小田原市の宮小路エリアに、ジビエを“高級料理”ではなく、気軽に楽しめる“日常の料理”として提供する居酒屋があります。都内のイタリアンやフレンチでシェフとして腕を磨いてきた店主の増田 龍次(ますだ りゅうじ)さんと、ともに店を切り盛りする奥様の増田 可奈子(ますだ かなこ)さんが営むお店「小田原ジビエ龍」です。
リーズナブルな価格で小田原産のジビエを提供

「小田原ジビエ龍」では、1,000円前後のリーズナブルな価格帯で、本格的な技法を取り入れたひと皿を提供しています。店主の増田さんがハンターでもあることが、このお店ならではの空気感や料理の背景を形づくっています。
店内に一歩足を踏み入れると、猟で仕留めた動物の毛皮や猟具など、ジビエにまつわる装飾が視界に飛び込んできます。野趣とセンスの良さが程よく共存した、アットホームでエネルギーに満ちた空間が広がっています。
ここには増田さんが提供するジビエ料理を求めて、地元の常連客や遠方からの観光客など様々な人が訪れます。SNSで発信される珍しい食材を楽しみに足を運ぶファンも多く、つねに話題にあふれるお店です。
提供される一皿一皿に、増田さんが積み重ねてきた技術と、小田原の自然への深い敬意、そして「命を無駄にしない」という揺るぎない情熱が息づいています。
名物チャーシューからローストまで。気軽な価格帯で楽しむ本格ジビエの魅力

一番人気のメニューは「鹿肉の塩チャーシュー」(800円・税込)です。あえて多くの人になじみのある料理にすることで、ジビエ初心者でも挑戦できる工夫が施されています。鹿肉を大鍋でゆっくり煮込み、ハーブを効かせて、ふっくらやわらかい食感に仕上げています。

増田さんいわく、大きなオス鹿は旨味が強いのが特徴的で、小さなメス鹿はやわらかい食感が魅力だそうです。そういった個体の違いを感じられる、ジビエならではの醍醐味を楽しみに通う常連のお客様も多いんだとか。

増田さんの手で仕留めた小田原産の鹿肉にじっくりと火入れした「鹿肉のロースト」(1,000円・税込)も看板メニューの一つです。しっとりやわらかな肉質が特徴で、付け合わせには仲間のハンターが育てた色鮮やかな小田原産の野菜が添えられています。

ナイフがすっと入るローストは、しっとりとした肉質を堪能でき、小田原の土地が育んだ新鮮な野菜との相性も抜群です。中心部までの加熱や衛生管理に配慮して提供されています。
また、鮮度と処理にもこだわっています。仲間のハンターたちと捕獲したシカは、2時間以内に小田原市にある加工処理施設へ運び、丁寧な下処理が行われます。こうした日々の取り組みを積み重ねることが、幅広い年齢層の方からの「食べやすく、美味しい」という評価につながっていると、増田さんは語ります。
命への敬意と食材とのご縁が紡いだ、ここでしか体験できない特別なジビエ

お店のメニューには時折、思わず目を見張るような珍しいジビエが登場します。ハクビシン、ツキノワグマ、さらには宮古島産のインドクジャク(孔雀)など、他ではなかなか出会えないラインナップが登場します。
店主の増田さんは、宮古島産のインドクジャクとの出会いが印象的だったと言います。増えすぎた外来種として捕獲対象になっていたインドクジャクを扱う猟師さんに同行して宮古島へ訪れた際、現地でインドクジャクの解体や調理を見学。見た目は鶏肉とほとんど変わらず、食べやすい味わいに魅了されたのだそうです。
こうした唯一無二の食材に出会えるのも「小田原ジビエ龍」ならではの魅力です。
増田さんがジビエに力を入れる理由の中心には、「動物たちの命を無駄にしたくない」という強い想いがあります。日本では現在、捕獲された野生鳥獣の多くが焼却処分・埋設処分されており、ジビエとして利用されるのは1割程度です。この現状に疑問を抱き、「本来はもっと美味しく、もっと活用できるはずの命があることを伝えたい」と考えるようになったそうです。
「処分されて終わるより、誰かの血肉になるほうが、命として活きると思うんです」。そう語る増田さんの言葉には、命を大切に扱う揺るぎない信念が感じられました。
小田原市の恵みを食卓へ、そして次の世代へ。日本の食文化を更新する「小田原ジビエ龍」の挑戦

小田原市は海や山、川や温泉もあり、ジビエも獲れます。この豊かな環境がお店の料理を支えているのだそうです。
お店が位置する宮小路エリアは、民間や地域コミュニティの動きに加え、空き店舗活用などの支援制度も背景に、少しずつにぎわいを取り戻してきた地域です。
全国的にも非常に珍しい地域活性化モデルとして注目されており、増田さんご夫妻もその一員として街を盛り上げています。
お二人は、ジビエを通じた食育にも熱心です。「親子で気軽に来てほしい」と語る増田さんは、イベントでの子ども向けの食体験にも積極的に取り組んでいます。
「幼いころに新鮮で美味しいジビエを体験すれば、ジビエに対する理解や親しみが自然と深まっていくはず。そこにジビエ文化の未来への大きな希望を感じています。意外なことに、イベントでは大人より子どものほうがジビエに対して素直な関心を示し、初めて口にする鹿肉や猪肉を目を輝かせて頬張る姿が印象的でした」
ジビエを通して、命をいただくという行為をより深く丁寧に伝えていきたいという増田さんご夫妻。「小田原ジビエ龍」は、土地の文化と寄り添いながら、日々の営みの中で新たな食のかたちを積み重ねています。
小田原ジビエ龍
- 住所:神奈川県小田原市本町2丁目11-16
- TEL:090-4063-0949
- 営業時間:月~土曜 17:00~24:00 (フードLO 22:30)
- 定休日:日曜・第3水曜(変更の場合あり。来店前にSNS等で要確認)
- ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
- 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。

