横浜国大生によるジビエ北海道視察レポート
2023年11月、横浜国立大学経営学部2年生の真鍋ゼミナールに所属する学生たちが、ジビエについての理解を深めるとともに、今後の商品開発に繋がる学びやアイデアを求めて、北海道視察へ出発しました。
参加した学生たちは、視察に先立ち、ジビエに関する座学を通じて知識を深め、準備を整えていた様子。「ジビエについての理解を深め、多くの若い人に魅力を届けられたら」と学生は意気込みを語ります。
今回、学生たちは美唄市のジビエ食肉処理場「Mt.」でエゾシカの解体、精肉を学び、新冠町のレザーブランド「TSUNOO」では、鹿革製品の幅広い製造過程を学んでいきます。
視察には、ゼミの先生である真鍋教授、鹿肉キッチンカー「SHIKASHIKA」を運営する鵜沼明香里さんと、横浜国立大学経営学部4年生であり鹿革製品の企画販売を行うディアベリー株式会社代表取締役の渡辺洋平さん(愛称:鹿くん)が同行しました。
「ジビエとは?」学生たちが問う自然との共生
羽田空港から新千歳空港に向かった横浜国立大学の学生たち。彼らは、初めての北海道でのジビエ視察にわくわくしていました。目指すは、美唄市に位置するジビエ食肉処理場「Mt.」。そこでの体験が、彼らに新たな問いを投げかけることになりました。
学生一同を出迎えてくれた、株式会社Mt.創業者の山本 峻也さんは、前職の農協職員時代に、エゾシカの食害や踏み荒らしによる農業被害が連発し、「誰もやらないなら私がやる」と一念発起して、北海道に生息するエゾシカとヒグマの食肉処理場の経営を行う、株式会社Mt.を創業しました。
Mt.の信念でもある「Cooking starts the moment the shooting」(撃つ瞬間から、調理が始まる)というコンセプトを基に設計された、契約ハンターとの提携や育成、鹿肉を買い求めやすくするための独自のランク付け、国産ジビエ認証の取得などの具体的な取組は、学生たちに大きな学びを与えました。
学生たちは、「ジビエとは?」という問いを起点に、ジビエは「美味しくいただく」だけではなく、生態系の健全な維持にも必要な要素であること、適切かつ理想的な状態を実現するために、実際に様々な工夫が施されていることを学んでいきました。
現場で体感する職人の技と、「いただきます」の意味
学生たちは、山本さんによる講義を受けた後に、実際に解体と精肉を見学。施設内で、熟練の職人たちが素早くエゾシカの解体作業を行っているのを目にすることは、学生たちにとって貴重な体験となりました。
職人たちの手際の良さ、細部への注意、そしてエゾシカへの敬意が感じられる作業は、学生たちに深い印象を与えたようです。「これはただの肉ではない。命をいただいているんです」と職人の一人が語ると、学生たちは静かにうなずきながら、作業を見守りました。この体験を通じて、一人の学生が「私たちはここで、命の重みを深く実感しました」と感動を語りました。
その後の昼食には、施設で解体、精肉されたエゾシカ肉とヒグマ肉のバーベキューが学生たちを待っていました。新鮮なジビエを使った料理は、彼らにとって初めての体験。「こんなに美味しいのに、なぜもっと普及しないのだろうか」とつぶやく学生の姿も。
鹿革の魅力に目を見張る学生たち
北海道視察の二日目、横浜国立大学の学生たちは、札幌から車で約3時間の距離にある新冠町のレザーブランド『TSUNOO』のアトリエを訪れました。ここでは、鹿革製品の製造過程とその独自の魅力について学びます。
アトリエに入ると、学生たちは鹿革製品の質感と美しさに魅了された様子。TSUNOO代表の津野尾 直樹さんは、鹿革の特性について詳しく語りました。「しなやかさと柔らかさが特徴で、革製品としては比較的水に強いのも魅力です」と津野尾さん。
「北海道で生産できる唯一の革ですので、今後は北海道産の革としての付加価値もあると思っています」と学生たちに語りかけます。
学生たちは、鹿革がどのようにして製品に変わるのか、その工程を興味深く見学しました。特になめし作業の手順に、学生たちの視線に熱が入ります。
津野尾さんは、「現在では、ほとんど廃棄されているエゾ鹿の皮を利活用することによって、新たな資源となる未来を目指しています。大きな産業の無い地方都市ですが、職人の技術で名産品となるようになれば嬉しいです」と鹿革製品の将来についても語りました。
「次世代の作り手を育てて、雇用を生み、町の新たな産業になる事が理想です。エゾ鹿革製品が普及すれば、鹿による農業被害、廃棄物の問題などにも微力ながら貢献する事も出来るのではないかと考えています」と続ける津野尾さんの言葉は、学生たちに鹿革の可能性を教え、地域社会における重要性を投げかけました。
この訪問を通じて、学生たちは鹿革の持つ独自の魅力、そして、鹿革が伝える自然との調和の大切さを深く感じました。TSUNOOのアトリエでの経験は、彼らにジビエと自然との関係に対する新たな認識をもたらしたようです。
新たなジビエの可能性を探る学生たちの展望
横浜国立大学真鍋ゼミナールの学生たちの北海道視察は、彼らにとってジビエに関する深い理解をもたらしました。「ジビエを『山の恵み』だと再認識した」と語る学生たちは、ジビエが持つ多様な価値と可能性を見出し、「一頭の動物が食卓に並ぶまでにここまで技術と人の手が関わっている」という事実を強く実感したことで、彼らに食べ物、そして自然に対する敬意が芽生えたように感じます。
訪問した鹿革工房では、「鹿革産業には想像以上に大きな課題がある」と感想を抱いた学生も。また、ある学生は「鹿が処理場で解体されてから、皮のなめしを経て、ひとつのレザー作品として生まれ変わるまでには、多くの手間と移動が必要で、多くの人の手がかかっている」ことに驚きを隠せなかったとのこと。
これらの経験を通じて、「ジビエの振興に、もっと多くの人に関心を持ってほしい」という共通の認識に達した学生たち。
北海道での学びを終え、視察を通じて、学生たちはジビエに関する認識を深め、持続可能な社会におけるジビエの重要性を再認識しました。ジビエに新しい価値を見出し、持続可能な未来を目指すために、メニュー開発と鹿革製品の開発という一歩を踏み出しています。彼らの挑戦が、私たちが抱くジビエのイメージに新しい視点をもたらしてくれることを期待しています。