毎年、国内各地で多くの老舗が暖簾を下ろしています。福岡県郊外の田川郡添田町で醤油醸造に励んできた「ヒシミツ」も、約160年にわたる歴史の幕を閉じる予定でした。
しかし「思い入れあるヒシミツの名を途絶えさせたくない」と、四代目当主の中村有美子さんは業態変更に踏み切ります。築120年余の醤油醸造蔵をカフェレストランに改装。
サービス精神満点のランチコースと瀟洒な空間はたちまち反響を呼び、2017年のオープン以降、店内は連日活気に湧いています。
三代目のお父様が醤油屋の廃業を決めた時、関西でご主人と飲食店経営をしていたという中村さん(写真左)。
「それまでのノウハウを生かし、イタリア料理メインの店に変えることにしました。屋号を残すと共に、地元の農家さん支援もできればと思ったんです」。
現在は、中川 恵さん(写真右)をはじめとした厨房仲間も一緒に店を盛り上げてくれています。
クラシックな風合いが魅力の店舗に変身
郷愁と洗練がうまく溶けった内装は、建築デザインが本業という中村さんのご主人の仕事。往年の醤油瓶を生かすなど、遊び心も随所にうかがえます。どこを切り取ってもインスタ映えしそうな趣は、何度も訪れたくなる誘惑がたっぷりです。
ガラス越しに並ぶのは醸造用の古い樽。中2階のテーブル席からは、この魅力的なフロアを一望できます。
さらに特筆すべきは、多くのファンを魅了してきたランチコースです。平日は「日替わり前菜プレート+小さなスープ+パスタ+ピッツァ+ドリンク」という構成で1,700円(税抜)。日曜と祝日は「ピッツァ+約20種類の惣菜&デザートのビュッフェ+ドリンク」を2,200円(税抜)でいただけます。
しかもピッツァは注文後に焼き上げる熱々のオーダーバイキング。メニューも19種類あるので、好みのものを心ゆくまで味わえます。もちろんテイクアウトもOK。
ピッツァは「ヒシミツ醤油を使った照り焼きマスタードソースピッツァ」「ピリ辛!にんにく味噌とネギ、唐辛子の和風ピッツァ」など創作性の高いものばかりですが、そのなかで目を引いたのが「添田町の鹿肉のタコス風ピッツァ」です。
「添田町はとにかく鹿が多く、役場でも鹿肉の活用に力を入れています」と中村さん。「そこで“町の活性化に繋がれば”と、うちでも鹿のピッツァを出すことにしたんです」。
ピッツァは石窯でパリッと焼かれます。風味のよい薄生地は、独自配合の粉を店内で伸ばしたものだとか。
これが窯出し直後の鹿のピッツァ!ワインや香辛料で炒めたミンチは、上品さのなかにも野性味をほのかに残し、ジビエらしい個性を伝えてきます。レタスやトマトとの相性もよく、ジビエ初心者でも食べやすい1枚でした。
賑わいを支える女性スタッフの頑張り
他の料理もピッツァに引けを取りません。ランチコースの前菜プレートは添加物を使わず、旬の恵みを十分楽しませてくれます。写真は春の例で、地元特産の「刺身こんにゃくと菜の花、味噌ソース和え」など。
パスタは日替わり3種類からセレクト(写真は定番「明太子クリームパスタ」)。関西で粉を配合してもらうという生麺のもっちりした食感が秀逸です。
盛り付けや接客など、随所に感じる繊細な目配りも好印象。中村さんいわく「現在16人のスタッフが働いていますが、全員地元の女性なんです」。なるほど、この店を包む和やかな空気の源はそれかもしれませんね。
帰る前にはぜひお土産コーナーもチェックしてみましょう。伝統の味を復刻した「ヒシミツ醤油」(500ml/350円)、「おしょうゆラスク」(270円)、「自家製ドレッシング」(550円)、10種類の「オリジナルブレンド紅茶」(各350円)など小粋なアイテムぞろいですよ(以上すべて税抜)。
今後の夢を尋ねると、「今後は町外にも添田町のアンテナショップのような店を作れたら」と中村さん。
「けれども、まずはここを“わざわざ来てよかった”と喜ばれる店にしたいですね。父たちが頑張ってきたこの町が私は大好きだし、こんなに素敵な蔵を遺してくれたことも感謝していますから」。
若い力によって生まれ変わった「ヒシミツ」。愛する故郷に、この先どんな笑顔の歴史をつむぐのかとても楽しみです。
ヒシミツ
- 住所:福岡県田川郡添田町大字添田1999
- TEL:0947-31-4192
- 営業時間:11:00~18:00(LO17:00)※平日のランチタイムはLO14:30。日曜・祝日のランチタイムは11:00~/13:00~、90分入れ替え制
- 定休日:年末年始
- ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
- 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。