師さん達と連携して、素早い血抜きと迅速な処理を施すことで、臭みがなく、旨味たっぷりな肉に仕上げることができるようになりました。鉄分やたんぱく質が豊富で低脂質と、栄養バランスのよさも抜群です」(道端さん)。
最近は、西粟倉村のふるさと納税でも入手できるので、興味のある人はチェックしてみてください。

2021年には、犬猫のためのジビエフード「森のジビエfor PET」も販売開始。犬用のおやつで好評なのが、鹿のモモ肉ジャーキーやあばら骨、肩甲骨などの骨付きジャーキー。どれも無添加。「あばらジャーキー」(30g 850円・税込)、「肩甲骨ジャーキー」(1本1,100円・税込)、「ジャーキー」(15g 500円・税込)といったおやつのほかに、カットやミンチなどの肉も充実しています。

「天然の草を食み、源流の水を飲み、山々を駆け巡った西粟倉の鹿は、究極の自然派食材です。自然の営みで生まれてきたこの“森からの宝物”の価値を、どれだけ高めることができるのかが課題。猟師さんとの連携、素早い処理により鹿肉を美味しく食べられるようにすることはもちろんですが、ツアーを行うことで、西粟倉村のような里山の実態を知ってもらえるよう取り組んでいきたいですね」と、ウナシカチームのみなさん。

森からいただく恵みを余すところなく使い切り、より価値のあるものへと高める。そのための活動は、まだ始まったばかりのようです。

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