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小田急電鉄が獣害対策?初期投資不要で初心者でも狩猟を始められる「ハンターバンク」

2021.02.26

「狩猟免許は取ったけれど、できる場所がない」
「狩猟道具をそろえたり、狩猟場所を確保したり…、どうすれば猟が始められるの?」
「情報交換や一緒に狩猟ができる仲間が欲しい」
そんな人に、ぜひ知ってほしいのが小田急電鉄のプロジェクト「ハンターバンク」です。

獣害対策の担い手として活躍したいハンターと被害に悩む農林業者をマッチング

「ハンターバンク」とは、初心者や若手のハンターと鳥獣被害に悩む農林業者を、マッチングするプラットフォーム。「ハンターバンク」の会員はマッチングされた農林業者の土地に箱わなを設置し、猪や鹿を捕獲することができるのです。

「ハンターバンク」は月額 30,000円(税込)で1つの箱わなを利用できます。会員登録は個人でもグループでも可能なので、例えば5人のグループ利用なら1人あたり6,000円となります。

「ハンターバンク」の特徴は、経験や道具、土地や猟友会の所属などがなくても、箱わなの設置から回収、止め刺し、解体まで、ひと通りの狩猟経験ができること。

箱わな本体や止め刺し用の槍、解体用のナイフなど、必要な道具は現地でレンタルできるので、初期投資は0円。一般的に箱わなは約7~10万円、その他猟具は約15万円と、初心者にはなかなか出しにくい金額ですが、「ハンターバンク」なら不要。

わな猟のための保険(施設賠償責任保険)にも加入でき、月2回まで無料で現地サポートを受けられるので、わなの設置などが未経験でも安全に行えます。

毎日の見回りや行政への申請などの代行サポートも

また、わな猟には毎日の見回りや餌やりが必要ですが、ホスト(農林業者等)が代行してくれるため、近くに住んでいなくても大丈夫。

その日の箱わなの様子はホストがWebツールで共有してくれるので、「近くに猪の足跡があった」「ウリ坊がかかった」など、随時、現地の情報をWeb上で得ることができます。

獲物が獲れた場合、会員自らが現地で捕獲、止め刺し、解体を行いますが、こちらも必要であれば地元の経験者(サポートハンター)からサポートを受けられます。

さらに便利なのが、害獣などの許可捕獲に必要な行政への申請を「ハンターバンク」が代行してくれること。ハンターは必要な情報をハンターバンクに登録すれば、自分が役所に行く必要がないため、「平日は仕事があって役所に行きづらい」という人でも、スムーズに有害鳥獣の駆除・捕獲をスタートすることができます。

また、捕獲した際の行政への報告手続きも代行してくれて、行政から支給される捕獲報奨金は、捕獲したハンター自身の口座に振り込まれます。つまり、箱わなの近くに住んでいなくても、仕事をしながらでも、そして初心者でも狩猟ができるのが「ハンターバンク」なのです。

なぜ小田急電鉄が「ハンターバンク」で獣害問題に取り組むのか?

冒頭でもお伝えしたとおり、この「ハンターバンク」は小田急電鉄のプロジェクトとして2020年に立ち上がりました。2020年8~10月にフェーズⅠ、2021年1~3月にフェーズⅡとして神奈川県小田原市で実証実験を行い、2021年春から日本各地で本格スタートを目指しています。

鉄道会社とハンター。一見すると、接点がなさそうな両者ですが、なぜ小田急電鉄が害獣問題に取り組むことになったのでしょうか? 「ハンターバンク」発案者である小田急電鉄株式会社 経営企画本部 経営戦略部 有田 一貴さんに、経緯を伺いました。

「そもそも沿線地域を発展させるということは、弊社創業以来のミッションの一つなんです」
有田さん曰く、「小田急の沿線エリアは、多様な都市構造・自然環境があります。例えば新宿には都市開発問題、多摩ニュータウンでは独居老人の増加、湘南エリアではオーバーツーリズムなど、地域ごとに社会課題を抱えています」。

令和元年度の全国の野生鳥獣による農作物被害額は158億円(農林水産省 調査)、林業被害面積は5,000ヘクタール(林野庁 調査)と深刻な問題ですが、「ハンターバンク」実証実験の舞台となった小田原市なども、山林エリアでは獣害が問題となっています。
「沿線地域の農林業への被害がありますし、実は小田急そのものも害獣被害の当事者なんです」と有田さん。
早朝に活動が活発化する鹿が列車と接触することで、通勤ラッシュ時間帯に列車の遅延が発生したことも。2010年には1件だった鹿の接触事故は徐々に増え、事故による遅延時間なども増えています。

「猪が線路脇の斜面を鼻先で掘り起こすために、のり面が崩れ、線路に石が落ちてくるという事案が発生したこともあります」

ハンター育成を通じて地域の獣害対策に貢献していくことが小田急の役目

学生時代、ワンダーフォーゲル部に所属して、丹沢などを登っていたという有田さんならではの経験も、「ハンターバンク」立ち上げのベースにあったそうです。

「丹沢で沢登りをしたことのある人ならわかると思うんですが、ヒルが年々増えているんです。その原因の一つはヒルを媒介する鹿が増えたことだと言われています」
こうした実体験をもとに、社内の事業アイデア公募制度に「ハンターバンク」をエントリーした有田さん。見事、採用を勝ち取り、プロジェクトが動き出しました。

「現在、駆除・捕獲の担い手であるハンターは高齢化・減少傾向にあります。その一方でマンガの影響や狩りガールブーム、社会貢献をしたいという人も増えて、若い世代で狩猟免許を取得する人は増加傾向にあります」と有田さん。
けれど、実際には狩猟をすることなく、ペーパードライバーならぬ、“ペーパーハンター”化する若者が多いと言われています。

「実は私も狩猟免許を取ったんですが、免許そのものを取得することより、取得した先に待っているさまざまな事柄の方が、むしろそのハードルは高く感じています。例えば都心部ではまず狩猟ができる場所がない。山林を所有する人に狩猟の許可を得る必要があるけれど、地元に住んでいないと誰と交渉すればいいのかもわからない…など。初期投資費用も少なくなく、仕事をしながら毎日わなの見回りをするのは困難。捕獲や止め刺しなどの際に何か不測の事態が起きても頼る人がいないという不安もあります」

そんな初心者ハンターにとってのさまざまなハードルをクリアできるようにと、自身の経験から生み出されたのが「ハンターバンク」。実証実験の参加者からは「手軽にできて、楽しかった」「環境問題や獣害などについて、同じような価値観、同年代の仲間ができた」「農林業者さんが随時、Webで状況を教えてくれて、そこでのコミュニケーションも楽しかった」などの感想が出ていたとのこと。

実証実験フェーズⅠでは東京、千葉、神奈川、静岡などから参加した4グループ計8名が4基の箱わなを設置し、計13頭の猪を捕獲したそうです。ただ捕獲実績だけが「ハンターバンク」の魅力ではありません。ハンターバンク会員は解体教室やわな猟講座などのイベントに無料で参加できるので、獣害の現状や手法などの知識も得ることができるのです。

有田さんは言います。
「ハンターバンクはサポートが必要な人のためのもの。ハンターバンクで経験を積んで、スキルを身につけたあとは、ハンターバンクを卒業して初心者をサポートする側になっていってほしいですね」
実証実験の参加者の中には、小田原市への移住を検討し始めた人もいるそう。

2021年度から公式スタートする予定の「ハンターバンク」。現在プレエントリーを募集しているので、鳥獣被害や狩猟に興味がある人は公式サイトをチェックしてみてください。

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