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フレンチシェフから転身。狩猟、解体、食肉加工まで自ら行う理由とは?「オーガニックブリッジ」野生鳥獣肉処理管理者・KURKKU FIELDS「CHARCUTERIE」(クルックフィールズ シャルキュトリー)シャルキュティエ 岡田 修

2020.03.31

2019年秋にオープンした「KURKKU FIELDS(クルック フィールズ)」は、「農業」「食」「アート」を軸としたさまざまな施設を擁する複合施設。千葉県木更津市に広がる約9万坪もの敷地内では四季折々の野菜を栽培されているほか、ヤギや鶏などの家畜、水牛も飼育。そんな緑豊かな中に、草間彌生などの著名作家によるアート作品、宿泊施設、飲食店なども点在しています。

そんな「KURKKU FIELDS」には、ジビエを楽しめる施設が2つあります。1つは敷地内で採れる食材をふんだんに味わえる「DINING(ダイニング)」。

もう1つはハム・ソーセージなど、ジビエの加工食品を販売する「CHARCUTERIE(シャルキュトリー)」です。

そしてこの2店舗でジビエに関する加工・調理を担っているのが、今回お話を伺った岡田 修さんです。

千葉県木更津市で生まれ育った岡田さんは、高校卒業後すぐにフレンチの道へ進みます。日本で5年間働いた後、フランスとスイスで合計5年半、12店舗で腕を磨いて帰国。帰国後は日比谷の名店として知られた老舗「LA PROMENADE(ラ・プロムナード)」で総料理長を務めていましたが、再開発によるビル解体を機に閉店。準備期間を経て12年前、地元木更津に自身の店「LA PROMENADE」をオープンさせました。

小学生のころからフレンチのシェフを目指していた岡田さんが、自らの店で提供していたのは王道のフレンチ。「日本人の口に合うように」とアレンジを加えるのではなく、本場で身につけた技術と知識を生かして、「これぞフランス料理だ」というものでした。そして「自分の店では一年くらい、牛肉は置いてなかったです」とのこと。

フランスといえばジビエのルーツ。岡田さんの店で出す肉といえばフランスから仕入れた兎、鳩、鹿、猪など。
当時、ジビエにあまり馴染みがなかった人たちも、岡田さんの手によるジビエ料理に魅了されるようになり、それがさらなる評判を呼び、いつしか地元の猟師さんたちも常連客に…。

「このままでは駄目だ」という危機感が、新たな一歩へ繋がった

オーナーシェフとして順風満帆だったのに何故、いま「KURKKU FIELDS」で、シェフではなく、食肉加工品の職人、シャルキュティエとして働いているのでしょうか?
「常連の猟師さんたちと話をしていたら、高齢のために動ける人が減っていくのが分かりました。また、5年ほど前にジビエに関してガイドラインができ、きちんとした処理、管理が必要になったんです」。
ハンターが減る一方で、求められるクオリティは上がる。
「これまでのやり方ではなく、なにか一歩踏み込まなくては」。

そこで岡田さんが踏み出した一歩は、なんと狩猟免許と銃の所持許可を取ることでした。

狩猟可能な時間帯である日の出の直後を狙うため、目星を付けた場所に早朝から待機し、鹿や猪などを銃で仕留めます。

「弾は獲物によって使い分けます」と話す岡田さんの胸には、猟友会会員であるバッジが。

そして猟だけではありません。岡田さんは食肉処理の資格も取得し、現在「KURKKU FIELDS」の近隣に木更津市と共同で運営する食肉処理場「オーガニックブリッジ」で解体処理も行っています。

今から3年ほど前、「KURKKU FIELDS」がまだ形になっていなかったころ、立ち上げメンバーとして白羽の矢が立ったのが岡田さんでした。

サスティナブル、つまり無駄をなくし、すべてを循環させて生かしていくという「KURKKU FIELDS」の理念に共感したこと、また、害獣とされてしまう猪や鹿を、自分が納得できるクオリティで食肉に加工でき、それを使って自らが作りたい料理を作れること。

そこに魅力を感じた岡田さんはさらに、「駆除された猪や鹿を、自分が納得できる設備で食肉処理をしたい」と、ジビエの解体処理を行う「オーガニックブリッジ」の開設にも一から関わり、規模も設備もこだわりぬいてオープンさせたのです。

例えば解体場の広さと温度管理。
「運び込んだ猪や鹿の体温を下げてやらないと、どんどん肉質が落ちてしまう。だから、運び込まれる前に連絡を受けて、すぐにエアコンで室温を下げます。そしてこれだけの広さがあれば、運び込まれた後も温度が上がりにくい」。

ここ、「オーガニックブリッジ」では、登録済の猟師さんから搬入前に必ず電話連絡が入ります。「止めさし」という、いわゆる獣にとどめを刺す瞬間から速やかに解体処理をしないと、肉質が急激に悪化するため、「今から何分後に持ち込む」という連絡を受けたら、すぐに対応できる体制を整えています。その結果、いわゆる臭みのない状態で処理ができるのだと言います。

解体して枝肉にしたあとは、血抜きと熟成。こちらも「種類や大きさ、雌雄や年齢が違うものが搬入されても、それぞれに合った熟成ができる」だけの広さがあります。
そうしていよいよ食肉としてポーション分け、その後は、部位ごとに異物(=金属)が混入していないかをスキャンしてチェック。安全性を確認しています。

また、搬入時には必ず木更津市の農林課職員が立ち会います。

農林課の方は誰がいつ、何を、どう仕留めて搬入したのかをチェック。雌雄、体重、胴頭長、仕留めた方法など、細かく記録。

放射能物質のチェックも、農林課が担当。つまり、岡田さんのような食肉処理業者とは別に、きちんと農林課が搬入、納品前に確認することで、ガイドラインで定められた安全性を遵守できるシステムになっているのです。

自ら猟をし、理想とする環境で解体処理をし、ジビエはもとより、オーガニック食材を生かして加工調理をして、それらを「KURKKU FIELDS」内にある「CHARCUTERIE」で販売し、「DINING」でも提供する現在。

そんな今だからこそ、“シェフ”としてジビエ料理を作りたいという気持ちにならないのか。少し意地悪な質問を岡田さんに投げかけてみました。

商品作りに没頭できる環境だから、よりよいものを目指せる

「製造に集中できる。それが今のやりがいですよね」と岡田さん。
フランスからの輸入ジビエを使っていたころよりも、現在ははるかに品質のいいジビエを使える。安全性もクオリティも自分自身で確かめて、惚れ込んだジビエを使って、さらには四季折々に収穫される「KURUKKU FIELDS」の農作物と組み合わせて、季節限定品や新作を開発できることが魅力だと。

そんな岡田さんを公私にわたって支えているのが、幼馴染みであり、奥様の綾乃さんです。

岡田さんが手がける「CHARCUTERIE」のジビエ商品は、店頭で購入できるほか、公式サイトのオンラインショップで購入も可能。また、「DINING」では岡田さんが作ったハム・ソーセージ、コンフィなどさまざまな料理を味わうこともできます。

未来に向けて果敢に挑戦する岡田さんの作り出す美味を、ぜひ一度、味わってみませんか?

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