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宮崎の山あいの町で生まれた絶品ジビエを全国に届けたい「おおひとジビエ」

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2021.03.15

宮崎県の北部に位置し、その面積の約92%を森林が占める日之影町(ひのかげちょう)。西に高千穂町、東は延岡市、北は大分県に接し、傾山(かたむきやま)や五葉岳(ごようだけ)、見立渓谷や鹿川渓谷といった豊かな自然に恵まれた場所です。2019年春、この町に食肉処理施設が完成しました。

美味しさにこだわり、技を磨き続けた30余年

造ったのは、田中 弘道さん、74歳(取材当時)。同町・大人(おおひと)地区にある自宅脇に建てられた施設は、ジビエの解体処理から加工まで行っています。

田中さんがこの道に入ったのは、日之影町役場に勤めていた40代のころ。自然豊かな日之影町では、昔から狩猟が盛ん。しかし、適切に解体・処理が行える人は少なく、その多くは廃棄されていました。田中さんも例外ではなく、当初は捕獲するのみだったものの、「せっかくの命、廃棄するだけではもったいない。なんとか食用として役立てたい」と積極的に解体を学び、いつしか誰よりも手際よくさばけるようになったと言います。

以来、ジビエを美味しく食することにこだわり続けてきました。技を磨き、鮮度を保ったまま処理するノウハウを身に付け、2019年に「ジビエで日之影町を盛り上げるために」と、満を持して瞬間冷凍機など最新の設備を備えた食肉処理施設を開いたのです。

今では、日之影町で捕獲された鹿や猪は、そのほとんどがここに運び込まれ、田中さんの手によって食用となります。

お話を伺っている最中に、田中さんの元に一本の電話が。田中さんがわなを仕掛けた場所のすぐ目の前の林道を通りがかった友人が、「若い猪がかかっている」と知らせてくれたのです。田中さんはすぐさま現場に直行、取材スタッフも同行させてもらうことに!

車を走らせること数分、林道から見上げた斜面に、わなに足をとられた猪を発見。

「無理して見ていなくてもいいですよ」
そう気遣いの言葉をかけてくださったあと、スルスルと斜面を登っていく田中さん。目の当たりにする命のやりとりに取材スタッフが固唾(かたず)をのんで見守るなか、無駄のない動きで“止め刺し”を行います。

にこやかに取材に応じてくれていた田中さんも、この時ばかりは猟師として、真剣な表情を崩しませんでした。

捕獲から解体終了まで1時間強。巧みな手さばきは、美しく迅速

施設へ持ち帰ると、捕獲者名や捕獲日、性別などを記録。そのまま解体作業に移ります。仕留めてからなるべく迅速に解体作業に移ることも、臭みや雑味を残さない処理の大事なポイントなのだそう。入念に毛を落として洗浄、筋をくまなく切って完璧な血抜きを施し、見事な手さばきでみるみるうちに解体していく田中さん。その眼差しは真剣そのもの。

猪を捕獲してから、わずか1時間強。田中さんは猪の解体を終え、庭で木炭に火をおこし、網でさばいたばかりの猪肉を焼いてごちそうしてくれました。

捕獲したばかりの猪肉をいただくとは、なんという贅沢…。肉汁に満ちた弾力のある猪肉は、歯を入れるとやわらかくほどけ、脂はコクがあるのにくどくなく、すっきりとした味わいです。

「こんなに美味しいジビエは初めてです」と、その感動を率直に伝えると、田中さんは「タダのものは何よりうまいんですよ」と冗談めかして笑ったあと、こう続けました。

「ジビエの味を決めるのは、動物たちが何を食べて育ってきたか、ということ。猪は雑食で何でも食べるけれど、木の実を食べて育つと、真っ白で臭みのない脂がのってくる。日之影の澄んだ水もひと役買っているでしょうね。“止め刺し”を行なったらなるべく早く解体作業を終えることも、美味しさを保つうえで重要です」
そう語る田中さんの表情には、長年の経験に裏打ちされた確固たる自信が覗きます。田中さんの知識と技術を証明するかのような猪肉の美味しさに、深く納得した取材となりました。

日之影町観光協会では、田中さんが処理したジビエの加工品である燻製肉を、食肉処理施設のある大人地区にちなんで「おおひとジビエ」と銘打ち、販売しています(各600円・税込)。

「日之影町のジビエの美味しさを、町外の人にもぜひ味わってほしい」
その一心で技を磨き、74歳となった今でも、まだまだこれからとばかりに果敢に挑戦を続ける田中さん。その想いが日本中の人に届くことを願うばかりです。

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