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4代目猟師の鹿肉は都会のシェフもご用達。奥地で見つけた芳醇赤身の家庭的ジビエ 「ジビエミニレストランYAMATO」山梨県南巨摩郡早川町

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2024.01.20

日本に743ある“町”の中で、最も人口が少ない山梨県南巨摩郡早川町(みなみこまぐんはやかわちょう)。中央部には町名を冠する清流・早川が流れ、両岸には南アルプスの峰々が迫り、凛とした渓谷美に出合えます。この地を代表する名猟師がジビエのレストランを開いていると聞き、JR身延(みのぶ)駅から町営のはやかわ乗合バスに乗り込みました。

目的地の草塩温泉停留所までは約1時間。「運行は一日4本のみ」「険しい山あいを進むため天候次第で運休」「試した交通系アプリは経路を示さない」という、少しハードな旅路です。

バスを降り、早川に架かる橋を渡ってレストランのある集落へ。橋上では澄み渡る空、色づく山々に垂れ込める雲、悠々とした清流を目に、しばし時を忘れました。集落に入ると道中の畑は電気柵に囲まれ、すぐ近くに野生鳥獣が暮らしていることが分かります。

「ジビエミニレストランYAMATO」は、肌を滑らかにすると評判の日帰り湯・草塩温泉の目の前。木を基調とした開放的な構えです。

「遠い所、よく来たね」と迎えてくれたのは望月 秀樹さん。相棒はフライパンとライフルという“料理人×猟師”で、曾祖父の代から続く生粋のハンターです。年間約400頭の鹿を捕獲したこともあり、提供する肉は自ら調達。狩猟から解体、保存まで流儀を持ち、望月さんが代表を務める早川町ジビエ処理加工施設YAMATOは山梨県のお墨付きである「やまなしジビエ」のトップランナーとして第1号に認証されています。

「幼い頃から父と狩りに行き、私はとにかく鹿肉を食べることが大好きでした。やがて犬で追ったり、罠で捕まえたりして疲弊させるよりも、食事や睡眠中のリラックスした時に一発で仕留めるほうが肉も旨いと分かりました。それからはもっぱら単独猟です」

山を知り尽くした今は鹿の足跡をたどらなくても「この季節、この時間ならあの沢でドングリを食べているはず」「寝床はあの尾根だろう」などと判断できるように。また、県のガイドラインでは止め刺し(とどめを刺すこと)から2時間以内に処理施設へ運ぶよう定めていますが、望月さんは1時間以内に解体を始めることを信条としています。

「仕留めた鹿を車に運ぶ最短ルートも計算しますね。解体も累計1000頭を超えた頃から1頭につき15分でさばけるようになりました。巷では熟成肉が人気ですが、私は手早く真空パックにしてマイナス40度で瞬間冷凍します。鹿肉の風味を残すための実体験に基づく手法でしょうか。肉を包むフィルムもまた、厚手の素材を選んで冷凍焼けを防ぎます」

捕獲後の工程を進めるのは自身の店に隣接する「早川町ジビエ処理加工施設」。妥協なき肉は「やまなしジビエ」や「早川ジビエ」のブランド名で出荷され、望月さんも「ジビエミニレストランYAMATO」の厨房に立ち、自ら料理に仕上げます。

山の中にまで広がっていた畑が減り、鹿や猪が民家まで迫るように

「昔は山の中にも畑が広がり、鹿や猪よりも野鳥のほうが多かったようです」と望月さん。戦時中には毛皮の需要が高まり、父親からはタヌキやイタチを捕まえた話をよく聞かされたとか。やがて人口と共に畑も減り、鹿や猪の生息域が民家に近づいて農作物被害が顕著になったと言います。

「そもそも私は猪猟師で3カ月に50頭のペースで捕獲していました。後に昼も夜も餌を食べ続ける鹿の数が増え、基本的に夜しか行動しない猪は減っていきました。脂の厚さも以前は6cmほどあったのが半分程度になり、私も次第に鹿専門の猟にシフトしました」

捕獲数を競った以前とは異なり、今は「使う分だけあればいい。無くなったら山に入ればいい」との考え方に。そして大好きな鹿肉の美味しさを伝えようとレストランを開きます。

自家製のフキ入りタルタルソースを絡ませ、地場産の「武川米」と共にいただく「鹿焼肉定食」

望月さんの鹿肉をダイレクトに味わいたくて、150gの赤身を堪能できる「鹿焼肉定食」(1,980円・税込)を注文。許可を得て厨房をのぞくと、みずみずしい肩肉のスライスがフライパンの上に並んでいました。

「肉にくせがあればハーブを多用したり、ソースを濃くしたりするでしょう。対して私の鹿肉は塩と胡椒で味を調えるだけで十分です。調理といっても中火と強火を使い分けるだけなので……なかなか記事にしにくいですよね(笑)」

運ばれてきたのは白米とスープとのセット。それぞれが主役級で、ごはんは車で1時間ほどの北杜(ほくと)市で収穫された「武川米」。一度は姿を消しながらも、再注目されて息を吹き返したという“幻の米”です。優しい味のスープもまた、鹿の骨からじっくり7時間以上かけてだしを取っていて、望月さんは体調のすぐれない日にはお茶漬けにするとか。

鹿肉に添えられていたのは、千切りキャベツと、フキのピクルスを和えたタルタルソース。さっそく肉でキャベツを巻き、ソースをまとわせ、武川米にのせていただきます。

くせのない肉、こくのあるタルタルソース、シャキシャキとしたキャベツ、フキのアクセント……ひとかみごとに変わる食感や味わいが面白く、ふっくらと甘い米が上手にまとめてくれます。気取らず、ほっとできるジビエ料理です。

熱々の肩肉がごろり。郷土みその汁がとろり。滋養たっぷりの「鹿ほうとう」

せっかく遠くまで来たのでもう一品。甲州を代表する郷土料理をベースにした「鹿ほうとう」(1,980円・税込)には、ごろごろとした肩肉や、地元産を中心としたダイコン、カボチャ、ニンジンなどがふんだんに入っています。

「味付けには早川町などで取れる大豆・あやこがねで仕込んだ無添加の『白鳳味噌』を使っています。こちらにも鹿骨のスープを使っていて、他ではなかなか食べられないひと品だと思います」と望月さん。

湯気の向こうには山々が見え、鳥がさえずり、箸が止まることもしばしば。木々の風情を感じながら、肉をつまむと、煮込んだ牛すじのように柔らかく、繊維がほろほろと崩れます。熱々の肉の塊をそのまま頬張るのが王道ですが、さじで汁と野菜をすくい、崩した肉片を添えていただくのもお勧めです。

さらに、とろっとした汁が肉のかけらを伴って幅広の麺に絡み、口の中で地場産みその風味がふわりと広がります。至福のひとときをかみしめながら、気付けばまた山に目をやっていました。

「鹿への感謝も込め、捕獲した全ての鹿の肉は必ず味見をします。また、余った部位も大切に、ワンちゃん用のおやつなどにして提供しています。正直、人間のお客さまよりも多いかもしれません(笑)」

起伏に富んだ地形が赤身メインの鹿を育む。鹿が報われるために、今後も美味しさを求める

「早川町の山は傾斜がきつく、鹿は運動量が豊富です。長野県や北海道でも狩猟経験がありますが、特に早川の鹿は険しい土地で踏ん張っていることもあり、爪が削れて平らになっていますね。だから赤身が多く、肉本来の旨さを感じられるのだと思います」

望月さんの技術と知識を学ぼうとする人はいても、狩猟のみ、解体のみと一部の工程に限られ、全てを託せる後継者はまだ現れていないとのこと。

「自分と同じようにするのは難しいかな。狩猟、運搬、解体、加工を一人で担うのは肉体的にも精神的にもつらいです。加えて私は捕獲した各個体の年齢、性別、体重、仕留めた場所と日付、弾が当たった部位、解体を始めるまでにかかった時間などを記録・公開しています。ここまで引き継いでくれる人はなかなか見つかりませんよね」

しかし、その手間が「次はメスの肉を試してみよう」「年齢で調理法を変えるのも面白い」などとファンの喜びにつながるとか。その中には人気のシェフもいます。

「父から継いだ狩猟の技術を私なりに昇華させ、早川町のブランディングに微力ながら貢献してきました。今まで続けてきた好きなことをそのまま追求するつもりです。皆さんが美味しく食べてくれれば鹿も報われるので、私はそのための研究と努力を重ねるのみですね」

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