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地域の人々と鹿×都会のハンターとジビエファン×個性的なシェフをつなぐビジネスモデル「株式会社カリラボ」

埼玉県 イタリアン 洋食 シカ ランチ コース
2023.10.30

人口およそ8,000人の埼玉県秩父郡横瀬町(よこぜまち)。東京から電車に揺られること90分足らずで、深い山々と清流のせせらぎに非日常感を味わえる場所です。この地で山々の自然の恵みを受けながら、エコシステムを構築している「株式会社カリラボ」(以下、カリラボ)を訪ねました。

代表の吉田 隼介(しゅんすけ)さんに招かれたのは、鹿肉料理のレストランを併設した「横瀬ジビエ製造場」。「“解体所”では美味しさを感じられない。“生産工場”では鹿への愛情を表現できない」と考え、横瀬町への感謝も加えて命名したと言います。

「社名には『狩り』『コラボレーション』『ラボラトリー(研究所)』などの意味を込めました。実際に、私たちが提供するのは自ら罠を仕掛けて捕獲した鹿の肉で、地元の方々やシェフの協力を得て事業が成立しています。そして、最高の肉質になるよう試行錯誤を惜しみません。だから『カリラボ』なのです」

東京で生まれ育った吉田さんは、登山などのアウトドア活動を趣味とし、いつしか狩猟にも魅せられるように。しかし、数日にわたって山奥にこもるのは通常の仕事に支障をきたすため、より気軽に楽しむ方法を模索していたそう。
「そんな時、都心からすぐの横瀬町を知りました。地元の猟友会で話を聞くと、年を追うごとに猟師が減るのに対し、鳥獣による農作物被害の件数が増えているとのことでした。私のような都市部のハンターとマッチングできると思い、猟友会の会長にも背中を押されて起業しました」

こうして始めたサービスが、横瀬町伝統の“巻き狩り”を体験できる「カリナビ」。獲物を追う勢子(せこ)と、追われた獲物を仕留めるタツに分かれる猟法で、本来はコネクションが無ければ参加できません。また、装備や猟場の情報提供や、保険加入をセットにした単独行動派向けの「ハンターズクラブ」も発足させました。

「あとは山野を歩いて野生動物の生態を学び、行動範囲に罠を仕掛けて捕獲を図る『ワナシェア』もあります。罠を見回る係を分担したり、金銭的負担を均等にしたり、捕獲したら肉を分け合うので“シェア”なのです。罠の周辺にはカメラを設置しているので、スマホを通じてリアルタイムな映像を見ることができます」

さらに、子どもも参加できる「狩猟&解体イベント」も。午前中に罠やエアソフトガンで狩猟の雰囲気を味わい、午後は鶏を絞めて解体に挑戦します。まれに、罠にかかった鹿を仕留める「止め刺し」に同行できる可能性もあります。
「私が狩猟の世界に足を踏み入れ、最初に命をいただいたのはアライグマです。今でも覚えていますが、その瞬間は『ごめんね』という感情が湧きましたね。牛でも豚でも鶏でも、いつも口にしている肉がどういう存在なのか、普段は向き合わないでいることを考える機会になると思います」

鹿の捕獲は罠のみ。スピーディな加工とゆるやかな熟成を経てシェフに委ねる
こうして狩猟のすそ野を広げるだけでなく「いかに美味しく食べるか」を追求している吉田代表。自社で扱う肉には「個体へのストレスを抑えるため捕獲方法は罠のみ」「解体施設まで運ぶ時間を考慮し、罠を仕掛ける範囲を限定する」「捕獲の連絡を受けたらすぐに駆け付け、止め刺しと血抜きを行う」などの条件を定めています。

「速やかに内臓を取り出さなければ、自らの体温でどんどん肉質が低下してしまうので、解体まではとにかくスピード勝負です。逆に、肉にはその後、熟成庫の中でゆっくり過ごしてもらいます。およそ1週間かけて余計な水分を抜き、旨味を凝縮させていくのです。PH値なども測定して仕上げ、出荷前には調理の手間が減るようトリミングも施します」

“完成された鹿肉”はオンラインショップで購入できるだけでなく「横瀬ジビエ製造所」に併設されたレストランでも味わえます。そのうち完全予約制のディナーでは、吉田代表と親しい2人のシェフによるイタリアンのコースが楽しめます。

「一人は埼玉の寄居町にあるオーガニックレストラン『mujaqui-むじゃき』から、もう一人は神奈川の鵠沼にある一軒家レストラン『オーガニックグリル 鵠沼海岸』から招いています。肉をシェフが自ら育てた野菜や横瀬町の食材と組み合わせ、ワインやハーブドリンク、お茶などとのペアリングで提供しています。まさに一期一会の味ですね」

それぞれ盛り付けのセンスにもあふれ、レストランを囲む森をふらっと歩いては、皿やテーブルに飾る草花を摘んでくるとのこと。なお、毎月第2土曜と日曜のランチでは、吉田代表と「横瀬ジビエ製造所」の工場長が自ら厨房に立つこともあります。

「私たちが作るのはビーフストロガノフならぬ『シカロガノフ』です。鹿肉の赤身は淡白なので特にクリーム系のソースと合います。あとはトマトワイン煮込みもよく作りますね」
ランチでは、地域おこし協力隊として横瀬町に移住した「Echo Curry」のシェフともコラボレート。南インド料理のパイオニアが作るキーマカレーなども味わえます。

狩猟と肉の加工・販売、レストランの事業を確立させて目指すは全国展開

「私たちの鹿肉を使ってくれる料理人の皆さんは個性的でユニークで『食べることが好きな仲間同士』という関係です。日本には、獣害で悩まされる農家と手を焼いている猟師、それに潜在層も含めた都会のハンターとジビエファンが数多くいるはずなので、だからこそ彼らをつなぐさまざまなコラボレートに取り組みたいです」と吉田代表。

課題となっている日本の獣害対策において、自身の事業は一石を投じられるかもしれない、とのこと。実際に吉田代表が横瀬町に来て、地元の人々が鹿肉に抱いてきた「固い」「くせが強い」という印象が変わりつつあり、地域の若者が猟師になったり、都会のハンターが移住を検討し始めたりしているそうです。また、食育の一環として狩猟&解体イベントに参加する親子、獣害対策や環境問題を研究する学生、狩猟女子や解体女子、シェフのファンなど、横瀬を訪ねる人々もジビエを軸に多様化しています。

「ハンターとシェフが交流したり、ジビエ好きの皆さんが狩猟に興味を持つようになったり、シェフが横瀬の鹿肉や野菜の魅力をより引き出してくれるなど、事業が自立していくのを感じています。『カリラボ』のビジネスモデルは『都市部に近く、利便性の高い狩場とレストラン』という条件を満たす必要がありますが、いずれ日本の各地に展開したいと考えています」

ジビエ愛好家にはワイン好きな人も多く、レストラン併設の宿泊施設を作ることもプランの一つ。現在「横瀬ジビエ製造所」の目の前には原っぱが広がり、工場長のペットであるヤギのふく君が悠々と草を食んでいます。ここをキャンプ場にすることも夢だと言います。

「私たちに興味を持ってくれる人を増やす、興味を持った人が参加しやすい形を作る、ジビエを観光資源にするという仕組みをビジネスとして確立させたいですね。『やりたい人がやる』『それが地域の役に立つ』『ひと工夫すれば経済活動が成り立つ』というプラスの循環を『カリラボ』で実現させたいです」

  • ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
  • 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。
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