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鹿肉や猪肉と甲州ワインのペアリングが秀逸。短大講師が営む「ジビエ&ワイン ブラッスリー山梨」山梨県甲府市

山梨県 フレンチ 居酒屋 ハム 燻製 シカ イノシシ
2023.11.30

富士山などに囲まれた盆地にある甲府市。この土地では昔から、山々に暮らす野生動物の肉を貴重なたんぱく源とし、郷土の味噌と合わせた鍋料理などで食してきたようです。そんな古今東西の食文化やフランスの美食学・ガストロノミーを研究する、短大の専任講師がジビエのブラッスリーを開いていると知り、信玄公祭りの余韻が残るJR甲府駅に降りたちました。

駅の南口を出て県道6号を進み、甲府市役所を過ぎて左折。やがて右側に見える錦通りに入ると、ビルの中に約30の個性豊かな小料理屋やスナックが軒を連ねる「甲府ぐるめ横丁」が見えてきます。

橙色ののれんをくぐると心地よい喧騒に迎えられ、その一角に目的地の「ジビエ&ワイン ブラッスリー山梨」を見つけました。両開きの扉を抜けた先はカウンターをメインにした全12席のコンパクトな空間。さっそく店主の鈴木 耕太(すずき こうた)さんに話を伺いました。

鈴木さんは元フレンチシェフで、現在は山梨学院短期大学の食物栄養科に専任講師として勤務。昼間は栄養士を目指す学生に調理の基本や応用、食文化論などを教えています。

「生まれ育った山梨県内や都内のフランス料理店を経て、腕を磨くために渡仏しました。世界遺産の古城が点在するロワール地方の一つ星レストランなどで厨房に立ち、猪や鳩の肉に濃厚なソースを添えるという伝統的な技法を学ぶ中、すっかりジビエの魅力にはまりました」

帰国後も日本各地の猪肉や鹿肉を試す中「やっぱり地元産が最も自分の料理に合う。山梨のジビエは山梨で調理するほうが旨いだろう」と気付き、この地に店を構えることに。さらに、自身はソムリエの資格を持つため、同じく郷土が誇る甲州ワインとのペアリングを堪能してもらおうと、駅から徒歩圏内であることを物件選びの条件にしました。

「私は雑多な雰囲気が好きなので“横丁”に決めました。フランスで教わった調理法も豪快そのものであり、店で提供している料理の中には手づかみが似合うものもあります。どうか気取らず、思い思いに過ごしてほしいですね」

 

甲府周辺はジビエの宝庫。地形や候、加工業者によって肉質が変化するのがおもしろい

鈴木さんの祖先は、さかのぼること戦国時代には山梨に住んでいたとか。そして当時から米や野菜だけでなく、野生動物を食べる習慣があったと言います。

「私も生まれた時から、食卓には近くの野山で捕獲された小動物や鳥の肉料理が並んでいました。庭には食用のヤギが飼われていましたね。最近になってジビエという言葉が浸透しましたが、我々からすると『たまたま獣害対策で有名になっただけ』という認識です」

実際に山梨県では、年間1億円程度の農作物被害が生じているとのこと。また、若い樹木の皮が食べられてしまうなど、森林もダメージを受けているようです。

「猟師のおかげで獣害は減っているものの、過疎化が進む地域では反比例するように鹿の数が増えていると聞きます。また、今年は人が熊に襲われたという報道が後を絶ちませんが、つまり彼らが口にする植物が不足しているのでしょう。同じく鹿や猪も食べ物に困っているはずなので、より警戒が必要になるかもしれませんね」

なお、甲府周辺には複数の食肉処理施設があり、それぞれで味わいが異なるのもおもしろい、と鈴木さん。仕入れ先は富士河口湖町、北杜(ほくと)市、早川町などにあり、例えば前者二つは加工業者のつながりが深いことから、肉質も似ていると言います。

「地形や気候も影響するでしょう。急斜面の多い早川町の鹿は運動量も豊富で身が引き締まる傾向にあります。また、山梨は降水量が少ないため風味が濃く、逆に雨の多い静岡県・伊豆地方の鹿はあっさりとしています」

 

鹿肉の燻製と猪肉のハムに、甲州ワインを合わせて――

カウンター席に座ると、鈴木さんが出してくれたのは自慢の2皿。

まず、こんもり盛られた「鹿肉の燻製」(840円・税込)は店の定番メニューで、主役は解体後に廃棄されていたあばら骨。ソミュール液(調味料やスパイスなどをブレンドした塩水)に浸し、桜のスモークチップでいぶしながら香りをまとわせ、内部まで加熱していきます。

「希少ですが、可能な限り富士山麓に自生する桜の間伐材のチップを使います。どうぞ本能の赴くまま両手でつかみ、骨の周りの肉を前歯でかじり取って、旨味と薫香を感じてください」

ペアリングに勧めるのは「モンデ酒造 メルロ&ブラッククイーン」(グラス1870円)。甲府市の隣にある笛吹市のワイナリーによるもので、自社栽培のメルロ種が持つ果実感とブラッククイーンの酸味が野性的な肉の味わいを引き立てます。

そして、もうひと品が「イノシシのハム、桃酢のピクルス添え」(840円・税込)。

猪肉は山梨で人気が高く、子ども会の集まりなどでも「しし鍋」がふるまわれたりするとか。捕獲されてもなかなか市場には出回らず、猟師との関係性の構築が大切なようです。

「こちらは塩漬けにし、同じく軽くいぶした後に真空調理を施します。たんぱく質が凝固しないよう低温でじっくり加熱するので、肉へのストレスが少ないことがポイントですね。水分も逃げず、しっとり仕上がります」

添えてあるのは、取材時に旬を迎えていた柿のピクルス。山梨の特産である桃から作った酢で甘みを抑え、猪肉の脂でこってりとした口の中にさわやかな香りが広がります。

「果物などを食べる猪の肉は、秋は柿とのマリアージュが最高です。また、木の実を好む鹿の肉にはブルーベリーなどのソースを合わせたいですね」

ワイルドな猪ハムには「穂坂三之蔵 ルージュ2018」(グラス1870円・税込)を。甲府から北西にある韮崎市のワインで、複雑な香りと力強い味わいが特徴です。さらに、お手頃ながら「笛吹ワインプレジールver3」(グラス600円・税込)も、二つのジビエ料理と試す価値があると言います。

「仕事柄、私は学会などにもよく足を運び、先日も分子レベルでペアリングやマリアージュを研究している方々の話を聞きました。今はまだ、この領域は人間の味覚や嗅覚が頼りですが、いずれAIが多くを解明するでしょう。食材と食材、食材とワインの新たな組み合わせが発見されていくことが楽しみですね」

信玄公祭りと時を同じくして、勤務先の山梨学院短期大学では学園祭である樹徳祭を開催。鈴木さんも学生と共に鹿肉のカツを提供したところ、来場者に大変好評だったようです。ジビエに関心を持った若者が、テクノロジーを駆使して新たなひと皿を生み出す未来も期待できます。

  • ジビエトの掲載店舗は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づいた仕入れ、加熱調理等がされていることを確認しています。
  • 掲載内容は取材時のものです。営業時間などの最新情報はお出かけ前に各店舗の公式HP等にてご確認ください。
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