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函館とロシアの歴史が香る。エゾシカを使った本場式ピロシキ専門店「まるたま小屋」北海道函館市

北海道 シカ
2026.03.13

函館山ロープウェイの山麓(さんろく)駅のすぐ近く、函館聖ヨハネ教会のわきにある築100年の長屋を使った小さなお店があります。名前は「まるたま小屋」。

日本では揚げたパンとして知られるピロシキですが、本場ロシアやウクライナでは“焼く”のが主流。お店では北海道産の食材にこだわった本場式の焼きピロシキが、毎日オーブンで焼き上がっています。

函館は日本で最初にロシア領事館が置かれた街であり、ロシアとの歴史的な関わりが深い土地のひとつです。その土地の物語を背景に、北海道の恵みをロシアの伝統的な料理に包み込む。そんなスタイルで営まれているのが、この一軒です。

エゾシカとエゾマイタケを北海道産米で包んだ一番人気「エゾ×エゾ」

まるたま小屋の看板メニューは、エゾシカを使った「エゾ×エゾ」(495円・税込)と名付けられたピロシキです。エゾシカとエゾマイタケに、北海道産のお米「ふっくりんこ」と玉ねぎを合わせた具材、それをもちもちの生地で包んで焼き上げられています。

この「エゾ」と「エゾ」を組み合わせた具材は、何度も作り直した末にたどり着いたもの。最初はエゾシカをお芋と合わせてみたこともあったそうですが、お米を野菜のように使う本場のピロシキから着想を得て、エゾシカとお米を合わせたピロシキを試作。これが現在の「エゾ×エゾ」の原型になりました。

エゾマイタケを合わせた理由にもこだわりがあります。ロシア人はキノコ好きとして知られていますが、えのき茸やしめじでは香りや食感が物足りず、しいたけだと和の風味が強くなりすぎてしまう。エゾシカを使ったメニューは開業当初からあったものの、少しずつ完成度を高めていくなかで、マイタケならではの豊かな香りと食感がエゾシカと相性抜群で、「エゾ×エゾ」の名にもふさわしいエゾマイタケに落ち着いたのだそうです。

できあがった「エゾ×エゾ」をひと口かじると、まず生地のもちもち食感が迎えてくれ、そのあとからエゾシカのしっかりとした旨味が広がり、ナツメグの香りがふわりと追いかけてきます。エゾマイタケの香ばしさとふっくりんこのやさしい甘みが、肉の旨味を穏やかに受け止めており、思わず次のひと口に手が伸びます。

揚げずに焼く本場式と、もちもちの生地

店主の北見さんいわく「戦後、日本では揚げピロシキとして広まった経緯があって、みんなピロシキは揚げたパンだと思っている。けれど本場では甘いのからしょっぱいのまでいろいろあって、向こうの人にとってはおにぎりみたいなもの」とのこと。本場ではピロシキを主食におかずが食卓に並ぶそうです。

食べた印象は、揚げたピロシキのイメージと違ってとても軽やか。おかずとしてボルシチが欲しくなるのも分かります。

▲季節によって味が異なるボルシチを提供

北見さんは「パン職人だったらやらなかったような、やっちゃいけないようなことをやった」と笑います。パン作りの経験がほぼなかった状態から師匠に教わりつつ独自の工夫を重ね、何度もレシピを更新してたどり着いた今の生地。素人だったからこその柔軟な発想が、唯一無二の食感を生み出しているのかもしれません。

生地には北海道産の小麦粉と米粉、そしてバターの代わりに米油が使われています。バターを使わなくなったのは、過去にバターが手に入りにくくなった経験がきっかけ。米粉が入ることで水分量も増し、焼き上がりのもちもち感が際立ちます。

一番嬉しいのは「生地が美味しい」という言葉をもらうことだそうです。実際にロシアから来たお客さんから、「ロシアより美味しい」と言われたこともあるのだとか。

農家との直接のつながりが産んだ北海道産食材たち

まるたま小屋では、生地も具材もほぼすべてが北海道産の食材で作られています。その理由を尋ねると、「北海道に住んでるから北海道のものを使いたいし、遠方から運ばないからコストも抑えられる」とシンプルな答えが返ってきました。

実際に野菜は地元の農家さんから直接仕入れており、あいだに八百屋さんを挟まず、生産者の方々と直接やり取りしているんだとか。

コロナ禍で営業が制限されていた時期に農家巡りをしたことがきっかけで多くの生産者とつながり、一度つながると横のつながりが広がって、紹介が紹介を呼ぶかたちで関係が深まっていったそうです。

地産地消というよりも、「ここに住んでいるからこそ手が届く食材で、自然と北海道産になった」。そんな実感が、このお店の食材選びの根底にあります。

函館とロシアの文化をつなぐ、物語のあるお店

北見さんはもともと千葉県出身で、北海道大学への進学を機に北海道へ渡り、函館に移り住みました。そしてこの街で「カチューシャ」という名物ロシア料理店に出会い、そこで焼きピロシキの美味しさに惚れ込んだことが転機になったそうです。

「焼いたピロシキって美味しいんだ」という発見と、ロシア文学や文化への関心が重なり、函館という歴史ある土地で焼きピロシキの店を始めることに繋がりました。

函館とロシアのつながりを大切にする北見さんは、お店の空間にもこの土地ならではの物語を持たせています。函館港の開港時代に実在したロシアホテルに勤めていた「ソフィア」という女性をモデルにし、ソフィアがロシアに帰ったあと、残された女の子「マルーシカ」がフクロウとともに知恵の実を集める旅に出る。店内にはそんな物語が描かれています。

部屋もそれぞれ異なるテーマが設定されており、「ディズニーランドみたい」「ジブリみたい」と言われることもあるそうで、親子連れのお客さんにも人気のポイントです。

「まるごと卵がかえる場所」。北海道の恵みを焼きピロシキに包んで

「まるたま小屋」という店名には、「いろんな人の得意の卵がまるごとかえればいいな」という願いが込められています。もともと就労支援の仕事をしていた北見さんにとって、お店の出発点は「飲食をやりたい」ではなく、「いろんな人の得意を組み合わせて仕事が作れたら、みんな働けるのでは」という思いでした。

2014年にたまたま今の場所を借りる縁があり、「食べ物があれば人が集まるだろう」と飲食店の許可を取得。当初はロシア料理の専門店ではなかったものの、試行錯誤のなかでピロシキに特化していき、2015年から焼きピロシキとボルシチの店として本格的に営業を開始しました。

それから10年。北海道の食材とロシアの食文化を焼きピロシキという一品に凝縮し、全国から、そして海外からもお客さんを呼び寄せるお店へと成長しました。

函館を訪れた際は、ぜひ北海道産食材の詰まった焼きたての「エゾ×エゾ」をひとつ、手に取ってみてください。

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  • 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。
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