2023年2月に1泊2日でジビエト企画「ジビエ体験モニターツアー」が開催されました。1月の神奈川県南足柄市に続いての開催場所は、海と山に囲まれ観光スポットも多い福岡県糸島市。2月ということもあり、冬の寒さを感じる時期ですが、参加者思い思いに糸島を楽しみ、ジビエを食すだけではなく、その背景やSDGsに通じることまでをハンターやシェフなど様々な方から学び、ジビエの知識を深めていきます。
ご夫婦や姉妹と県内外から4名の参加者が糸島に集まりました。参加者の応募目的は、「ジビエにとても関心があり、ツアー先が糸島だったから」や「ジビエが好きだから」と、既にジビエに慣れ親しんだ上で参加された方もいました。
当日は、小雨が降る中のスタートとなりましたが、宿泊場所となるグローカルホテル糸島内の会場で、ジビエの基礎知識から野生鳥獣による農業被害の現状など、幅広い内容をハンターから直接話を聞きジビエへの理解度を深めていきます。
市内にはジビエの食肉処理施設が3か所も!全国的にも珍しい糸島市
話をしてくださった株式会社tracks(トラックス)の江口 政継さんは、ハンターでもあり、食肉処理施設「糸島ジビエ工房tracks」や福岡市内にジビエ専門飲食店「焼ジビエ罠 手止メ 警固」を運営するなど、ジビエを広めたいと活動する一人です。元会社員の江口さんが約12年前に狩猟を始めたきっかけは、田畑を猪に荒らされた近所の方の泣きながらの訴えだったそうです。
心を動かされた江口さんは、一念発起し狩猟を学び、仲間と共に会社を立ち上げ、今では搬入頭数を増やし販売強化も図っています。実は、糸島市には全国でも珍しくジビエの食肉処理施設が3か所もあり、どの施設もジビエ普及に尽力をしています。
鳥獣被害や狩猟方法など質問が止まらない!
講話は、動画やスライドを用いながら、野生鳥獣の狩猟方法、狩猟期間、実際の狩猟風景や被害の現状、ジビエの栄養価の話や罠をしかける場所などハンターだから話せる内容も多くありました。
罠を仕掛ける場所は「寝床と餌のある場所を見つけ、その間にある“足跡”と体を木に擦り付けた“痕跡”を探し出し、通り道を予測し罠を仕掛け、餌となる米ぬかを撒く」と解説。江口さんの狩猟方法は『はこ罠』と『くくり罠』の2通りで「重さ40kgの『はこ罠』でも猪から倒される時がある」のだそうです。江口さんの話にメモを取る参加者も多く、終始真剣な眼差しで話を聞いていました。
また、福岡県の野生鳥獣被害は、全国第2位ともいわれている現状に参加者も驚きを隠せませんでした。これは、全国の約3分の1を占める広大な北海道に続いての数字です。福岡県内在住のツアー参加者が多かったため、驚きは尚更だったのかもしれません。
質問コーナーでは「公園で猪に遭遇した」という参加者に、猪の特性を得たうえで「猪は、自分の身を守るために襲うので、まずは、目を合わせず静かにしておく。それでも立ち去らない時は、安全な場所に避難したあと、音を立てるなどをして人間がいることを知らせる」と対処法を伝授。
相次ぐ質問の中に、猟師人口に関しての内容も。現在、糸島の猟師およそ100名の内訳は65歳以上の方が多く、田畑を荒らされるため必要に迫られ兼業猟師として活動をしている方が多いのだそう。それは、猟師専業では生活が成り立ちにくいことが原因にあることを示しています。そこで「専業で猟師が出来る仕組みが出来れば、新人が入りやすい環境となり、ひいては農業被害拡大の軽減に繋がる」と考える江口さんは、猟師人口増加のために新人育成にも力を入れていると話してくれました。
講話の最後に「猪や鹿などの野生鳥獣だけが悪いのではない」と語る江口さん。「それは、人間が果物や野菜のクズを山すそに放置するなど、餌を与えているかのような行動を起こすから、猪などの野生鳥獣が住宅街の近くまで下りてきている」と言葉を続けます。野生鳥獣との共存は永遠の課題ですが、参加者は多くの気付きと知識を得る時間となったようです。
参加者それぞれに糸島観光を満喫
講話終了後、夕食までの時間は参加者各々で糸島の滞在を楽しみました。小雨が降る中、サイクリングを楽しんだ参加者は、宿泊地から自転車で約5分の場所にある「杉能舎(すぎのや ※浜地酒造株式会社)」を訪問。
明治3年の創業から150年以上の歴史がある杉能舎は、全国清酒鑑評会などで受賞するほどの実力ある造り酒屋です。自転車での訪問のため、日本酒の試飲は断念したものの、飲む点滴と言われるノンアルコールの『あまざけ』を味わい、敷地内にある酒蔵資料館を見学。お目当てにしていた出来立てビール「直詰」も手に入れました。
杉能舎を後にし、猪が出没すると言われる県道に向かいましたが雨足が強まったため引き返すことに。糸島市では、生活道路に猪が出るのが当たり前となっている場所があり、また、観光地である二見ヶ浦(福岡市西区)近くのカフェの側でも“けもの道”が見つかっています。
料理長の講話でジビエ料理を美味しく、深く味わう
ジビエを美味しく味わい、もっと興味を持ってもらいたいと、グローカルホテル糸島内のレストラン「太陽の皿」料理長・松井 英彦さんがツアー特別メニューを考案、提供してくれました。松井料理長は、大阪府内や福岡県内のホテル内レストランで修業を積み、オーナーシェフの経験も。この日のジビエ料理メニューは「猪のプロシェット」「鹿肉とキノココンソメのパイ封じ」「猪肉のキーマ風焼きカレー」の3品です。
今回は、松井料理長からジビエを美味しく食べるアドバイスや提供メニューの作り方、家庭で美味しく食べるジビエ料理の調理法などを特別に聞くことができました。まずは、“臭み”の対処法です。適切に処理されたジビエは臭みはほとんど感じられませんが、ボディーの強い(渋みが強く香りが濃厚)赤ワインに浸して調理するだけで、臭みもより気にならなくなるのだそう。次に焼き方のポイントについては「なんと言っても弱火でじっくりと焼くこと。そうすることで外側が乾燥しづらく、ジューシーに焼きあがります」と教えてくれました。少しの手間でジビエが美味しくなる調理法に、参加者も興味津々です。
続いて提供メニューの中から「猪肉のキーマ風焼きカレー」と「鹿肉とキノココンソメのパイ封じ」の2品のレシピ説明がありました。どちらのメニューも本格的に作ると手間暇がかかるため、市販の調味料で代用し、家庭で手軽にできるアドバイスも。市販のカレールーで代用するとお手軽メニューに変わる「猪肉のキーマ風焼きカレー」は「みじん切りした玉ねぎとニンニクを記載分量の2倍位多めに入れる」ことが美味しくなるポイントだそう。参加者誰もが3品とも大絶賛!「質のよいジビエを適切に調理すれば美味しいと気づいた」など、美味しく食べるコツは参加者に伝わったようです。
産直センターで流通からSDGsまでを知る
2日目は、糸島市の西部に位置する二丈地区にある『福ふくの里』へ。ここは、地域の生産者である農家や漁師が共同で出資をして開いた直売所で糸島産の朝採れ野菜や柑橘類、その日に漁獲された鮮魚、精肉、もちろんジビエも並びます。参加者は、店長の諸熊 斉さんからお店の特徴を聞いた後、ジビエ販売コーナーへ。部位の特徴に合わせたお勧めの食べ方や「猟師がいても、その人たちを取りまとめて、ジビエを流通させるのは難しい現状がある」など、他では聞くことが出来なかった話も。それは、捕獲現場から解体処理施設へ運び、その後、食肉加工施設で販売用に加工しますが、この食肉処理施設にも多額の費用がかかるため、流通させるまでのコストが高く、ジビエを事業として確立するのには、課題が多いということです。
地元に住む諸熊店長からは「自宅の駐車場で自家用車の横に猪がいた」など、猪が身近にいる生活のことも聞くことができました。
体験モニターツアーを実施した2月は『福ふくの里』隣接の畑一面に広がる菜の花や、敷地内に咲く河津桜を楽しむことができます。
最後に訪ねたのは『革細工とニュージーランド雑貨のお店 BLESS』。こちらのお店では、牛革使用の革製品の他、株式会社tracksの猪革を使用した革製品の制作・販売も行っています。店内には、小銭入れやトートバッグなど豊富な種類の革製品が揃い、その一角に、猪革を使った製品が並べられていました。「猪革は牛革と比べると薄く柔らかいのでデザインによっては、牛革で強度を補強するなど工夫をしています」と教えてくれたのは店主の井手 英史さん。広げてくれた猪革の中に染められていない猪革が。それを見た参加者からは思わず「綺麗な色!」との声も。加工について尋ねると「猪皮はタンニンを使用し、牛皮とは異なる方法でなめし加工しますが、加工できる職人が少ない」との課題も。野生鳥獣として人間から捕獲される猪を大切に思い、長く愛用できる製品を作り、お客様に提供をすることが人間としての務めではないかと感じているようでした。
多方面からジビエの話を聞くことができた2日間
ジビエについての様々なイメージを持ち糸島に集まった参加者は、1泊2日の体験ツアーが終わる頃にはジビエの存在が身近になったようでした。参加者からは、
「栄養価が高いことは知らなかった。ジビエに対する考えが劇的に変わった」
「ジビエが好きな人口を増やすためにジビエを勧めたい」
「次は、体験型ツアーを作って欲しい」
「もっと話を聞きたかった」
などの声があり、ジビエに対する関心が増したようでした。
1泊2日の体験ツアーの中で、正確な情報と知識を得て理解が深まり、ジビエに魅せられた参加者のみなさん。ジビエのことを周囲に発信してくれる一人になってくれそうです。
自然豊かな観光地 福岡県糸島市の『ジビエ体験モニターツアー』
- 開催日:2023年2月18日(土)~19日(日)
- 企画:ジビエト