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“すべての関わる人々を笑顔にしたい” おもてなしの精神が光る 「レストラン マノワ」

フレンチ 東京
2018.11.28

“シェフ自らがハンター”という店は最近増えつつあるように感じますが、今回紹介する「マノワ」は、オーナーソムリエが自ら狩猟に出かけるフレンチレストラン。2011年のオープン以来、年々予約が取りにくいお店として人気を呼んでいます。「マノワでしか味わえない、絶品ジビエが食べられる」というのは、すでに業界では有名な話。ただ、人気の理由はそれだけではない気がして、オーナーの中村豪志さんにお話を伺いに、「マノワ」の扉をたたきました。

「マノワ」は、東京都・広尾と恵比寿のほぼ中間、決してアクセスがいいとは言えない場所に位置しています。でも、都会の喧騒を忘れるかのように人はここを訪れ、全16席の店内は連日ほぼ満席という状態。きらびやかなシャンデリアに、ウッドベースの重厚な内観からは、場所柄、ちょっとお高く留まった“一見さんお断り”的な雰囲気も感じられますが…。

運命的な出会いからつかみとった自身の店オープンへの道

山梨県南アルプス市に生まれ、自然に囲まれて育ったオーナーの中村氏。お父様が北岳の山小屋を経営していたため、幼いころから狩猟の現場を見て育ち、自らも免許を取得。さまざまなハンターとの交流がきっかけで、前身の「ブラッスリー マノワ」のオーナーと知り合い、なんと無償譲渡された物件がこのお店なのです! そんな夢のような話が⁉と驚きですが、無償の条件は①店名「マノワ」を引き継ぐこと ②内装はそのまま維持すること でした。「『若いのに狩りについてくる変な若者がいる』とおもしろがってくださったのでしょう(笑)。奇跡的な出会いが重なり、自分の店をオープンすることができたと思っています」。

さて、1品目の「鹿児島産・アナグマのロースト」が運ばれてくると、「きれい~!」と思わず声がもれてしまいました。えんじの器に対しての素材バランス、配置、そびえ立つ素揚げごぼうのカーブまでも、まるで計算され尽くしたかのような一つのアートになっています。

中村さん曰く、「アナグマをはじめ、どのジビエも1頭買いが基本。それぞれの部位を生かした調理法で命の恵みを1つも無駄にはしません」。

このメニューも、アナグマの前足の固い部分をミンチにして、後ろ足の脂がのった部位で包み、ローストしたもの。ソースもアナグマの骨から出汁をとり、赤ワインとジュニパーベリーを合わせて仕上げています。ミンチ肉と脂が口の中で調和し、ゴボウの風味や食感との対比も見事なコラボレーションだなぁと感じました。

珍しいジビエもそろうのはハンターとの絆のおかげ

1頭買いするのは、自然の恵みを隅々まで食す命への礼儀からだけではないと中村氏は語ります。

「まる(まるごと)で購入すると、雄雌の違いはもちろん、どこで何を食べてきたものなのかがわかる。それを踏まえて調理するから、そこにお店の色・個性が生まれてくるんです。一方で捕獲し、処理場で適切に処理された個体は何頭でもすべて買いとるという契約にしているので、ハンターさんへ安定して原資を届けることができます。どちらもWin-Winでいいことづくし」

中村さんの言葉から感じるのは、自分の店の利益だけを考えるのではなく、ジビエ業界の先の先を見据えた“あるべき姿”。きっとそのビジョンが中村氏には明確に見えていらっしゃるのでしょう。

2品目の「日本鹿のロースト」を見て、またも感嘆のため息…。食べるのがもったいないほど優雅な一皿だと思いませんか? 秋の深まった森の中を再現したような美しさです。鹿肉は和歌山県紀の川産を使用。鹿肉の骨からとったジュ(出汁)と赤ワイン、そして山梨のご実家で作られたルバーブを合わせて作ったソースは、ルバーブの程よい酸味が絶妙で、鹿肉の旨味を優しく引き立てます。

付け合わせのビーツもカットとペーストが添えられているので、味の楽しみが何層にも! 美しいモミジは「実家の母が山梨から送ってくれたもの」だそう。この一皿にもたくさんの人の愛や思いが詰まっているのですね。

いよいよ、ラストは「蝦夷雷鳥のロースト」。ジビエの名店を取材してきた記者ですが、雷鳥をいただくのは初体験です。食べたくても入手困難で、“3年待ち”と言われている貴重な蝦夷雷鳥ですが、「マノワ」では中村氏ご本人が狩猟するため、運がよければ味わうことができます。こちらも実に芸術性に富んだ盛り付けで、視覚的には3度目のお楽しみが。

左から、ハツ・レバーが串状に、その奥にささ身、中央にはムネ肉と、一度コンフィにしてから焼いたモモ肉、頭というラインナップ。蝦夷雷鳥はとても繊細な出汁がとれるので、それを生かしたソースと、根セロリのピューレ&フリットが添えられています。ハツの歯ごたえや噛むほどに旨味を感じるモモ…などなど、すべての部位が全く異なる味わいで、1皿でフルコースを食べたような満足感。根セロリの静かな香りが、味に深みを与えていました。

22歳より、「ル・ブルギニオン」「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー」といった数々の名店で支配人を務めてきた中村氏。ジビエやワインに関する知識はもちろん、レストラン業界の展望について…など、引き込まれるお話が多く、さまざまな経験で培った“話題の引き出し”と“人脈”を本当にたくさんお持ちの方。そんなオーナーが日本各地から集めた食材を、美しくかけがえのない一皿に昇華させるのは、シェフの笹川慎平さん。

「ジビエはやはり難しい食材。でも毎日、その日に届く“まる”のジビエを前にして、今度はどう攻めようか、今日はどう調理しようかと、考えを巡らすことがおもしろいんです」。

この日届いたアナグマをさばく表情は、どこか楽しんでいるかのようにも見える笹川シェフでした。

最後に、カウンターに2席のみ用意されたお席について中村オーナーに尋ねると、「ここは常連客の特等席なんです」とにっこり。カウンター越しに笹川シェフの調理風景を眺めながらジビエを食すひとときは、中村氏とのおしゃべりが至極のスパイスとなって、とっておきの時間が過ごせるに違いありません。

ランチ3800円(税抜)~、ディナー6,800円(税抜)~。メインを2皿選べるディナーコース12,000円(税抜)では、ヒグマやアナグマ、雉や鴨など最低でも8種(!)のジビエ料理から選ぶことができます。東京にいながら、日本各地から集められたジビエで四季を感じることができる「マノワ」で、“最高のサービスで味わう最高の料理”をぜひ堪能してみませんか?